20 ブカスト王国の砂漠化を防げ 18 父と子の約束
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「本当に忘れていたわ・・・」
キャロルはアメリアの一言で何故、執務室へ来たのかを思い出した。そして、彼女と同じくハラスも。
「キャロル様、エドも来ていませんし、何か起こったのかも・・・」
ハラスは今頃気付いてどうするんだと自分にツッコミを入れるしかなかった。一日中、片付けのことばかり考えていた自分を殴りたい。
アメリアは少し考えてから、キャロルたちに一つの提案をする。
「騒ぎになっていないということは、秘密裏に何かを進められている可能性もありますね。キャロル様、殿下の所在をお知りになりたいのでしたら、陛下にお聞きになられることをお勧めいたします。殿下には二十四時間体制で影が付いていらっしゃいますから、陛下なら把握しておられる可能性が高いかと・・・」
「影・・・、二十四時間。そうね、陛下なら影からマクスの居場所を聞いているかも知れないわね」
(影といえば、リューデスハイム領でお世話になっているコルトーとジェイくらいしか知らないけど、当然、他にもいるのよね)
「アメリアさん、教えてくれてありがとう。早速、陛下のところへ行ってみますね」
「はい」
アメリアは優しく微笑んだ。そして・・・。
「私は総務部へ戻ります。また人手が必要な時はお呼び下さい」
「アメリア嬢、とても助かりました。ありがとうございました」
ハラスは自然な動きで礼の姿勢を取る。それに対して、彼女も優美な所作でカーテシーを披露し、二人は微笑みを交わす。
一部始終を見ていたキャロルは密かに息をのむ。
(二人とも紳士と淑女の礼を自然に交わしていて素敵だわ~。幼いころからマナーを学んでしっかりと板に付いているのね。この歳になって必死に詰め込み授業を受けている私とは大違いだわ)
「では、お先に失礼いたします」
――――アメリアは軽い足取りで、総務部へ戻って行った。
「キャロル様、陛下のところへ行かれますか?」
「ハラスはどうするの?」
「同行いたしましょうか」
「では、お願い」
話がまとまり、ハラスは執務室の戸締りを急いだ。
♢♢♢♢♢♢♢
一応、国王陛下に先触れを出したところ、早々に『いつでも大丈夫』という回答が返って来た。
というわけで、キャロルとハラスは廊下を歩いて、陛下の執務室へ向かっている。
マクスの執務室は中央棟の左端にあり、陛下の執務室は同じく中央棟の右端だ。二つの執務室は近いようで遠い。
これは防犯を考えて、こういう配置になっているとハラスが教えてくれた。軽く雑談をしながら進んでいると向こう側から突然、見知った顔が現れる。
「キャロル姉様~」
彼はキャロルを見つけると、手を左右に大きく振りながら走り出した。
「リチャード殿下ですね、今日はどんな面倒事を持って来られるのでしょうか・・・」
隣からハラスがため息まじりにボヤく。
「――――色々と大変なのね。今度詳しく教えて・・・」
キャロルは視線をリックに向けたまま、ハラスへ返事をした。
「ええ、是非聞いて下さい!」
ハラスはつい語尾に力が入ってしまう。今までにリックが起こした数々の事件(悪戯)が脳裏を駆け巡る。
「キャロル姉様~、何処に行くの~?」
走り込んで来たリックはそのままの勢いでキャロルに飛びついた。元気の良い弟ジャンでこういう状況に慣れているキャロルは難なく彼を受け止める。
「リック、廊下を走ってはダメよ~!」
周りの者が誰も注意しないので、キャロルはリックに苦言を呈す。
「えー、だって~、キャロル姉様に早く近づきたかったから~」
「私は逃げたりしないわ。次からは歩いて来てね。や・く・そ・く・よ!」
「はぁ~い!」
ハラスは驚いた。聞く耳を持たないリックがキャロルの注意を素直に受け入れたからだ。
「質問の答えだけど・・・、私は陛下のところへ行くのよ。リックは何処に行くの?そろそろ夕食の時間でしょう」
「うん、ご飯の前にトッシュ王子に会いにいくんだ」
「あら、トッシュ王子とお友達になったの?」
「うん」
「良かったわね!」
リックは笑顔で頷く。
「あ、そうだ!!キャロル姉様、少し屈んで!」
(ん、屈む?――――うわっ!)
キャロルが直ぐに屈まなかったため、リックは彼女の肩を前に引っ張った。
「あのね~、探している玉を見つけたんだ。兄様に伝えておいて!!」
「えっ!?」
(玉って、もしかして龍玉のこと?何でリックが知っているのー!?)
