102 存在感
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
歌詞を聞きながら、色々と考えてみても何も浮かばない。
国や家族を懐かしく思う気持ちと、今、自分はこの国を興し、高い志を持って生きていくと言うような内容だった。
言うまでもなく、国歌は子供の頃から知っている。
今も昔も、特に違和感を持ったことはない。
国歌の演奏が終わり、わたしはマクスの袖を引く。
「どうした?」
「あのね、何が意味深なのかが分からないの」
周りには気付かれないよう、穏やかな笑顔で語り合う。
「そうか、また詳しいことは今度にしよう。そろそろ出発の時間だ」
マクスが視線で教えてくれた先にいる楽団員達は、一度下ろしていた楽器を再び構えていた。
指揮者が指揮棒を振ると、迫力のあるファンファーレが鳴り響く。
同時に馬車がゆっくりと動き始め、続いて軽やかな曲の演奏が始まった。
「さあ、出発だ」
マクスは私の腰に手を回して、ギュッと抱き寄せた。
突然だったので、グラっとした。
「マクス!」
「これくらい近付いていたら、緊張しないだろう?」
全く悪びれることも無く、いい笑顔で返して来た。
確かに落ち着くので、そのままにしておこう。
大通りを進み始めると、先日マクスと行ったカフェが、、、。
あれ!?見えない。
「人が多過ぎて、あのカフェの場所も分からないわね」
「ああ、かなりの人出だ。こんなにパレードって、賑やかなんだな」
マクスは沿道の人たちに手を振りながら、私の質問に答える。
そこで少し大きな声が上がった。
「きゃー!!」
「浮いてる!?」
「えええ!?あれは女の子?」
彼らは空を指差している。
沿道の人たちが一斉に空を見上げる。
私達も指差している方を見た。
あ、あれは、、、。
「ヤッホー!!アタシは、この国の大魔法使いサンディーだよぉー。まーちゃん、キャロちゃん、結婚おめでとう!!」
沿道の建物よりも少し上で、ぷかぷかと浮いているのはサンディーさんだった。
どうやったら、あんなに声が通るのだろう?
叫んでいる訳でもないのに、その声はしっかりと聞こえた。
ぷかぷかと浮かんでいるサンディーさん、軽やかな黒い生地に金糸の細かな刺繍がはいったローブを纏い、長い銀髪はさらさらと風に靡いている。
そのお顔も姿も相変わらず美しかった。
突然“大魔法使いサンディー”が降臨したことで、辺りは騒然となる。
気を利かせたのか、馬車も停止した。
「あいつ、何やってんだよ」
マクスがボヤく。
サンディーさんは両手を広げた。
「さあ、これはアタシからのプレゼントだよぉ!!みんなにあげるから、押したりしないでねぇー」
彼女が言い終えると同時に、何かが大量に舞い落ちてくる。
人々は頭の上に手を伸ばし、その何かを取ろうとした。
ふわふわと舞いながら、一人一人の手にサンディーのプレゼントが届く。
受け取った者達は、そのプレゼントを食い入るように見ている。
私とマクスのところへも、ユラユラと一歩遅れてプレゼントが舞い降りて来た。
手を伸ばして受け取ると、私とマクスの顔が描かれたブローチだった。
金色で楕円形のブローチは、アイリスの紋様で縁取られ、中心には私達の肖像画、裏には留めるためのピンと今日の日付が刻印されていた。
「あ、これ、凄くない!?」
「ああ、俺の髪型が、、、」
肖像画のマクスは、さっき、イメチェンしたばかりの新しい髪型になっている。
「まーちゃん!突然、髪型変えるからビックリしたわぁ!!」
上から、サンディーさんが叫んだ。
沿道の人たちの視線がマクスヘ集まる。
「王太子殿下、ハンサムー!」
「似合ってるぞー」
「素敵ー」など、褒める声が沢山掛かる。
「まーちゃんカッコいい!」と言う声が、何処からか聞こえてくると皆が笑った。
その後は、まーちゃんと呼ぶ声が、彼方此方から聞こえて来る。
マクスは様々な声援にも、余裕を持って、素敵な笑顔を返していた。
「キャロちゃん、とても綺麗よー!!ハイ、しっかり笑って頑張ってねー!!」
サンディーさんは手を振りながら、私に向かって言った。
今度は、私に視線が集まる。
「キャロちゃーん!可愛い」
「王太子妃殿下ー!」
「おめでとー!!」
「キャロちゃーん」
「キャロちゃん、ガンバレー!」
何だか、今後、王国民の皆さんから、キャロちゃんと呼ばれそうな気がする。
最近のキャロはダメだ!とか言われない様にしなきゃ。
いや、ダメだ!って何よ!?
