3 ケイトの恋
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
キャロルはマクスに領地の厳しい経営状況と、それを改善するために新たな収入源となる商売を考えることにした経緯を説明した。
「領地の景勝地を『恋人の丘』と言う名の観光地に仕立て上げて、新名物として、百パーセント告白した相手から返事をもらえるという恋愛成就のラッキーアイテムの販売を始めたの。――――で、人気が出過ぎてしまって……」
「ふーん、それの何が問題なのかが、分からないんだけど?」
マクスはぶっきらぼうに言い捨てる。
「経費削減の為に恋愛成就のラッキーアイテム『天使のカード』の絵は私が描いていて……」
キャロルは間違いなくマクスに怒られる内容を口にしようとしたのだが……。
(うううっ、勇気が出ない。普段、穏やかな人ほど、怒らせたら怖いよね~、絶対……)
「キャロルが絵を描いている?はぁ~!一日何枚?」
マクスは何故か枚数を聞いてくる。――――まだ、キャロルの隠し事には気づいていないようだ。
「三十枚よ。一日限定三十枚、一人一枚ね。もちろん、代理購入は不可よ。念のため、購入者の名簿も作成しているわ」
マクスはキャロルの言いたいことが段々と分かって来た……。
(ああ、マクスの顔から表情が消えていく~~~~)
「マズいかな?」
「何でまたそんな余計な事を……。付与効果の程度は?」
「それは流石に……、告白すると必ず相手が真実を答えるくらいにしかしていないわ」
「キャロルが絵を描いていると知っているのは?」
「スージー女史と酒場の踊り子ケイトよ。二人共、私が魔法使いということは知らないし、もし気付かれたとしても口の硬い人たちだから、大丈夫だと思う」
突如、二人の間に沈黙が訪れる。
腕を組んだ状態でマクスは考え込む。キャロルは彼はどういう判断をするのだろうと緊張して待つ。
すると、急にマクスは立ち上がってドアへ向かい、廊下に控えていた侍女に「お茶を持って来て~」と頼んだ。
(何故、このタイミングでお茶を要求!?意味が分からないのだけど……)
そして、再び、彼はキャロルの向かい側のソファへ腰掛けた。カチカチカチと壁掛け時計の時を刻む音が耳に付く。
(やっぱり、怒られるのかな私……)
程なく、侍女がお茶とお菓子を運んで来た。
小さなブルーベリータルトがテーブルに並べられる。そして、侍女は紅茶を注ぎ終えると素早く部屋から出て行った。
(いつになくサッサと出て行ったわね~。――――もしかして、修羅場的な雰囲気を察された!?)
淹れたての紅茶を一口飲んでから、ようやく、マクスは彼女の目を見る。
「キャロル、その『天使のカード』のことだが、別に無理やり相手を自分に惚れさせるというわけじゃないのなら、何の問題もないと思うが……。だけど、おれを呼び出したということはもっと別の理由があるんだろう。誰かに勘づかれたのか?」
キャロルはゆっくりと頷く。
「コルマン侯爵家のカレン様に今日聞かれたの。どうすれば、アレは手に入るのかって……」
「(カシャロ公爵家)セノーラの右腕か……」
(マクス、カレン様のことも知っていたのね)
「そう。『恋人の丘』の場所と『天使カード』は本人にしか売ってもらえないようですと伝えたわ。――――だから、今後『恋人の丘』にセノーラ様が『天使カード』を買いに来たら、間違いなくマクスが狙われるのだろうな~と思ったの」
(ああ、マクス、物凄く嫌そうな表情……)
「それは・・・、困ったな。告白された相手は真実を口にするんだろ?おれ、セノーラから刺されるんじゃないか!?」
「本当に結婚すれば、何の問題もないのでは?」
キャロルはさりげなくセノーラを薦めてみた。現在、彼女は王太子妃候補ナンバーワンと言われている。だから、非現実的な話というわけでもない。
「いや、本当に無理だから!!一見、か弱そうにしているが、あれは間違いなく演技……。――――あの女ほど腹黒い奴はなかなかいないぞ!!」
「腹黒いなら王妃に向いていそうだわ」
「おれに結婚くらい夢を見させてくれよ」
心底嫌そうな顔で拒絶の態度を崩さない、マクス。