キャロルの耳元へ囁き掛けた後、リックはピョンピョンと飛び跳ねながら、離宮の方へ走って行った。
「――――捕獲するべきだったかしら・・・」
「クッ、ブッ、アハハハッ」
ハラスが隣で噴き出す。
「キャロル様、淑女の仮面が落ちています!」
彼に指摘され、キャロルはジト目でリックが走り去った方向を見つめていたことに気付いた。
「ああああっ~!!――――もう、恥ずかしいわ~。ハラス、指摘してくれて、ありがとう」
キャロルは両頬をパチパチパチと手のひらで叩いて表情を整える。
「ヨシ!!気分を切り替えて、陛下の所へ急ぎましょう」
「フフフフッ、そうですね」
二人は再び、国王の執務室に向かって歩き出した。
♢♢♢♢♢♢♢
「え、なんで!?マクス・・・」
陛下の執務室のドアを向こう側から開いてくれたのはマクスだった。
「殿下、何処に行っていたのですか?」
冷静に彼に問うのはハラスである。キャロルはまだ茫然としていた。
(ここに居るということは、どこか遠くへ行っていたというわけではないということ?じゃあ、何故、部屋へ帰って来なかったの・・・)
ポロリ、ポロリ・・・。キャロルの大きな瞳から涙が零れ始める。
「キャロル・・・」
マクスは彼女の涙を親指で優しく拭う。
「おれが帰らなかったから、心配したんだろう?」
彼女は大きく頷く。
「この一晩はちょっと・・・、おれの人生で一番の危機があって・・・。詳しく説明するから、中に入ってくれ」
彼はキャロルの肩を抱いて部屋の中へ入ろうとしたところで一度立ち止まり、ハラスに『ここから先は控えてくれ』と視線で伝える。
「殿下、私はお先に失礼します。お疲れさまでした」
「ああ、お疲れ様。また明日もよろしく頼む」
「はい」
ハラスはマクスの顔を見て安心し、もう一人の相棒エドモンドもきっと王宮の何処かに居るはずと勘違いしたまま、帰途についた。
♢♢♢♢♢♢♢
陛下はキャロルが涙を流しているのを見て、マクスへ視線を送る。――――『私はここに居ていいのか?』と。
マクスは『勿論です』と、テレパシーで返す。
何故なら、まだマクスは国王に報告をしていないからだ。マクスが神妙な面持ちで口を開きかけたら、外から警備兵がキャロルの訪れを告げたのである。
三人はソファーへ腰を下ろした。意外なことに一番初めに口を開いたのは涙声のキャロルである。
「マ、マクス・・・、人生で一番の危機って、何」
マクスは彼女に何から説明したら良いのだろうと少し考える。
過去から戻る前、マクスとアレックスはひとつの約束をした。
『初代皇帝アレックスが実はマクスとキャロルの子で彼は未来から来た』――――この真実は二人だけの秘密にしよう、と。
そのため、アレックスは未知の世界から来て、本人も過去の記憶が曖昧という設定で行くということにした。どこまでこの設定で乗り切れるかは分からない。だが、キャロルやサンディーには出来るだけ隠し通すつもりだ。
「(キャロルなら自分の子が消えてしまうと知ったら、あらゆる手を使って阻止しようとするだろう。――――多分、彼女はそれを実現するだけの力を持っている・・・)」
サンディーにも隠しておこうと決めたのはアレックスだった。
『まさか、大魔女サンディーが我が子だったなんて!』と彼はマクスへ溢す。アレックスは幼い頃、今、目の前にいる父マクスと実は娘だったサンディーから魔法を習っていたのだ。
アレックス曰く『父上、私の知っている大魔女サンディーは何でも出来る。だから、未来で起きることを先に知られるのは良くないと思う』とのこと。
「(確かにサンディーなら、キャロル以上にアレックスが過去に飛ばされそうになったら難なく防ぐだろうな。――――だが、アレックスが過去に行かないとソベルナ王国は誕生しない。いや、それ以前にこの大陸の国々が異世界人の侵略で滅びてしまう・・・)」
愛する人に嘘を吐くのは胸が痛む。しかし、幾万の人々のため、マクスは生涯をかけて、キャロルを騙す決意をしたのだ。
「過去に閉じ込められたんだ」
「――――」
「先日、結婚の報告へ行った聖堂の奥に過去へ通じるドアがあった」
「は?」
(過去って、昨日とか、一年前とか・・・。んんん?――――そんなことが可能なの?)
思いも寄らない話が出て来た。キャロルの頬を伝っていた涙はピタッと止まる。
「で、そのドアを開いて、初代皇帝アレックスの部屋に入ったら、勝手にドアが閉まって消えたんだ」
マクスは過去で起きた出来事を淡々と語り始めた。
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