15 ブカスト王国の砂漠化を防げ 13 美少女
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「ボーデン卿、マクスを見ませんでしたか?」
早朝、キャロルは王太子の執務室で文官のハラス・ボーデン侯爵に問う。彼はマクスの側近を務める一人だ。
――――昨日、キャロルは眠気に負けてソファで眠ってしまった。ところが目覚めてみると何故かいつものベッド上で・・・。そして、隣にいるはずのマクスはいなかった。
キャロルは侍女三人組のサリー、マリー、エリーと侍女長コレールにマクスの所在を確認してみたのだが・・・。彼女たちは口を揃えて『殿下が昨夜お部屋へお戻りになられたのかどうかは分かりません』と答えた。
(でも、マクスが私室に戻って来たのは間違いないわ。もしかすると、転移魔法を使って部屋へ出入りしたのかも・・・。侍女たちは昨夜、私達の部屋に入ってないというし、間違いなく私のドレスを脱がして、ナイトドレスを着せた犯人はマクス・・・)
キャロルは気持ちを落ち着かせるため、胸へ手を当てた。
(はぁ~ぁ、ソファにだらしなく寝ている姿を見て、一緒に寝たくなくなったとか言われたらどうしよう・・・。新婚三日目で夫婦の危機を迎えるなんてことは・・・、流石にないわよね??)
「――――おはようございます、妃殿下。今朝は殿下とまだ会っていません。私はエドから執務室の片付けの件で早く来るようにと連絡を受けまして・・・」
「片付け?」
ここでキャロルは執務室のありとあらゆる場所に書類が積み上がっているということに気付く。
「殿下は結婚式の準備で忙しかったため、決裁書類が積み上がってしまいまして・・・」
「そうなのね」
(改めて見るとこれは・・・、かなりひどい状態だわ)
「私も手伝っていいかしら?」
「えっ!?妃殿下がですか?」
「あ、その妃殿下という言い方は堅苦しいわね。キャロルで良いわよ」
「分かりました。キャロル様、よろしくお願いいたします!それから、私のことも気軽にハラスと呼んで下さい」
「分かったわ。では、ハラス、私が触ってもいい書類の山はどの辺り?」
キャロルは一先ず、ハラスと一緒に片づけをしながら、マクスが現れるのを待つことにした。
♢♢♢♢♢♢♢♢
――――片付けに没頭すること二時間。時刻はもうすぐ八時半になる。王宮の職員が出勤して来ているのか廊下が騒がしい。
「キャロル様、一旦休憩を入れましょう」
「ええ、そうね」
山になった書類は先にハラスが機密に当たるものと当たらないものを選別し、キャロルは彼から受け取った書類を期日の早い順に分けていく。流れ作業で黙々と進めていたが、残念ながら全体の五分の一も進んでいない。
ハラスが執務室のドアを開けて、通り掛けの職員にお茶を依頼すると気を利かせてくれたのか、小ぶりのサンドイッチも一緒に持って来てくれた。
二人はミーティングテーブルの端に腰掛けて、休息を取る。
「明らかに人手不足じゃない?」
「ええ、殿下に付いていける人が中々いなくて・・・」
「そうなの?」
「はい、殿下は何でも卒なくこなす方なので、部下も出来て当たり前と思っているんです」
ハラスはボヤキながらサンドイッチを口へ放り込む。
「それは良くないわね・・・」
(確かにマクスは昔から何でも出来る人だけど、部下にそれを求め過ぎるのは良くないわ)
キャロルもサンドイッチへ手を伸ばす。ブルーベリーのジャムとクリームチーズを挟んだものだった。甘さが身体にしみる・・・。
(美味しい・・・。あれっ?私、いつ振りの食事?もしかして、昨日のお茶会以来!?あ~、急にお腹が空いて来た・・・)
「(キャロル様は咲き誇ったダリアの花のように華やかな方だな・・・)」
視線に気付いていないキャロルはサンドイッチを子リスのようにモグモグモグと一心不乱に食べている。サラサラの明るい金髪は窓から入る陽に照らされてキラキラと輝いていた。魅力的なアーモンドアイの中心にあるのは透明感のある赤茶色の瞳・・・。
――――見ているだけで癒される気がした。
ここでハラスはハッとする。密室にキャロルと二人でいるところをマクスに見られたら、大変なことになるのではないだろうかと・・・。
「(殿下は意外と嫉妬深いからな・・・)」
身の危険を感じたハラスは、命を守る行動に出る。
「キャロル様、このままでは埒があきません。助っ人を探して来ます!」
「え、ええ、そうね・・・」
