17 ブカスト王国の砂漠化を防げ 15 沈黙
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
マクスはアレックスとテーブルを挟んで座っている。
――――しかし、先ほど本棚を見て気付いてしまったことが頭から離れず、マクスは彼の顔を見る事が出来ない。
(おれの持っている魔導書と同じものが何冊かあった。しかも、先の巻まで・・・。四千年前にあるはずのないものが・・・)
「マクシミリアン王太子、私に聞きたいこととは何ですか?」
一方、アレックスはマクスの様子がおかしいのは王家霊廟の聖堂から、突然ここへ飛ばされて動揺しているからだと勘違いしている。
「――――あ、そ、そうだ。聞きたいことがあって・・・」
マクスは動揺している場合ではないと気を引き締めた。アレックスに龍玉のことをきちんと聞きたくて、ここへ来たのである。
「アレックス、龍玉のことなんだけど・・・」
彼はバッシュ帝国から持ち込まれた龍玉の正体がサンディーの玩具だったという話と、ブカスト王国のカルロから聞いた双子竜の話をした。
「ブカスト王国とバッシュ帝国のどちらも微妙に話が違う。どちらの話が正しいんだ?」
「どちらとも言えませんね。四千年の時を経ていますから、多少の誤差はあるでしょう。王龍はつがいです。それから『王龍の化身』という言葉は初めて聞きました。のちに足されたのでしょうね」
彼の話をマクスはゆっくりと大きく頷きながら聞いていく。
「――――バッシュ帝国が持ち込んだ偽物の龍玉・・・。今の時点で私はあの国に何も託していません。ですが、将来、偽物の龍玉を本物の龍玉と偽って、あの皇帝へ託したら、必死に守ってくれそうな気はします。彼は龍玉が欲しくて欲しくて、堪らなそうでしたから・・・」
アレックスは優雅な手つきでティーポットを傾け、マクスのカップへ金色の液体を注ぐ。ほろ苦いなかにも僅かな甘みを感じるベルガモットの上品な香りが、ふんわりと広がっていく。
(話しながら、茶葉を計ってポットに入れて、適温のお湯を注いで、抽出の頃合いを見計らいカップへ注ぐ。――――やけに手慣れている。だけど(ソベルナ流の)お茶の作法なんて、この時代にはないだろ。やはり、アレックスは異世界から来たのではなく・・・)
マクスは頭の中で仮説を立ててみる・・・。
「――――に使うそうですよ」
「あっ、すまない。ボーッとしていて聞き逃した。もう一回、話してくれないか?」
「はい。皇帝の話では呪術がえしに龍玉を使うそうです」
「呪術!?」
アレックスは驚いているマクスへ詳細を説明していく。
「異世界人を送り返した後、私は力の弱まった王龍を封印しました。その時に王龍の龍玉を譲って貰えないか?とバッシュ帝国の皇帝にお願いされました」
「譲る?」
「はい、バッシュ帝国には陰陽師という呪術をつかって相手を呪い殺す集団がいるらしく、皇帝は何度も命を狙われたそうです。ですので、呪いをはね返す力を秘めている龍玉が欲しいのだと・・・。――――断りましたけどね」
この大陸には王龍以外にも竜はいる。バッシュ帝国と氷河地帯の間にある峡谷に小型竜が群れを成して住んでいるのだ。皇帝はその小型竜の龍玉を肌身離さず身に付けているとアレックスに話した。
(陰陽師って、レナ皇太子妃がキャロルに話していたやつだよな!?)