「うーん、それなら、効果の付いていない『恋人カード』をマクスに渡すから、上手く立ち回ってくれない?」
「キャロル……、おれに丸投げするのか!?鬼か!!いや、そんなことよりも……、お前分かっているのか?王族以外の魔法使いは一生魔塔暮らしなんだぞ!!今回のことで魔法が使えるって、世間にバレたらどうするつもりだ!?」
マクスが言う通り、この国では魔法使いは危険人物として、魔塔で厳しく管理される運命なのだ。
それ故、私は目立たずに生きて行くため、武闘派家門の娘なのに騎士を目指すことも無く、領地での静かな生活を選んだ。
両親と数人の王族以外は、私が魔法を使えるということを知らない。
「まさかこんなに流行るなんて思わなかったのよ。最初は、ケイトに勇気を出すお守りとして渡しただけだったのに……」
「へぇ~、どんなキッカケだったんだ?話してみろよ」
興味を持ったマクスに促され、キャロルは『天使カード』を作るきっかけとなった話を彼に語り始めた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
新しい事業を考えることになり、先ずは人々の困っている事を知りたいと、キャロルは領地で聞き込みを始める。
そこで出会ったのが、酒場の踊り子ケイトだった。
「ケイト、何か困っていることはない?」
キャロルは昼営業の終わった酒場へ足を運んだ。丁度、女将さんたちは休憩時間で部屋へ上がっていて、フロアに踊り子のケイトが一人で居たのである。
「キャロルさま~、あたしの悩み聞いてくれる?」
「ええ、良いわよ。話してみて」
「あのね、あたし今、恋しているの~」
(おっ!?恋バナ!!)
「ほう、それで相手は誰?」
キャロルはテーブルから身を乗り出して、彼女へ問う。
「いやーん、急かさないで!!あのね、出会いはこのお店ではないのよ」
「では、どこで?」
「先日、王都に遊びに行ったときに悪い男たちに絡まれたのよ。あ・た・し!!」
「絡まれた!?大丈夫だったの?」
「ええ、大丈夫だから、ここにいるのよ!それで、その時にカッコいい騎士様が通りかかって助けてくれたの~」
「何か……、物語みたいなお話じゃない!」
(私の求めている困ったことの話とは絶対違う気がするけど……。続きが気になるっ!!)
「そうでしょう?で、その騎士様から『貴方の綺麗なお顔に、涙が流れなくて良かった』って、言われたの」
(お、相手はかなりの手練れ?)
「それは……、素敵ね」
「そうでしょう?お名前も聞いたのだけど、あたしなんかがアプローチしても良いと思う?」
ケイトは上目遣いで聞いて来る。
「お名前を教えてくれたのなら、当然いいと思うわよ」
「あー!でも、勇気がでないのよ~~!!」
弱気なケイトは、両手で顔を覆ってしまう。
(あらあら、仕方がないわね。一肌、脱ぎますか!!)
「ケイト、紙とペンはある?」
「えっ、紙とペン!?ちょっと待っていて、取ってくるわ」
ケイトは、慌てて酒場の二階へ駆けあがって行く。そして、直ぐに息を切らして戻ってきた。
「あのね、これしかなくて……」
彼女はハート型のコースターとペンを差し出した。
「ええっと、これに何か書いても大丈夫?」
キャロルは念のために確認する。
「大丈夫よ。キャロルさま、何をするの?」
「うーん、見ていて」
コースターの裏にキャロルはササ~ッとペンを滑らして、天使の絵を描いた。
そして、指先で絵をトン、トトンと叩く。
(よし!これでオッケー!!)
「出来たわ」
キャロルは絵を描いたコースターをケイトに手渡す。
「コレはね、我が家に伝わるおまじないなの。身につけていれば、ケイトの願いを後押ししてくれるから、勇気を出して、アプローチして来て!」
キャロルの話を聞いて、ケイトの目が輝き出す。
(おっ!?やる気が出て来たのかな。ケイト、上手く行くと良いわね!!)
「キャロルさま!ありがとう」
満面の笑みで、ケイトはキャロルへお礼を告げた。
――――さて、恋の行方や如何に?
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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