ハラスは食べ掛けのサンドイッチを口へ押し込んで、アイスティーで流し込んだ。そして、勢いよく立ち上がると・・・。
「行って来ます!」
キャロルを一人残して、執務室から出て行ってしまったのである。
(あらら、一人になってしまったわ。というか、ハラス~、機密文書を机に投げ出したままだけどいいの?――――あっ、そうだ!今のうちに・・・)
キャロルは誰もいないうちに残りのサンドイッチを美味しくいただくことにした。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ハラスは十五分ほどで戻って来た。そして、手伝いとして連れて来たのは・・・。
「妃殿下、おはようございます!!」
飛んでもない美少女だった。彼女の名はアメリア。サザンマレリー侯爵家の御令嬢で王宮の総務部で補佐官を務めている才女でもある。
「もしかして、上司はマルコ?」
「はい」
アメリアは即答した。
「ハラス、良くマルコが許可したわね」
「あ~、マルコ次官もこの惨状をご存じだったみたいで・・・。すんなり貸してくださいました」
ハラスは苦笑いを浮かべている。
「あ、なるほど・・・」
「わたくしは一応、機密関係の書類も扱えますので心置きなく使って下さいませ」
美少女はニッコリと微笑んだ。
(美少女の笑顔・・・。破壊力があるわ~)
コンコンコン。
ノックの音がした。
「はい」
ハラスが返事をする。
「ジャスティンです。ブカスト王国第八王子トッシュ殿下をお連れしました」
(えっ!?トッシュ?)
キャロルはハラスが返事をする前にドアへ駆け寄って開けた。
「トッシュ!!お久しぶりね~。おはよう」
「あっ!!キャロル様、おはようございます」
「え、何で姉さんがここにいるんだよ」
「ジャンは護衛?」
「そうだけど・・・。あっ!」
ジャンは執務室の中にいるはずのない人物を見つけて驚く。
「何で彼女が?」
彼は小声でキャロルに問う。
「彼女は助っ人なの。この部屋の惨状をどうにかしないといけないから・・・」
キャロルもジャンへこっそりと伝える。トッシュは二人の会話が聞こえていたが、聞こえていないふりをした。
「取り敢えず、中に入って!!」
キャロルは廊下を行き交う人々に執務室内の状況をあまり晒したくなかったので、二人を強引に部屋へ引き込んだ。
「どうしたんですか、この部屋は・・・」
「書類が溢れていますね・・・」
ジャンとトッシュは積み上げられた書類を見上げている。
「ジャン、君が居ないから人手が足りないんだよ」
ハラスは恨み言を口にした。
キャロルの弟であるジャンはマクスの側近で、第一騎士団に所属しているソードマスターだ。だが、今は隣国の王子トッシュの専属護衛として、一日中トッシュに張り付いているので、他の仕事は免除されているらしい。
「人手を補充しなかったマクスが悪いわね。ハラス、ごめんなさい」
「キャロル様、謝らないで下さい」
ハラスは申し訳なさそうにしている。
「エドは?」
ジャンはもう一人の側近エドモンドはどうしたのかとハラスに聞いた。
(そういえば、始業時間を過ぎているわね・・・)
ハラスは時計を見て、首を傾げる。
「どうしたのかな?」
「ブリデン卿はハラスに早く来いって言ったのよね?」
「はい。でも、来ないですね。殿下も・・・」
「あ、そうね。忘れていたわ・・・」
片付けのことに集中して、キャロルはマクスのことをすっかり忘れていた・・・。
「――――まぁ、(殿下は)そのうちお見えになるでしょう」
ハラスはフォローを入れる。
「そのうちって、適当過ぎませんか・・・。トッシュ王子、どうします?」
「出直します。キャロル様、師匠にまた来ますとお伝え下さい」
「分かりました。伝えておきますね。魔法の練習も頑張って下さい」
「はい、ありがとうございます」
キャロルはトッシュがここへ来た理由を魔法の件だと勘違いしていた。なので、彼にそれ以上の質問もせず見送ってしまった。
二人が去った後、ハラス、アメリア、キャロルは片付けに没頭し、正午の鐘を聞いて、昼食の休憩を取り、午後三時にはおやつタイムを挟んで、終業の鐘がもうすぐ鳴る頃には部屋の三分の二を片付け終えた。
「あのう・・・、結局、殿下もブリデン卿もお戻りになりませんでしたけど、大丈夫でしょうか?」
終業の鐘が鳴り止むと同時にアメリアの放った言葉で、キャロルとハラスは息を呑んだ。
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