8 ブカスト王国の砂漠化を防げ 6 感謝
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ミハイルが話を終えると皆、いろいろと考えることがあるようで、黙り込んでしまった。
四人でティーテーブルを囲んでいるこの部屋は、マクスが防音魔法を掛けたため、外部からの音も遮断されている。シンと静まり返った室内は少しでも物音をたてると悪目立ちしてしまいそうで居心地が悪い。
(異世界からの侵略者との戦いが四千年前にあったという話は確かに驚いたわ。だけど、アレックス陛下の活躍ぶりは、いくら何でも神がかり過ぎでしょ!――――まぁ、大げさに語り継がれているだけかも知れないけれども・・・。で、先日、アレックス陛下が言っていた玉って、これで間違いないわよね?――――マクスは『ブカスト王国の砂漠化を防ぐために王龍の封印解く』って、ミハイル殿下たちに話すつもりなのかしら?)
マクスと細かな打ち合わせをしてなかったキャロルは、彼に確認しようと隣を向く。すると、彼は眉間をこぶしで抑えて、目をつぶっていた。
(あー、これは真剣考察モードだわ。気軽に話し掛けたらダメなやつ)
取り込み中のマクスのことは置いておいて、キャロルは向かいの二人へ視線を向けてみる。
(あっ!!)
タイミング良く、ルナと目が合った。すると、彼女は今日一番の笑顔をキャロルに見せてくれる。
(ルナ様は笑顔も上品で落ち着いているわね。真っ直ぐストレートの黒髪も艶があって素敵・・・)
一方、ミハイルはティーテーブルに置かれた小さな花瓶を見つめて、暗い表情をしていた。キャロルは彼のことが気になって、つい声を掛けてしまう。
「ミハイル殿下、どうかされましたか?」
「あ、いえ、四千年前の話をしているうちに、私は取り返しのつかない失敗をしてしまったのだという重圧が・・・」
彼は木箱の玉が割れていたことを、まだ気にしていた。キャロルがどう答えようかなと躊躇っていると、真剣考察モード終了のマクスが代わりに口を開く。
「ミハイル殿、玉は元通りになりました。もう気にしないで下さい。――――それにしても、四千年かぁ~、想像も付かないな・・・。本当に凄い・・・」
マクスはゴニョゴニョと語尾を濁した後、椅子からスッと立ち上がった。
そして、ミハイルの前へ進んで、真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。
「ミハイル殿、長きに渡り、この小箱を大切に守って下さったバッシュ帝国の皆様に、ソベルナ王国の王族として、心より感謝申し上げます」
――――一諾千金。バッシュ帝国の歴代皇帝たちは、この小さな箱を四千年も守り抜いたのである。
マクスは胸に手を当て、心を込めて礼をした。
これで、アレックスの目論見通り、アイリスの紋章を与えられたマクスとキャロルの元へ、王龍を目覚めさせるために必要な玉が届いた。
――――ここからがマクスたちの本番だ。バッシュ帝国の歴代皇帝たちへの恩返しも含めて気合を入れていかなければならない。
ミハイルはマクスの行動にハッとして、自身も椅子から立ち上がった。
「マクス殿、ありがとうございます。ソベルナ王国はこれからも我が国の友人でいて下さい」
「はい、勿論です。おれは国だけではなく、個人的にミハイル殿とも友人になりたいのですが・・・」
「私もです!マクス殿、是非よろしくお願いします!」
二人は固い握手を交わした。
♢♢♢♢♢♢♢♢
大事な話も終わり、四人はこのお茶会のために料理長が用意したスイーツを楽しむ。
ルナは白桃を使ったタルトが気に入ったようで、二つ目へ手をのばす。
「――――ここに来る途中で襲撃にあったのですよね?」
キャロルはミハイル達がブカスト王国で襲撃されたという話が気になっていた。
(ミハイル殿下たちを狙ったってことは・・・、この木箱を狙っていたってことだよね?――――それって、もう、何かが動き出しているってことなのかしら・・・)
「ええ、偽オアシスで賊の襲撃に会いました。ブカスト王国では偽オアシスを作って、キャラバンを襲撃する事件が多発しているそうです」
「えっ、良くある!?偽オアシスが?」
「はい、黄龍軍の方が言われてました」
ミハイルはキッパリと言い切る。
「そうなのですね」
キャロルは予想外な展開に驚く。
(ということは、木箱が狙われていたというワケじゃないのね。それはそれで良かったけれども・・・。いやいやいや、偽オアシスって、どういうことよ!そんな簡単に作れるものなの?――――砂漠に水を運んで池を作るなんて、想像もつかないのだけど~。――――ただ、砂漠のオアシスって、旅人は絶対に気を緩めるわよね。で、賊はその隙を狙って盗む。目の付け所はいいのかも!!――――んんん!?盗賊のことを褒めたりしたら、ダメじゃない!!あいつらは悪事を働いているのよ!)
