6 ブカスト王国の砂漠化を防げ 4 バラバラの玉
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「あ~」
木箱を開けて、マクスが声を上げる。
彼の手元に注目していたミハイルとルナは血の気が引いていく。
――――これは前代未聞の大失態だ・・・と。
「あら、割れてしまったの?」
キャロルの発した一言で我に返ったミハイルは、その場で地面に頭を擦りつけて、動かなくなってしまった・・・。
♢♢♢♢
結婚を祝う夜会の席で、バッシュ帝国の皇太子ミハイルはマクスとキャロルに後日、改めて面会したいと打診した。
理由は直接手渡したいものがあるからとのこと。
しかし翌日は二人で王家の霊廟へ挨拶に行く予定が入っていたため、翌々日にティータイムをご一緒しませんかと誘った。
そして今、ティータイムの冒頭でミハイルから手渡しされた木箱を開けてみると・・・、中身がバラバラに割れていたのである。
ミハイルはその場で土下座をして謝った。しかし、バッシュ帝国以外の国では土下座という文化がないため、マクスとキャロルはミハイルが何をしているのかが分からず、ポカンとしてしまう。
ここで、彼の行動の意味を教えてくれたのはルナだった。
――――これは目下の者が目上の者へ重い謝罪をする際に取る礼式なのだと・・・。
他国の皇太子にそんなことをさせるわけにはいかないとマクスは直ぐに彼の腕を引き上げて止めさせた。
「私は飛んでもないことを・・・」
ミハイルはどうやってお詫びをしたらいいのかが分からず、混乱している。
「ねぇ、マクス。もしかして、これって・・・」
キャロルは木箱の中にあるバラバラの破片を指差す。
「――――おれも何となくそうじゃないかと思っている」
「だよね?」
二人のやりとりをルナは黙って聞いていた。
「私に任せてくれる?」
キャトルはマクスに向かって手を差し出す。彼はうんうんと頷いて、木箱を彼女の手の平にのせた。
彼女は木箱の上にも反対の手を置き、上下で挟み込む。
(壊れる前に戻れ!)
キャロルが願いを念じると、ゴトッという低い音がした。
(上手く行った?)
そろりと上に置いていた手を退けると・・・。破片はひとつにまとまって、丸い玉に戻っていた。大きさは手のひらにのるくらいである。
「おっ!キャロル、流石だな!!ミハイル殿、これを見て下さい」
キャロルはミハイルの前に木箱を付き出した。彼は中を覗いて絶句する。
「え、嘘・・・、凄い」
代わりに反応を返してくれたのはルナだった。
「殿下!良かったですね!!キャロル様、ありがとうございました!!」
ルナはまだ茫然としているミハイルを引っ張って喜ぶ。
ここでミハイルとルナは、キャロルがどうやって破片を元に戻したのかという疑問を喜びの余り失念してしまう。
「では、お茶を楽しみながら、ゆっくりこれのことを聞かせて下さい」
マクスは早く聞きたいという気持ちを抑え、廊下で待機させていた使用人たちを部屋へ招き入れてお茶の用意をさせる。そして、それが終わると彼らをサッサと部屋から追い出した。ついでに防音の結界も張っておく。
「さて、仕切り直しましょう。ミハイル殿、これは?」
テーブルの上に置かれた木箱をマクスは指差す。
「これは・・・」
ミハイルはここへ至るまでの話をマクスとキャロルへした。
「――――ということは・・・、これを四千年近くも預かっていたということですか?」
マクスはバッシュ帝国とソベルナ王国の初代皇帝が親しい仲だったということに驚く。そして『大切なもの』を預けていたということも今、初めて知った。
――――しかも、この『大切なもの』は先日、アレックスが言っていた王龍を目覚めさせるために必要な玉で間違いないなさそうだ。
「はい、そうです。そして、我が国の皇宮が窃盗団に襲撃される事件が五百年ほど前に多発し、鎖国に踏み切りました。これをお返ししましたので、我が国は近日中に鎖国を撤回し・・・」
「は?」
マクスは鎖国の理由が『大切なもの』だったと知り、思わず声を出してしまう。
「これの存在をソベルナ王家の方々は御存じなかったのでしょう。驚かれるのも分かります。しかし、我が皇家はソベルナ王国の初代皇帝と共に異世界からの侵略者を討伐し・・・」
「待って、待って、待って~。ミハイル殿!!それも我が国の歴史には残っていない話です。すみませんが、もう少し詳しく教えて下さい」
(異世界の侵略者ってキーワードが出たわね。昨日、アレックス陛下が言っていた異世界からハーゲン・ロックを狙っている者がいるという話と繋がっているのかしら・・・)
キャロルは一言一句、聞き逃してしまわないようにと気を引き締める。
チラリと向かい側を見るとルナが紅茶を一口飲んで、フワッと微笑んでいるのが見えた。
(ルナ様、この状況でお茶を楽しんでいる!?か、かなり度胸のある御方だわ・・・)
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