9 ブカスト王国の砂漠化を防げ 7 秘密捜索隊
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
王宮の中庭にて。
「ええっと、もう少し・・・」
ブカスト王国の第八王子トッシュは遠慮がちに指摘する。
「ん~、もう少しって、右、左~?」
甘えた声で返事をするのはソベルナ王家の末っ子、第二王子リチャードだ。
今、二人はボールを転がして、地面に並べたボトルを倒す遊びをしている。
昨日(結婚式の日)、マクスに『トッシュ王子とお友達になりたい』とリック(リチャード)が伝えると、彼は直ぐにリックがトッシュと遊ぶ時間を作ってくれた。
言わずもがな、甘い兄である。
リックよりも二つ年上で且つ、冷静沈着なトッシュは危なっかしいリックをどう扱えばいいのかが分からず、戸惑っていた。
リックは愛嬌がある可愛い少年なのだが、人の話を聞くことが不得意なようで・・・。
「あ~、ボールが変な方向に行っちゃった~!!」
こうしてみたらいいのでは?とトッシュが助言しても、全然効果がないのである。
「次はトッシュ王子の番だね!!頑張って~」
トッシュはボールを構え、後ろへ振り上げた腕を真っすぐに下ろして来て、ボールから手を離す。
コン、コンココン、コン。
リズムを刻んで、扇形に並べていたボトルは気持ち良く倒れていく。
「うっわ~!!凄い!!流石だね、トッシュ王子!!」
飛び上がって喜ぶリック。それを見て、トッシュは苦笑いを浮かべる。
正直なところ、この遊びは十歳のトッシュには簡単過ぎた。
少し離れたところからトッシュの護衛しているジャン(ジャスティン)は、二人の温度差を目の当たりにして、ニヤリと笑う。
「トッシュ王子って、何でも出来るんだね~」
無邪気に話しかけるリック。
「そうでもないです」
「そう?」
「はい、まだまだ勉強しないといけないことが沢山あるので、この国へ来たのです」
「ああ、兄上に魔法を習っているんだよね?」
「はい」
トッシュはマクスを師と仰ぎ、魔法の練習に励んでいる。
「え~っと、僕にも出来るかな?」
「?」
「魔法、使えるかな?」
「?」
トッシュはリックの発言の意味が分からず、首を傾げる。
――――ソベルナ王国の王族は全員魔法使いなのでは?と。
ここでジャンが口を挟んだ。
「リチャード殿下、魔法の件は王太子殿下に許可を取ってからにして下さい」
「え~、なんで!?」
「いや、なんでって・・・」
つい敬語も忘れて言い返してしまう。魔法の使い方も知らないのに好奇心だけで無闇に放たれたら、ソードマスターのジャンでも止められない可能性があるからだ。
「(王太子殿下に)怒られますよ?」
「あわわわ、それは嫌だ~!分かった。勝手にしない」
「ええ、そうして下さい」
ジャンはホッとした。少し甘やかされ過ぎのこの坊やは時折、飛んでもないことをしでかすからだ。
――――最悪な事態を迎えないよう日々、釘を刺しておかなければならない。
トッシュはジャンとリックのやり取りを見ていて、何となくリックの置かれている立場が分かった。彼も自分と同じく優秀な兄がいて、劣等感をもっているのだと。
「リチャード王子、師匠の許可が出たら、一緒に魔法の修行をしましょう」
「えっ本当に!?トッシュ王子と一緒にしていいの?」
「はい、勿論です」
「分かった!!兄上にお願いする!!絶対、一緒に修行する~!!」
盛り上がるリックとそれを見守るトッシュとジャン。
――――これ、大丈夫なのか?と感じたジャンの予感は後日、見事に的中する。
♢♢♢♢♢♢♢♢
リックはマクスの元を訪ねた。ところが・・・。
「兄上はお留守なの?」
「はい、国王陛下の所へキャロル様と一緒に向かわれました」
「じゃあ、父上のところに行ってみるね」
「重要なお話をされているのかも知れませんよ?」
王太子宮の執事、ダンはやんわりと注意をする。
「う~ん、その時は諦める」
「そうですね。そうされた方が宜しいでしょう」
ダンは笑顔で頷いた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
滞在している離宮の部屋でトッシュは植物図鑑を眺めていた。
最近、植物の毒性に興味が出て来たからである。それは人を殺すためではなく薬を作るための知識を得たいからだ。
トッシュは回復魔法が得意ではない。そのため、回復薬を作れば、いざという時に魔法使いが居なくても、ケガをした人や病気で弱っている人を助けることが出来るのではないかと考えたのである。
コンコンコン。
「はい」
「リチャードです」
意外な人物が尋ねて来た。トッシュは本を閉じて、ドアを開けに行く。ちなみに、ジャンはマクスに呼ばれて席を外している。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす!!」