「何故、断った?皇帝は命を狙われているんだろう」
「――――将来、王龍の龍玉が必要だと知っていたからです。念のため、皇帝には防御魔法を付与した腕輪を渡しました。呪いに効果があるのかは分かりませんが・・・」
アレックスはマクスを真っ直ぐに見詰める。彼と同じ紫色の瞳で・・・。
「王龍の龍玉は封印を解く際に必要なのです。バッシュ帝国に渡すわけにはいきません」
彼の意志の強そうな眼差しをみているとマクスは愛しい人が思い浮かぶ。
「――――見れば見るほど、キャロルに似てる・・・」
つい口から本音が漏れ出た。目の前のアレックスの眉がピクッと動く。
「アレックス~、おれ、気付いてしまったんだけど・・・。でも、口に出さない方がいいよな?」
マクスは眉間を揉みながら、アレックスに尋ねる。
「はぁ~~~~~、もう!!何もかも母上が悪いのですよー!!」
アレックスは顔を両手で覆って、天を仰ぐ。
「そうだよなぁ~。『この子、私たちに似てない?』って、初っ端に言い放ったもんな~。で、何故、未来に居るはずのお前が過去にいるんだ?」
「それは・・・」
彼は何故、未来から四千年前へ飛ばされたのかという話を語り始める。必要以上の未来を語らないように気を付けながら・・・。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ソベルナ王国では代々、紫の瞳を持つ王子もしくは王女が王位を継承してきた。一人の国王に一人の継承者。この法則がなぜ出来たのかは未だ不明。しかし、その法則のお蔭で王位は概ね問題なく次世代へバトンタッチされてきたのである。
ところが・・・、マクスとキャロル三番目、四番目の子として、紫の瞳を持つ王子が同時に二人誕生した。――――つまり双子ということである。
兄・アレクサンドロス(アレックス)、弟・マティアス(マシュー)。
誕生の喜びの裏で貴族たちは兄と弟のどちらに付くかという水面下の戦いを始めた。次期国王になるのはどちらだと・・・。
国王は早々に臣下へ釘を刺す。
「次期国王はマクシミリアン王太子である。その次はお前達の時代ではない」
彼はマクスを盾にして、かわいい孫たちを守ったのである。家族がマクスをいじるのはいつものことなので、彼はツッコミもせず聞き流しておいた。
――――紫の瞳の持ちは膨大な魔力をもつ。
赤子一人でも扱いが難しいのに双子・・・。これはちょっとした、いや、かなりの危機といっていい。だが、幸いなことに今のソベルナ王国には大魔法使いサンディー、現世で最強といわれる魔法使いマクス、魔力未知数天然系魔法使いのキャロルが揃っている。
双子に魔法を教えるという重要なミッションはマクスとサンディーがタッグを組んだ。ちなみにキャロルは気分で魔法を発動するため、人に教えるのは無理である。
甲斐あって、双子は四歳で基礎魔法、七歳になるころには応用魔法を習得。同時にソベルナ王家の『むやみに魔法を使わない』という家訓も(サンディーから)しっかりと叩き込まれた。
――――やがて、剣の才能を見出されたアレックスは叔父ジャンと鍛錬を積むようになり、十四歳で神剣を顕現し、ソードマスターとなる。
翌年、十五歳になったアレックスは転移ポイントの封印を確認するため、ジャンと共にローデン伯爵領の黒の森へ向かった。
そこで、通りすがりに巨大なハーゲン・ロックを見つける。出来心で触れてみた次の瞬間、彼は四千年前の大地に立っていた。
「――――それ以来、ジャンともマシューとも会えてません」
アレックスの話を聞いて、マクスは頭を抱える。
(いや~~~~~、急に息子が消えてしまったら、キャロルは猛烈に取り乱すだろうなぁ・・・)
キャロルを泣かせるのは嫌だ。でも、アレックスが過去に飛ばされなければソベルナ王国は興されない。複雑な思いが交差する。
「未来に帰るつもりは?」
「帰りたくても、帰れないのです。一番、遠い未来へ飛ぶためにエルフの力も借りてみたのですが、前回お会いしたあの時間より先には行けませんでした」
「あれ以上が無理!?あの本は?」
マクスは振り返って、斜め後ろにある本棚を指差す。
「物は魔法で引き寄せることが出来ます。あの本は未来にある私の部屋から持って来ました」
「生きているものは無理ということか・・・」
「はい、今後は父上にここへ来ていただくしかないですね」
アレックスは話をして乾いた喉を潤すため、ティーカップを持ち上げて、紅茶を一口飲んだ。
本当なら未来に居るはずの息子をマクスはジーッと見詰める。
(どう見ても、おれより年上だよな・・・)
――――ここでマクスはハッとした。
「おれ、自分の時代に帰れるのか?」
マクスの言葉を聞いて、アレックスは大きく目を見開く。今、気づいたと言わんばかりに・・・。
(驚き方がキャロルみたいだな・・・)
「父上、――――それは分かりません・・・・」
――――室内は重い沈黙に包まれた。
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