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ソベルナ王国の魔法使い(魔法使いの元男爵令嬢はハイスペ王太子を翻弄する)  作者: 風野うた
第一部 その願い100%叶います!(天使カードに軽い気持ちで魔法付与をしたら大変な事になりました)
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27 職人気質

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 久しぶりの友人は、前回のお茶会の時よりも丸みを帯びていた。


 「マリアー!また何というか、グラマラスになったわね」


「キャロル!!それは私のペットの“ヒレ”よ!ワザと言っているでしょ!」


横で真っ赤な顔をして怒っているのは、メルク男爵家の一人娘、お菓子が大好きなマリアである。


「ブフッ!!キャロル、失礼だろ」


注意しながら、自分も笑っているじゃん!マクス。


「殿下!もっと言って下さい!キャロルはいつもわたしを揶揄って、弄ぶんです!!」


「ぶ、豚の“ヒレ”って、、、。フッ」


あー、ダメだなこりゃ。


マリアの愛豚“ヒレ“が、マクスの笑いのツボにハマった。


笑いを堪える為、下を向き震えるマクスの様子を、マリアは微妙な表情で見ている。


流石に王太子にはキレないのね。


「あー、ごめんなさい。マリアはそっちだったのね。で、何で豚をペットにしようなんて思ったのよ」


「可愛いじゃない!最初はこんなに小さかったのよ」


マリアは自分の手の平を指差す。


「かなり肥えたわね」


私は感想を述べた。


「ブファ!もう無理だ!ハハハハハ」


マクスの我慢は限界に来たようで、開き直って大声で笑い出す。


「殿下!笑わないで下さい!!」


あ、とうとうマリアがキレた。


 

 私達はメルク領にある二つ目の転移ポイント、祈りの滝を探るため、まずメルク男爵家を訪ねた。


アポ無しで来たことを執事に伝えたにも関わらず、すんなりとマリアの部屋へ案内される。


で、部屋に入ると、そこそこに大きな豚が目の前に現れて、この様な状況になった。


本音で言うなら、目の前の豚の“ヒレ“は、穏やかで人懐っこくて可愛い。


私は単にマリアを、揶揄っただけである。


ひとしきり笑い倒したマクスは、顔を上げ背筋を伸ばしたかと思うと、突然、王太子モードに切り替わった。


「マリア嬢、急に訪ねてしまい申し訳ない。キャロルと聖地巡りをしていたんだ。メルク領にある祈りの滝という聖地に行きたい。是非、場所を教えて欲しい」


マクスは爽やかな笑顔で、マリアを見つめながら、心地よい声で話し掛けた。


え、誰?ってくらい切り替わるから凄いわよね、マクスは、、、。


ほら、マリアも豚ネタで笑い飛ばされていた事を、すっかり忘れた顔になっているわ。


「ええ、祈りの滝は存じております。キャロルと行くのですか?」


「ああ、そこでおれの愛を誓お、、ムグっ!」


私は目にも留まらぬ速さで、マクスの口を塞いだ。


「キャー!!素敵!!」


マリアは叫び声を上げ、両手で両頬を押さえて悶える。


あー、最悪。


マクス、悪ノリし過ぎ。


私は心の中でごちる。


「キャロルー!愛されているのね。殿下、キャロルを宜しくお願いいたします」


マリアが私の背中をバンバン叩いてくる。


もう、どうしたらいいのよ。


「では、マリア嬢。道案内をお願いしたい」


「ええ、勿論、喜んでご案内いたしますわ!!」

 

マクスとマリアは、笑顔で祈りの滝へ一緒に行く約束をした。




 祈りの滝というのは、メルク領と隣国のブカスト王国のヴァッハウ領との国境線の上を流れるメズール川にあるらしい。


マリアの家から、馬車で片道ニ時間ほど掛かるという。


出発は馬車を準備するため、一時間後になると告げられた。



 少し時間が出来たので、マリアとマクスと私の三人で邸内の庭園を散策する事にした。


「マリア、男爵様はお留守なの?」


「あー、お父様?居るわよ。会う?」


「何だ、男爵は居るのか?是非会いたいのだが」


「では、こちらへどうぞ」


 

