16 ブカスト王国の砂漠化を防げ 14 誰にも言ってなかった・・・
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
キャロルの寝顔を見てマクスは彼女に無理をさせていたと改めて自覚した。マクス自身は産まれた時から王族なので多くの人に囲まれて生活することに慣れている。
だが、キャロルは違う。最低限の使用人しかいない屋敷で自分のことは自分でするのが当たり前の生活を送っていた。そんな彼女を常に人に囲まれて生活しなければならない王宮へマクスが投げ込んだ。キャロルは専属の侍女を実家から連れて来ることも出来ず(そもそも、リューデンハイム家には王宮に上がれるような侍女などいないが・・・)マクスしか頼る人がいないのはどう考えても・・・。
「キツイだろうな。泣きごとの一つも言わず、いつも笑ってくれて・・・」
マクスは強引に結婚を勧めたことを後悔はしていない。だが、もう少し段取りを整えておくべきだったと反省している。
「いつか妃に迎えると決めていたのに何もかも行き当たりばったりで、全然ダメだな・・・、おれ」
せめて、婚約指輪くらいはしっかりと用意しておくべきだった。
「冷静に考えたら、宝物庫で見つけた妖精の指輪が結婚指輪って、あんまりだよな」
暗闇の中、森へ続く小路を進みつつ、マクスはひとりごちる。この先は王家の霊廟だ。彼はバッシュ帝国のミハイル、そして、ブカスト王国のカルロから四千年前のことを聞いた。しかし、彼らの話は少しずつ違っていて、どちらを信用したら良いのかまだ分からない。ただ、ミハイルから預かった龍玉は偽物のような気がしている。
昔のことなら当事者の初代皇帝アレックスに聞けばいい。――――というわけで、マクスは今、アレックスのところへ向かっている。
「霊廟も良く分からないんだよなぁ~」
視線の先に霊廟の黒いシルエットが見えてきた。ここがいつ出来たのか、どうやって管理しているのかは誰も知らない。王家の森にある魔塔と同じく謎のベールに包まれている。
彼は霊廟で立ち止まると大きな扉へ手を当てて、封印を解いた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
最奥の聖堂にアレックスの姿はなかった。しんと静まりまりかえっていて、壁に取り付けられた燭台の蝋燭に灯された炎は真っ直ぐに立っている。
(おれが横を通り過ぎても炎がブレなかったような・・・)
マクスは祭壇の端に置かれた花瓶に生けてある花を掴み上げる。
「ああ、やっぱり・・・。何故、今まで気が付かなかったんだろう・・・」
花瓶に挿してあったのは沈丁花の生花だった。
霊廟へ人が来るのは王族が産まれたり、死んだり、婚姻を結んだ時くらいである。しかも、王族以外は中へ入れない。だから、生花がこのように生き生きとした状態で保たれているというのはおかしいのだ。
「ここは時間が止まっている」
思い起こせば、サンディーと出会った魔塔も不思議な空間だった。彼女は亡霊の状態だったし、元王女ルーシーとその夫サファにも簡単に会うことが出来た・・・。
(――――いやいや、魔塔の件は、一先ず置いておいて・・・)
「アレックス~!!居るか~?」
マクスは前回、アレックスが出て来た聖堂の奥に向かって叫ぶ。
「――――」
「お~い、急ぎで確認したいことがあるんだけど~!!」
「――――」
もう一度、呼びかけてみたが返事はない。彼は祭壇の横を通り抜け、正面の壁に天井から吊るされている紫色の布地をペラッとめくってみた。
「通路!?」
(嘘だろ・・・、思い付きでめくっただけなのに・・・)
マクスは怪しげな隠し通路を見つけてしまう。
「ええっと、これは進むべきか、止めておくべきか・・・」
(アレックスはここから現れたんだろうな。もしかして、この先があいつの墓!?)
