5 ブカスト王国の砂漠化を防げ 3 襲撃
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
何とか日が昇り切る前に、一行はオアシス・ヴェルデへ到着した。ここで日中は身体を休め、また夜に出発し、次なるオアシスへと向かう予定だ。
「ここは安全な場所だ。護衛たちも交代で水浴びをし、休息を取らせておくように」
「はっ!殿下、ありがとうございます」
予定通りにオアシスへ到着し、ミハイル達は気を緩めてしまう。彼らが事件に巻き込まれたのはこの数時間後だった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「殿下!!」
仮眠を取っていたミハイルをたたき起こしたのはルナだ。いつも優雅な雰囲気の彼女が何やら殺気立っている。そして、彼女の手には短剣が・・・。
ミハイルは一気に覚醒した。
「何事だ?」
「賊です!今、護衛達が応戦しています」
「規模は?」
「殿下、このオアシスは・・・」
ルナは外に声が漏れないよう、ミハイルの耳元へ囁き掛ける。
「――――ここは私たちの目指していたオアシスではなく、賊の用意した偽のオアシスの可能性があります。今、私の侍女に伝言を託し、護衛隊長の元へ送りました。殿下と私はここを抜け、本当の目的地へ向かいましょう」
「――――何だと!!」
「ここは隊長たちに任せましょう。私達はこれを確実にソベルナ王国の王太子夫妻の元へ持って行く義務があります」
彼女のいう通りだった。今回の目的は長きに渡り、代理保管していた大切なものをソベルナ王国へ返すための旅路だ。ミハイル達がここで殺されてしまっては元も子もないだろう。これを他の者の手に渡すわけにはいかない。
「分かった。ルナ、馬は?」
「乗れます」
「よし、ここから脱出しよう」
ミハイルは枕元に置いていた包みを胸元に入れ、彼女と共に天幕からコッソリと抜け出した。
無我夢中でオアシスから脱出し、ルナと二人で夕日が沈みゆく大地を駆け抜ける。幸いだったのは道がしっかりと整備されていたことだ。
遠目にオアシスが見えて来た時、不覚にも涙が頬を伝った。隣にいるルナは黙って、ハンカチを差し出す。
「殿下、大丈夫です。我が国の護衛たちは全員、敵を倒し、私達の後を追ってきます」
ルナは確信しているかようにミハイルへ告げた。彼女はこんなに強い人だったのかとミハイルは驚いてしまう。
辿り着いたオアシスで助けを求めると、ブカスト王国は最強の軍(黄龍軍)を出して、迅速にミハイルの護衛や侍女達を救出し、全員をソベルナ王国との国境まで送ってくれたのだった。
♢♢♢♢♢♢♢
ソベルナ王国の王太子マクシミリアンの結婚を祝う夜会で、ミハイルとルナは意外な人物と再会する。
「先日はありがとうございました」
「ミハイル殿、その後、護衛隊長は動けるようになったのか?」
「はい、おかげ様で傷も塞がって、一人で起き上がれるようになりました。――――国境まで送っていただいた上、護衛達に手厚い治療まで・・・、黄龍軍の皆さんにはとても感謝しています」
「あっら~!ミーくんは義理硬いタイプなのねぇ~」
意外な人物というのは、ブカスト王国の第三王子カルロのことだ。先ほどまで、ミハイルは彼のことを黄龍軍の将軍(軍人)だと思っていたのである。
だから、彼が王族だと知って驚いてしまった。隣で微笑んでいるルナも多分、同じ気持ちだろう・・・。
その上、彼のパートナーはソベルナ王国の大魔女サンディーなのだという。
サンディーは事あるごとにミハイル達へ声掛けをしてくれる。知り合いの少ない二人にとって、彼女の存在はとても心強かった。
「世間知らずな私たちは、沢山の方にご迷惑をお掛けしてしまいました」
「いいのよぉ~。あたしたちは同じ大陸人に住んでいるのだから、もっと、もっと仲良くしましょう~!!」
サンディーは明るく励ます。ミハイルとルナはうんうんと頷いた。
「カルロ~、さっきはすまなかった!!」
背後から突然、お詫びの言葉を投げかけて来たのは、今回の主役マクシミリアン王太子である。彼はキラキラとしたオーラを身に纏う人物だ。
生まれながらの英雄とはこういう人のことをいうのだろう。
マクシミリアン王太子はバッシュ帝国でも人気がある。始祖返りとも言われる膨大な魔力を持ち、見目麗しい貴公子であるということが知られているからだ。
「気にはしていない。そもそも、私が悪かったのだから」
「もう、あのことは蒸し返さない。お前はそれ以上のことをおれたちにしてくれている」
マクスはカルロに手を差し出す。カルロはその手を取った。ミハイルはその様子を黙って眺めていたのだが・・・。
「マクシミリアン王太子殿下も、カルロ殿下にお世話になられたのですか?」
彼らに話し掛けたのはルナだった。
「あ~、お世話になったというか・・・。その辺は機密に当たる内容もあるので詳しくは言えないのですが・・・」
マクスはしどろもどろな説明を口にする。
「ああ、もう!マクス!しっかりしてー!!ルナ皇太子妃殿下、カルロと私たちは共同でプロジェクトを進めているのです」
ハキハキと答えたのはマクシミリアン王太子の妃キャロラインだった。彼女は意志の強そうな大きな目がとても印象的だ。そして、キラキラとしているマクシミリアン王太子の横に立っていても見劣りしない迫力と美貌を持っている。
「キ、キャロライン様、そうだったのですね」
「ルナ皇太子妃殿下、キャロラインって言い難いでしょう?宜しければキャロルとお呼び下さい」
「では、キャロル様とお呼びします。私のこともどうぞ、ルナと呼んで下さい」
キャロルはマクスに大丈夫かどうかを目配して確認する。彼は大丈夫だと言う意味を込めて、ゆっくりと頷いた。
「はい、私もルナ様とお呼びいたしますね!」
「あ~、ル~ちゃん、私のこともサンディーって気軽に呼んでね!」
「だ、大魔女様・・・・!!」
「ちが~う!!サンディーね!!」
勢いに押されて、ルナは後退る。彼女を受け止めたミハイルは、ルナの耳元へ入れ知恵をした。
「――――サンディ様?」
「様は、くすぐったいわぁ~」
サンディーにバッサリと却下され、ミハイルは苦笑いを浮かべる。
「――――サンディーさん?」
「はぁ~い!!!」
ルナに元気よく返事をしたサンディーを見て、みんな楽しそうな笑い声を上げたのだった。
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