 マリアは庭園の横にある煉瓦造りの建物へと私達を誘導した。


近付くとかなり大きな建物だった。


「ここは倉庫か何かなの?」


私はマリアに質問した。


「えー、キャロルには話した事が無かったのかしら、うちの領はお酒を作っているのよ。ここは貯蔵庫なの」


マリアは私の質問に答えながら、スタスタと建物に入って行く。


私達も後に続いた。


「お父様ー!何処に居ますかー!」


マリアが叫ぶ。


「マリアか、ここだ。ニ階の十年のあたりだ」


中へ入ると、建物の中心は吹き抜けになっていて、螺旋階段があった。


壁沿いにおびただしい数の樽が並んでいる。


ひんやりとした空気が頬を撫でる。


どこからか木の良い香りも漂って来た。


「分かったわー!お客様を連れてそこに行くから動かないで」


「ああ、分かった。気をつけて上がって来るんだよ」


男爵の優しそうな声が、貯蔵庫に響く。


マリアに付いてニ階へと螺旋階段を上る。


「十年の辺りって、どういう意味なの?」


「貯蔵年数じゃないか?」


「はい、正解です。長く寝かせるものは奥に置いてあるのです」


マリアは樽の棚で作られた通路を真っ直ぐ進み、左に曲がって、また右に入った。


「お父様、お友達のキャロルと殿下を連れて来たわ」


「はっ?殿下!?」


男爵の驚愕した声が、貯蔵庫へ響き渡る。


いや、マリア、男爵の反応が普通なのよ。


あなたは肝が座り過ぎだわ。


「急に訪ねて申し訳ない。実はお忍びで妻と聖地巡りをしていてね」


「で、殿下、この度はご成婚おめでとうございます。この様な場所で大変申し訳ございません」


深々と頭を下げて動かない男爵。


マクスは男爵の肩をポンポンと叩く。


「いや、立派な貯蔵庫で驚いたよ。この樽の山は、迫力があるね。メルク領がワインの産地で、そのワインは品質も良く有名だとは知っていたけれど、男爵が邸宅内に保管庫を構えて、自ら管理までしているとは知らなかったよ」


「ありがとうございます。この樽の山はメルク領の宝ですから、天災などに遭わないよう安全な場所を選び、領内に五箇所ある貯蔵庫の管理は我が家がしております」


「メルクのワインは大切に管理されているんだね」


「ええ、厳選管理したワインにのみ、メルク領の商標が付いたラベルを貼っています」


謀反をしているかも知れないリストに上がっていたという割には、真面目そうな職人気質の男爵で、違和感がある。


今のところ、良い人にしか見えない。


「ところで男爵、対岸のブカスト王国ヴァッハウ領とは、どんな感じなんだ?率直な意見が聞きたい。王宮じゃないからな、忖度は要らない」


男爵は穏やかな笑みで、マクスの質問にこう答えた。


「殿下、ではワイン職人の独り言としてお話ししますので、聞いていただけますか?」


「ああ、分かった」


「ヴァッハウ領とメルク領は、昔から共同でワイン作りをしています。そこに国籍は関係ありません。ご存知かと思いますが、私の母はブカスト王国の出身です。ヴァッハウ領の南にあるサパン領の男爵家の娘です。サパン領は貴腐ワインという糖度の高い特殊なワインの産地でして、私の父と母はワインの品評会で出逢ったそうです」


「なるほど、ワイン作りで縁があったと」


「そうです。北の方の国境は、ピリピリしているようですが、この辺りは仲良くしていますよ。ソルベア王国であろうと、ブカスト王国であろうと私達の付き合いは特に変わりません」


「率直な話をありがとう。出来ればソルベア王国に、メリットを感じて欲しいのだがな」


マクスが苦笑する。


「デメリットなら、少し横暴な方が、流通を牛耳っているようです」


「お父様!?」


男爵の際どい発言をマリアが止めに入る。


「マリア嬢大丈夫だ、おれは今、ワイン職人の独り言を聞いているだけだ」


誰の名前が飛び出すのか、心臓がバクバクする。


「ローデン伯爵です」


母上の故郷じゃない!!


「それは、何処からの情報だ?」


「ハーデン子爵からです。ローデン伯爵はメルク産の白ワインの流通を阻害していると」


「男爵、ローデン伯爵領は赤ワインで有名な産地だ。メルク領の白ワインとは競合しないのではないか?」


マクスの返答で、男爵の勢いが止まった。


「ハーデン子爵とは、何処で知り合った?」


確かに領地が近いという事も無いし、マクスは良いところを突いてくる。


「ボルドー男爵の紹介です。ボルドー領から私達は乳製品と小麦を仕入れています。そして、ハーデン領へは白ワインを販売しています」


「なるほど、分かった。この件は、おれが責任を持って確認をし、報告をするから、人伝の予測で話をするのは、ここで終わりにしよう」


「はい、承知いたしました」


男爵から先程の勢いは消え、また最初の落ち着いた雰囲気に戻った。


ボルドー男爵とハーデン子爵って、バリバリのスパイファミリーじゃん。


こういう職人気質の領主を騙して、謀反の矛先にしている可能も出て来たよね。


私が言うまでもなく、マクスは勘づいているのだろうけど、、、。


「妃殿下、いつも娘と仲良くして下さりありがとうございます」


唐突に男爵からお礼を言われ、ビックリした。


「いえ、マリアはとても愉快なお友達ですから、、、」


「キャロル!愉快って何よー!」


「コラコラ、妃殿下に失礼だよ、マリア」


マリアの態度に男爵が慌てる。


「男爵、この二人はコレが通常運転みたいだぞ。不敬には問わないから心配しなくていい」


青褪める男爵へ、マクスはフォローを入れた。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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