リックは護衛も付けず、一人で来たようだ。
「リチャード王子、おひとりなのですか?」
「うん、ひとりだよ」
王宮の敷地内とはいえ、彼はまだ八歳なのである。一人で歩いて回るなんて、ブカスト王国ではとても考えられない。
「護衛も付けずに大丈夫なのですか?」
「何が?」
「誘拐とか・・・」
「あー、大丈夫だよ。何かあったら、兄上が助けてくれるから」
リックはあっけらかんと言い放つ。
「――――そうですか」
確かにマクスなら何とかしそうだなとトッシュは思ってしまった。
「ねぇ、座ってもいい?」
リックはソファを指差す。
「あ、はい」
年下王子に押され気味のトッシュは彼と一緒にソファへ移動して腰掛けた。
着席するなり、リックは口を開く。
「あのね、秘密の話を聞いたんだ!!」
「秘密の話ですか」
「うん!マクス兄様たちは『妖精の石板』を集めるんだって!!」
「『妖精の石板』?」
リックは先ほど国王の執務室から漏れ聞こえて来た話をトッシュにした。北東の領地で『妖精の石板』を四枚集めて、何かを封印するらしいのだと。
「何かって、何ですか?」
「うーん、それは分からない」
リックは首を左右に大きく振る。
「そうですか」
「マクス兄様たちは、他にもしないといけないことがあるみたいなんだ。だから、トッシュ王子、僕と一緒に『妖精の石板』を探しに行かない?」
「それは師匠の許可を取っていますか?」
「取ってないよ」
「それなら、お断りします」
トッシュはキッパリと断った。
「え~、妖精に会えるかもしれないのに!?」
「妖精は滅びましたよ」
トッシュはエルダー王国が滅びた時に妖精もこの地から消滅したと歴史の授業で習ったので、それを彼に伝える。
「そ、そうなの?」
「はい、エルダー王国が滅亡して、もう四千年近く経ちますから仮に残っていた妖精がいたとしても、もう消滅していると思います」
この時、トッシュはピピの存在を完全に忘れていた。同じく、リックも・・・。
「妖精・・・会ってみたかったなぁ・・・」
「その件は師匠たちに任せましょう」
トッシュは勝手に盗み聞ぎして来たリックに『妖精の石板』を諦めさせようと試みる。
「じゃあ、玉にする」
「玉?」
「あのね、ブカスト王国の砂漠化を止めるために王龍の玉がいるんだって」
「王龍の玉・・・」
「そうそう。トッシュ王子は何か知っている?」
トッシュは考える。王龍はブカスト王国の神である。玉は正直なところ沢山あり過ぎて、どれのことを指しているのかが分からない。ブカスト王国の龍神(王龍)像は必ずその手に玉を持っているからだ。
「玉が多過ぎて分かりません」
「えー、沢山あるの?」
「はい」
「じゃあ、一番古いのは?」
「一番古いのですか・・・」
再び、トッシュは考える。龍の名を冠する青龍、赤龍、黄龍の宮殿は千年前に建てられた。王宮はもう少し前だったはずだ。しかし、それよりも古いのは神殿である。確か、今は砂漠となった地に最初の王龍神殿があったはず・・・。
「砂漠の何処かだと思います」
「砂漠!?砂漠って何?」
――――八歳児は砂漠というものを知らないらしい。トッシュはリックに砂漠とはどういう所なのかを説明する。
「砂がいっぱい・・・。凄いね!沢山遊べそう!」
『いや、そうではない!』と、突っ込みたくなる気持ちを抑えて、トッシュは砂漠の過酷さを語った。
「木も水もない場所です。灼熱の太陽が照り付け、気温は五十度を超えます。生き物も生きてはいけません。とても遊べるような環境ではないです」
「そうなんだ~」
リックは理解したのかどうかが分からない返事をする。
「僕達で玉を手に入れることって、出来るかな?」
「そうですね~。正確な場所を掴んで、夜間に行けば、可能かもしれません」
トッシュが真面目に答えるとリックは目を輝かせる。トッシュはしまったと思った。
「じゃあ、僕と秘密捜索隊を結成しよう!!」
「・・・・・」
「コッソリと見つけて、兄上を驚かそうよ~!!」
「少し、考えさせてください」
「え――――っ!!」
トッシュはここで流されたら大変なことになると知っている。だから、即答は避けた。
「じゃあ、明日までに考えて!!」
「――――はい」
リックは言いたいことだけ言って、スッと帰って行った。
(さて、聞いてはいけない話を聞いてしまったけど、僕はどうしたらいいのだろう)
トッシュは机に戻って植物図鑑を開く。
――――一先ず、現実逃避である。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
ブックマーク登録もお忘れなく!!
誤字・脱字等ございましたらお知らせください。