「――――皆さま、無事に救出されて良かったですね」
余計なことを考えていたと悟られないよう、キャロルはさも心配していたかのような言葉を吐く。
「ええ、本当に」
(くーうっ、ミハイル殿下、無垢な微笑みっ~!!ロクでもないことを考えてしまって、ごめんなさーい!!)
ミハイルは笑顔でティーカップを口へ運ぶ。
黄龍軍の活躍で無事に解決出来たから良かったものの、ミハイル達がソベルナ王国の王太子の結婚式に向かう途中で命を落としていたら、間違いなく国際問題になっていただろう。
何より襲撃された場所がブカスト王国というのが良くない。
今、ソベルナ王国とブカスト王国は長年の軋轢を乗り越えて親交を深めようとしているところなのだから。
「黄龍軍の皆さんが護衛や侍女たちを救出してくれたので本当に助かりました」
二つ目のタルトを食べ終えたルナが会話へ戻って来た。
「カルロも出ていたらしいですね」
マクスは薄ら笑いを浮かべてカルロの名を口にする。
(マクス・・・、無意識なのかもしれないけど、カルロ殿下に対してやっぱり意地悪だわ)
「はい、実は私達、彼がブカスト王国の第三王子殿下だとは思っておらず・・・。一昨日の夜会で再会した時は本当に驚きました。それまで、黄龍軍の将軍(軍人)だと思っていたのです」
「うふふふ、そうなのですね。逆に私たちはカルロ殿下の第三王子の顔しか知らな・・・」
キャロルは途中で言葉を止める。
以前、カルロが第一王子ナスタへナイフを投げた時のことを思い出したからだ。
(そうだったわ。あの時、カルロ殿下はナスタ殿下に激怒して、ナイフを岩に・・・)
「部下曰く、かなりお強いらしいですわ」
「――――そうなのですね」
キャロルは余計なことを口走らないように当たり障りのない相槌を打つ。
(そういえば、他にもルナ様に聞いてみたいことがあるのよね~)
「ルナ様は巫女をされていたのですよね?」
「は、はい」
唐突な話題変更に、ルナは動揺する。
「私、何でも願いの叶う『天使カード』を・・・」
「あー、待て!!キャロル、それはダメだ!!」
カルロの話には積極的に参加せず、呑気に紅茶を飲んでいたマクスだったが、『天使カード』というキーワードを耳にすると、慌ててキャロルを制止した。
まだ『一般人に魔法の使用を許可する』という法案を通す迄に至っていないため、王太子妃になる前のキャロルが『天使カード』に魔法で効果を付与をしていたという話はタブーなのである。
「大丈夫。今現在の話しかしないから・・・」
キャロルは小声でマクスを宥めて、話を続ける。
「私の故郷のリューデンハイム領に『天使の丘』という恋人たちに人気のスポットがあります。そして、そこで売られている『天使カード』は、願いが百バーセント叶う恋愛成就の手助けをするお守りなのです」
「百パーセント!?」
ルナは目を剥く。
「はい、ご興味があれば是非、遊びに行ってみて下さい」
「ここからは遠いのですか?」
ルナは食い気味にキャロルへ質問する。
「あ、ご興味を持たれた感じですか?」
「はい、私の所属していた大聖堂のお守りにはそんなに強力なパワーはありませんでしたから・・・。あ、すみません。この話は他言無用でお願いします」
「はい、勿論、他言は致しませんのでご安心を!」
口を滑らせてしまったと焦るルナを安心させるため、キャロルは即答した。
――――実は今『天使カード』は、少しおかしな状況に陥っている・・・。
当初の『天使カード』には、キャロルが『告白した相手が百パーセント返答してくれる』という効果を魔法で付与していた。しかし、現在はテリーという地元の絵描きにカードの作画を任せているだけで魔法の付与はしていない。
なのに、効果が無くなったという噂がひとつも出て来ないのだ。
元巫女のルナなら、その理由が分かるのではないかとキャロルは考えたのである。
「行きたい時は一瞬でお送りしますよ」
「???」
キャロルの発した言葉の意味が分からず、首を傾げるルナ。マクスは隣からフォローを入れる。
「実はおれの妻も魔法使いなんです」
「「えっ!?」」
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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