36 魔塔 下
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
私とロブ兄さまの激しい魔法対決により、王都の四分の一が焼失。
回復したお父様から、「お前を王太子にはしない」とロブ兄様は宣言され、辺境を守る領主として、モリノー領へ送られた。
私は蟄居を命じられる。
サファ様が亡くなった王家の森には、大昔の大魔女が建てた魔塔があった。
そこは魔力も封じられ、勝手に外に出る事は出来ない。
その魔塔で私は暮らしていく事になった。
結局、チャーリー兄さまは隣国のナリス王女を妻に迎えることを、両国王に許され、王宮へ戻った。
そして、王宮に戻るなり、チャーリー兄様は王家の森にある私の所へ足を運んだ。
その頃、私は亡くなったサファ様との赤ちゃんがお腹にいると分かり、漸く深い悲しみから抜け出せたところだった。
「ルー、本当にお詫びの言葉もない。何と言っていいのか、僕は一生を駆けて、君に謝罪したい」
「チャーリー兄さま、サファ様が忠誠を誓い、命を懸けてお守りしたのです。そのような謝罪は不要です」
「いや、謝らせてくれ、そのお腹の赤ちゃんを彼は抱くはずだったんだ。そして、ルーを僕はこの先も悲しませるかも知れない」
「悲しませる?」
「僕とナリスにはもう子が望めない」
「え、、、」
チャーリー兄さまの突然の告白に頭が真っ白になる。
「ナリスに僕の子が宿っていると知り、大きな騒動を起こしてまで、ブカスト王国へと僕は向かった。だけど、彼女に宿った子はこの世に生まれることが出来なかった。医師によれば、子供の魔力に母体が絶えられなかったのだと」
私の背中に嫌な汗が流れる。
「ルーの子を僕たちの子として育てさせてくれないだろうか?」
私はショックで声が出なかった。
その後、チャーリー兄さまが何を話したのか覚えていない。
塔の裏のサファ様の墓前に花を飾り、祈りを捧げる。
「私たちの子供をチャーリー兄さまとナリス様が育てたいというの」
私とサファ様の愛の結晶である愛し子を、、、。
自然と溢れ出た涙が頬を伝う。
その時、クルリと温かい風が私を撫でた。
まるでサファ様に抱きしめられたかのように。
「サファ様、いるのでしたら姿を見せて。寂しいわ」
私が呟くとまた温かい風が吹いた。
その日から、まるで側にサファ様がいるかのような現象が、身の回りで増えて行く。
奇跡の様な出来事で、段々と私の心は落ち着きを取り戻していった。
しばらくして、チャーリー兄さまはナリスさまと一緒に私のところへ来た。
「初めまして、ナリスと申します」
「私はルーシーです。こんな所まで遊びに来て下さり有難うございます」
褐色の肌に大きな目のナリス様は弾ける様な笑顔が印象的で、例えるなら太陽のようなお方だった。
サファ様を感じる生活のお陰で、落ち着きを取り戻していた私は今回、穏やかな気持ちで二人と対面している。
「ルーシー様、先日チャーリー様が不躾なお話をしてしまい申し訳ございませんでした」
ナリス様が悲痛な面持ちでお詫びを口にする。
「ええ、驚きましたが、ナリス様がお謝りにならなくても宜しいのでは?」
「いえ、チャーリー様は私を庇おうとなされたのです。ルーシー様、もう大丈夫です。わたくしは側妃を迎えることに決心がつきました」
先日とは違ったショックが私を襲う。
チャーリー兄さまは前回この話をしたのかもしれないけど、あの時、私はあまりにもショックで全然話が耳に入って来なかった。
愛する人が側妃を迎える。
私には無理。
どうしたらいいと思う?サファ様。
私が問うと、フワッと頬に口づけをされたような気がした。
ねぇ、私たちの愛し子を託してもいいと思う?
次はギュッと抱きしめられるような感覚がした。
よし、決めた。
「ナリス様、チャーリー兄さま。良く聞いてください。側妃のお話は一旦保留してください。そして、ナリス様は今すぐご懐妊されたことにしてください」
私の言葉を二人共驚いた顔をして聞いている。
「お二人共、口が開いていますよ」
ふふふと私が笑う。
「本当にいいのか?」
チャーリーお兄様が身体を乗り出して、聞いてくる。
「ええ、サファ様と相談して決めましたから」
また私の返事を聞いて驚く。
「サファと、、、」
ナリス様は手で顔を覆われた。
側妃の話はさぞお辛かっただろう。
「チャーリー兄さま、一つお願いがあります。私の子は必ず大切にして下さい。そしてお二人の子として愛情を込めて育てて欲しいです」
「分かった。必ず約束する。他に願いはないか?」
「ええ、無いです。私はこれからもここでサファ様と穏やかに生きて行きますから」
それから六か月後、私は元気な男の子を生んだ。
私に似た銀髪で紫の瞳の男の子を。
チャーリー兄様とナリス様はその子をサファルと名付けた。
サファルは二人の愛情を受け、明朗活発な子に育った。
また、その頃、王都では魔法使い不要論という偏った思想が流行り出した。
恐らく私とロブ兄さまが王都を焼失してしまったことが発端で。
「ルーシー、面倒を掛けるがここにブカスト王国の王都への転移ポイントを作ろうと思う」
「逃がすのですね」
「ああ、身の危険を感じる者たちを魔塔で管理するという施策を打ち出す。希望する者はここから隣国へ逃がす。ブカスト王国には了承を貰っている」
「分かりましたチャーリー兄さま。魔塔で請け負います」
「よろしく頼む」
私は自分の生命が尽きるまで、ブカスト王国へ逃げたいという魔法使いのお世話に明け暮れた。
そして、天に召されるその日、サファルとここで再会し、そのままずっとこの塔で過ごしている。
いつか二人で天に昇らなければならないのだろうけど、その日が来るまでは一緒にいるつもりだ。
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