12 ブカスト王国の砂漠化を防げ 10 許可を
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
総務部に三人が辿り着くと、応接室はお茶の用意が出来ていた。性癖に難があるところを覗けば、マルコは非常に優秀な部下である。
「人払いもしておいたわ。重要な話し合いなのでしょう?」
「で、お前は下がらないのか?」
「あら~、失礼しました~!では、ごゆっくり~」
マクスに指摘され、マルコは部屋から出て行った。三人はソファーへ着席する。サンディーは当然の如く、カルロの横へ座った。
「話を始める前に・・・」
トントントンとマクスはテーブルを叩く。
「よし、防音魔法を掛けた。何でも話していいぞ」
「マクス殿、偽砂漠盗賊の報告書で私に何か聞きたいことあるのだろう?」
「ああ、その通りだ」
マクスはカルロに何故、首謀者の名が自分になっているのかを質問した。それに対する答えは非常にあっさりとしたものだった。
「捕まえた盗賊たちがマクス殿の名を口にしたからだ」
「それだけか?」
「報告書は聞いたままのことを記しているだけだ。裏を取ったというわけではない」
「聞いたまま・・・か。なるほど」
マクスはここで気が付いた。ソベルナ王国とブカスト王国の間で公文書に対する認識の違いがあるということを・・・。
「カルロ、ソベルナ王国で公文書へ王族の名を載せるのはしっかりと裏が取れた時だけだ。だが、ブカスト王国は素直に聞いたことを記すんだな。今回の件は、おれの認識不足だった」
「ほう、ソベルナ王国でマクス殿の名を出す時は慎重にしなければならないということか」
「ああ、我が国の不文律だ」
「それは・・・、暴君が出来やすいシステムなのではないか?」
カルロの一撃が、マクスとサンディーの胸に刺さる。
「た、確かに、ソベルナは昔から王族が権力を持っているのよぉ~。だから、国王とか王太子の悪事を暴くのって、かなり難しくて~。今のところ、歴代の国王に暴君が少ないのは幸いなのだけどぉ」
サンディーは苦しそうな表情で言葉を吐く。彼女は女王時代にしくじり、その反省として、魔塔主を務めてきたという過去があるからだ。
「しかし、それで平和が維持出来ているのだから不思議だ。我が国では民が王族の不正を暴くことも少なくない。だというのに、全く持って平和とは程遠い・・・。本当に皮肉なことだ」
「ブカスト王国は本当に揉め事が多いよね~。それでも滅びないことが、こちらからすると不思議なんだけどぉ~」
「そうだな・・・。どんなに国が荒れても、滅びない理由の一つは、民と王族の心がひとつになれる王龍信仰のお蔭かも知れぬ」
「信仰か・・・」
「ああ、私は昨日、王龍の玉の話が出るまで、全く信じてなかった・・・」
マクスの呟きにカルロは言葉を被せてきた。そして、話を続ける。
「――――もし、神が本当に居るのなら、もう少し良い気候で豊かな実りくらい与えてくれるだろうと子供のころから考えていた。そして、砂漠化が進むのを目の当たりにして、この国に神はいないと私は悟った」
「いや、龍神(王龍)の代理人である王族が『神はいない』って発言したら、ダメだろ!――――というか、カルロ、それ何処かで口に出したりしていないよな?」
ブカスト王国では王龍の代理人として、古から王族が神殿を管理している。カルロの発言はその全てを否定するものだ。流石に部外者であるマクスも、カルロの身に危険が及ぶ発言だと注意を入れる。
「当然だ。今、初めて口に出した。だが、私がそういう考えであるということをマーカスは知っている」
「――――そうか」
(案外、マーカスも同じ考えだったりするかもしれないな。あいつは世渡りが上手いから、絶対、口には出さないだろうけど!)
「カルロ、実は・・・」
ここでマクスはバッシュ帝国の皇太子ミハイルから聞いた話を、カルロへ伝えた。そして、玉を手に入れたということも・・・。
――――ところが、話を聞き終えたカルロは手で額を押さえて俯いてしまう。
(どうした!?全く活躍出来なかったから、悔しいのか?)
