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2 霊廟 2

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 祭壇の奥から怪しげな音がして、キャロルはヘナヘナヘナと床へ崩れ落ちた。――――恐怖心が限界を超えたからである。


「キ、キャロル、大丈夫か!?」


 マクスは直ぐに跪き、彼女を抱き寄せた。


「――――全然、大丈夫じゃない・・・。マクス、これって何の音なの?」


「いや、それはおれにも分からない・・・って、ええええー!?」


 キャロルはマクスの驚く声が気になったが、怖くて顔を上げられない。


「よく来た。アイリスの紋章を与えられた者たち!!」


(ん?誰!?この可愛い声は・・・)


 キャロルの脳裏に疑問符が浮かぶ。


 マクスが大声を上げたのは霊廟の奥から、見知らぬ少年が現れたからだ。


 しかし幸いなことに、彼の身体は透き通っていないし、靴を履いた足もしっかりと見えていた。


――――マクスは自信を持って、彼女に告げる。


「キャロル、大丈夫だ!この声の主はお化けじゃないぞ!!」


「――――そ、そうなの?」


 キャロルはマクスの力強い言葉を信じて、目を開く。すると、祭壇の向こうに少年がいた。年齢は七、八歳くらいだろうか。


 少年はサラサラの金髪を後ろで束ねていた。意志の強さを感じさせる大きな目には紫色の輝きがあった。


(紫色の瞳・・・、サンディーさんやマクスと同じだわ)


「で、君は誰?」


 キャロルが聞きたいと思ったことをマクスが口にした。――――以心伝心である。


「僕は初代皇帝アレックスだ!」


「「は?」」


 キャロルとマクスの声が重なる。


「子供の姿をしているのは力をセーブするためだ」


「ふ~ん」


 マクスはジーッと少年の顔を観察する。


――――この子と同じ年頃の王族といえば、弟のリチャードなのだが・・・。


「一応、聞いておくが、君って、リチャードと双子だったりする?」


「リチャード?――――僕はその人を知らない」


「そうか」


 流石に産まれた時から知っている弟に、実は双子の兄弟がいると言われたら、マクスもショックだ。――――しかし、その線はないらしい。


 ならば、自己申告どおり、彼はソベルナ王国の初代皇帝なのか。いや、それを判断するには少し材料が足りない。


 もし、彼が初代皇帝アレックスだという話が真っ赤な嘘だった場合、勝手に霊廟へ入り込んでいる時点で、例え子供であろうと厳しく裁かなければならないのである。――――だからこそ、慎重に確認する必要があるのだ。


 キャロルは二人のやりとりを聞きながら、アレックスと名乗った少年のことを観察していた。


「マクス、この子って、私とマクスに似ていない?」


「え?」


「髪の色と目の形は私で、瞳の色と顔の形はマクスに似ているわ」


「ん~、言われてみれば確かに・・・」


 二人からまじまじと見つめられて、恥ずかしくなったアレックスは両手で顔を覆ってしまう。


「あなた方は本当に・・・」


「本当に何?」


 キャロルは聞き返してみる。


「いや、何でもない」


 彼は顔を覆っていた手を外すと、真剣な面持ちでマクスとキャロルにこういった。


「アイリスの紋章を持つあなた方に頼みたいことがある」


「君、本当に初代皇帝なのか?」


「そうだ」


 彼を信じて良いものだろうかと、マクスはまだ悩んでいる。


「ねぇ、あなたの娘の名前を教えてくれない?」


 ここでキャロルが気の利いた質問をアレックスに投げかけた。


「アレクサンドラのことか?」


「そうそう!!ということは、あなたがサンディーさんのお父様ってことよね?」


「ああ、そうだ!」


 アレックスは力強く答える。


「マクス、彼は本物よ」


「おいおい、それくらいで認めていいのか!?」


「いいんじゃない?」


 慎重なマクスにキャロルは軽いノリで返す。


「それなら、最後に一つだけ質問させてくれ。君の親の名は?」


「それは非公開情報だ。歴史にも残っていないだろう?」


 アレックスは答える必要は無いとばかりに、マクスの質問を突っぱねる。


「ああ、今のが一番、本物っぽかった!」


 ここで漸く、マクスは彼を本物だと認めた。


 ただ、初代皇帝アレックスが幽霊かどうかは・・・、キャロルを泣かしてしまうかも知れないので、下手に触れるのは止めておこうとマクスは決意する。


「キャロル、どうする?話だけでも聞いてみるか?」


「うん、聞いてみよう」


 キャロルの賛同も得たので、マクスは改めてアレックスに問う。


「おれたちに頼みたいことって何ですか?」


「あなた方に頼みたいことは二つある。一つ目は黒の森のハーゲン・ロックに強力な結界を張って欲しい。あの岩に封印されている妖精の力を異世界から狙っている奴らがいるからだ。二つ目は王龍の神殿を乗っ取っている者どもを排除し、封印を解け、王龍が目覚めればブカスト王国の砂漠化が止まるだろう」


 彼の頼み事は結構ヘビーな内容だった。


 ハーゲン・ロックに妖精の力が封印されているという話を聞いて、マクスとキャロルは驚く。先日、尋ねた時には何の違和感も感じなかったからだ。


 その上、異世界から狙われているなんて言われても、話のスケールが大きすぎて正直ピンとこなかった。


 一方、ブカスト王国の砂漠化はこの大陸中でも問題視されている案件なので、それを改善する方法があるのなら、是非、チャレンジしてみたいとマクスは思った。


「キャロル・・・」


 マクスは彼女の耳もとに唇を近づけて囁く。


「――――受けてもいいか?」


「マクスがやるって言うなら、私も手伝うわ」


 キャロルは快諾した。


 マクスはアレックスに向かって宣言する。


「初代皇帝アレックス。おれたちはその頼みを引き受ける」


「ありがとう。よろしく頼む」


 少年姿のアレックスは満足げに微笑む。


(あら、笑ったら可愛いわね)


 キャロルも釣られて、つい微笑んでしまう。


「君の持っている情報は俺たちに教えてくれ。それと、サンディーにも手伝わせていいか?」


「ああ、情報なら・・・。それよりも、サンディーとは誰だ?」


「君の娘だ」


「は?」


 アレックスはハトが豆鉄砲を食らったような顔をする。


「先日、生き返って大活躍しているぞ!」


「ああああ・・・、我が娘はそんなことまで、出来るのか・・・」


「昔からじゃじゃ馬だったのか?」


「いや、魔法には長けていたが、じゃじゃ馬では・・・」


「――――サンディーは魔塔で長い時間を過ごしているうちに性格が弾けたのかも知れないな・・・。アレックス、もう一度聞く。サンディーをこの件に巻き込んでもいいか?」


「構わない」


「分かった。それじゃあ・・・、先ず、何からしたらいい?」


「アイリスの紋章を持つ後継者の元に、近々、私の預けた玉を誰かが持って来るはずだ。それを手に入れたら、王龍の神殿へ向かって欲しい」


「了解。で、ハーゲン・ロックは?」


「北東の領地で『妖精の石板』の行方を探れ、全部で四枚あるはずだ。それを手に入れたら、ここに持って来て欲しい」


 アレックスの話を二人は真剣に聞いていた。


 最早、自分たちがここへ結婚の挨拶をしに来たということなど、すっかり忘れている。


 飛んでもなく面倒なことを請け負ってしまったと二人が気付くのは、城に戻ってからだった。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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