幽霊の類が怖くないマクスはこの先へ進むことにした。
(キャロルを置いて来て正解だったな。怖い~って大泣きしそうだ)
彼女のことを想像するとつい笑みがこぼれてしまう。
「よし、行ってみるか!!」
彼は人差し指の先に小さな光をつくり出し、その明かりを頼りに未知の空間へと足を踏み込んだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「えっ!?????」
突き当りの扉を開いてみると、そこは棺を置いている部屋ではなく、ただの寝室だった。
(どういうことだ?)
しかも、大きな窓から陽が燦燦と降り注いでいて、室内はとても明るい。
(え、待って、待って!?意味が全然、分からないんだけど!?霊廟の外は夜だっただろ・・・)
マクスは混乱する。
(ここは何処だ?過去?異世界!?――――いや、これ、誰にも見つからないうちに引き返した方がいいんじゃないか?)
急に怖くなって来た。世の中、知らない方が良いこともある・・・。彼は踵を返し、扉を・・・。
「嘘だろー!!扉が消えたー!!!」
マクスは膝から崩れ落ちる。得体の知れない世界に入り込んでしまったという恐怖。そして・・・。
「おれは何でこんな時に限って誰にも言わずにここへ来てしまったんだよ~~~~」
彼は王宮を出る時に『霊廟へ行く』と誰にも告げていない。
(キャロルに書き置きくらいして来ればよかった・・・。)
「はぁ~~~、でも、失敗しても諦めたら負けだ!」
彼は崩れ落ちていた床に手をついて立ち上がった。
(アレックスがここから来たのなら彼を探せば良い!ただ、勝手に部屋から出るとややこしいことになりそうだ)
ここで彼は漸く室内へ目を向ける。天蓋付きのベッドの置かれていて、部屋はかなり広い。壁には三つの扉が付いている。
「よし、ここで誰かが戻って来るのを待つしかないな。使用人に見つからないように気をつけよう」
♢♢♢♢♢♢♢♢
燃えるように赤い夕陽が地平線へ半分沈んだ頃、ようやく部屋の主が部屋へ戻って来た。
「うわっ!!」
「あ、ああ、落ち着いて!落ち着いてくれ!!アレックス」
大声を上げた男をマクスは急いで部屋へ引き込んだ。
「アレックス、ごめん。ちょっと、やらかしてしまって・・・」
マクスは扉を開けた青年を見て、彼がアレックスだと直ぐに分かった。
キャロルと同じ金色の髪にソベルナ王家の証である紫色の瞳が輝いていたからだ。
「ち、あ、いや、マクシミリアン王太子。――――余に何か用事か?」
アレックスは突然の珍客に動揺してしまったが、必死で冷静さを取り戻そうとする。
「ああ、いろいろ聞きたいことがあるんだ。時間を貰えないか?」
「分かった。人払いをしてくる。少し待ってくれ」
彼はパチンと指を鳴らして、部屋に明かりを灯した。
「――――直ぐに戻る。ゆっくりしていてくれ」
アレックスは窓辺の椅子を指差す。
「ああ、ありがとう」
(アレックス・・・・、優しいところもあったんだな)
彼が部屋から出て行く。マクスは窓辺の椅子へ腰かけた。
(アレックスに会えた。もう心配はいらない・・・)
「はぁ~、疲れた」
彼は陽が沈んで、闇に包まれていく世界を無言で眺める。
「アレックスがいたということは・・・、ここはやはり過去ということだよな?――――あいつ、魔法で時間を超えているのか?自分が死んだ後のことを考えて?――――う~ん、何か引っかかるけど・・・。まぁ、本人に聞いた方が早いな!」
予測で物事を判断することがあまり好きではないマクスは、早々に考え事を止めた。
椅子から立ち上がって振り返ると、天蓋のベッドの奥に本棚を見つける。彼は興味が湧いて、本棚の前に移動した。ところが・・・。
「――――四千年前に本?」
(いや、この時代に本なんかあるわけない。四千年前なら、紐で羊皮紙を綴じているくらいのはず・・・)
怪しんだマクスは背表紙を一つ一つ確認していく。
「あぁ~、ヤバい。これ・・・、絶対に気付いてはいけないヤツだぁー!!」
彼はしゃがみ込んで頭を抱えた。
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