「カルロ~、大丈夫ぅ?」
サンディーは彼の腕を掴んで、顔を覗き込む。
「あ、いや、大丈夫だ、サンディー」
カルロは顔を上げた。無表情がスタンダードな彼だが、珍しく眉間に皺をよせて険しい表情を見せる。
「マクス殿・・・」
「なんだ?」
「その玉は偽物かも知れない」
「はぁ?」
(いや、キャロルが元通りにしたから・・・。あ、でも、本物かどうかと言われたら・・・。いやいやいや、嘘だろ。ミハイル殿にお礼も伝えたのに・・・)
「すまない。これ以上は我が国の機密に関わる内容ゆえ、話して良いものかどうか判断が・・・」
「いや~、いやいや。そこまで言ったのなら、最後まで話してくれよ、カルロ!!毎回、肝心な時に突然、慎重な姿勢になるのは何なの!?」
「それは私に権限がない(王太子でも、国王でもない)のだから、仕方が無いではないか」
「もう、双子なんだから、その辺は良しとしたらどうだ?」
マクスはテーブルに乗り出して、カルロを説得しようとする。しかし、もともと慎重が売りのカルロには全く効果がなかった。
「それはダメだ。国王に許可を得たら話す」
「――――サンディ!今すぐマーカスを召喚しろ!!」
「ラジャー!!」
マクスの無茶振りにも、サンディーは迅速に対応する。
――――ドスン。
「ふぁ!?」
マクスの隣の席にマーカスが落ちてきた。彼は水筒から水を飲もうとしていたようで、中身を溢さないように、慌てて飲み口を手で押さえた。
「これは召喚されたということか?」
「ああ、急に済まない」
「いや、今、視察をしていたところだったから・・・。あっ!ベル(王妃)を街道に置いて来てしまった!!」
「時間は取らせない。王龍の玉の件でブカスト王国の持っている情報を知りたい。カルロがおれたちに話すことを許可して貰えないか?」
「許可する」
マーカスは迷わずに答える。そして、カルロに向かってこう言った。
「ここで話した内容はあとで教えてくれ。今夜、ピピ殿をお前のところへ送る」
「承知した。それよりもベルは一人で大・・・」
「いや、ちょっと待て!!何故、お前がピピを呼べるんだよ」
マクスはマーカスに食って掛かる。彼は左の手首についているブレスレットをマクスに見せた。
金色のチェーンには小さな紫色の宝石がついていた・・・。
「これは・・・」
「ピピ殿に貰った。サンが作ったと聞いたぞ」
マーカスはサンディーの方を向く。
「うん、ピピは人気者だからね~。マーカスちゃんとマリアちゃんの分を作ったよぉ~」
「何てことを!!ピピはキャロルの専属護衛だろ」
「ん~、キャロちゃんにも許可は取ったよぉ~」
(その話をおれは全く聞いてないんだけど!!)
知らないところで話が進んでいて、マクスはイラッとする。
「サンディー、報告くらいはしてくれないか?」
「ごめん、ごめ~ん、次からは気を付けるね!!」
「お話中、申し訳ないが・・・。サン、俺を元の場所に戻してくれないか?ベルが心配だ!」
「はーい、マーカスちゃん、また会おうね~!!」
サンディーは彼を速やかにベルの元へ転送した。
――――応接室の中に静寂が戻る。
(マーカスが来ると一気に騒がしくなるのは何なんだ!?――――それよりも、ピピが他の者に使われているなら、キャロルを守る別の方法を考えないといけ・・・)
「まーちゃん!!」
(おっと!つい考え込んでしまった)
マクスは二人の方へ向き直る。
「国王から許可を得た。ブカスト王国の王族が持つ王龍の情報を話そう」
カルロは美しい所作で紅茶を一口飲んでから、話を始めた。
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