変な想像をしていたら、自然に笑えた。
「それじゃあ、皆さん、またねー」
サンディーさんが、手を振ると沿道の人々もこぞって笑顔で手を振り返す。
そして、彼女の姿が最高のタイミングで、スッと消えた。
「うわー!!」
「消えたー!?」
「大魔法使いさまー!!」
大きな歓声が上がった。
スゴイ!!
元女王だけあって、人心掌握が上手い。
「これ、アイツが作ったのか」
マクスは、ブローチを手のひらに置いて、じーっと眺めながら言った。
「即座に作った可能性があるわよね?魔法って何でも出来るのね」
「・・・そうだな」
馬車はゆっくりと動き出す。
沿道の人々は、受け取ったブローチを笑顔で眺めている。
私はその姿を見て、とても温かな気持ちになった。
沿道の人々と目が合うと、最初はビクビクしていたのに、段々と気持ちが通じてくるような感覚がして、気付けば、笑顔で手を振っていた。
また、サンディーさんは、一度だけではなく、その後も新たな通りに馬車が入る度、空から現れては、ブローチを配り続けた。
きっと、パレードを見に来た全ての人にブローチが渡るよう配慮したのだろう。
そして、この行動で、“ソベルナ王国の大魔法使いサンディー”の存在を、王国民は事実として認識した。
パレードは最初の大通りへと戻って来た。
後は、ここを真っ直ぐ進んで、王宮へと戻るだけだ。
「マクス、こんなにパレードが楽しいなんて、思わなかったわ!!」
「ああ、おれも楽しい」
「沿道の皆様も来てくれてありがとう!!」
二人で、王国民へ向かって手を振る。
最初から最後まで、沿道には多くの人が溢れていた。
この風景は一生忘れられない。
マクスの横顔を見た後、美しい青空を仰ぐ。
今は消えたけど、サンディーさんが笑顔で手を振っている姿が、私の脳裏にはしっかりと焼き付いていた。
無事に王宮へ戻り、マクスがボヤいた。
「サンディーに負けた。余りキス出来なかった」
そこで、ハタと気付いた。
マクスとサンディーは、私が緊張して失敗しない様にしてくれていたのだと。
「マクス、パレードとっても楽しかったわ。ありがとう」
マクスは、突然のお礼にビックリしている。
「緊張しないようにしてくれたでしょ?」
「ああ、そんなに大した事はしてないから、気にしなくていい」
珍しくツンと言い返して来た。
サンディーさんへの対抗意識?
「サンディーさんが大魔法使いって、すぐに浸透しそうね」
「ああ、国民のツボが分かっていそうだからな」
マクスの返事が冷たい。
「元女王なのだから、私達が敵わなくて当たり前よ」
「でも、負けたくない」
ブスっとしているマクスが可笑しくて、とうとう、笑ってしまった。
マクスが、ジト目で私をみる。
「私は勝ったとか負けたとか言わない、いつものマクスが好きよ」
私の言葉でハッとしたのか、マクスはジト目を辞めて、麗しい表情に戻った。
その素直なところが大好きよ。
「名残惜しいけど、夜会の準備に行くね」
「えええ、もう?」
「そう、直ぐに戻って来て下さいって言われているのよ」
「昼食は?」
「多分、締め付けられていて余り入らないから、途中で何か摘むくらいだと思う」
「花嫁、過酷過ぎる」
「そうね、でも一生に一度のことだから頑張、、、」
言い終わる前に、ギュッと抱き締められた。
「マクス、衣装がぁ!」
顔を上げて訴える。
「着替えるなら問題ないだろう」
マクスはそのまま、私にキスをした。
軽くない、全然軽くないキスを!!
「んー、、、」
腕を叩いて、訴えても辞めてくれない。
好き勝手に口の中で暴れて、私の思考をグズグスにした。
このまま、ベットに行ってコルセットも全部脱ぎ捨てたいと思うくらい、、、。
漸く、唇が離れる。
気が済んだマクスの顔は大惨事になっていた。
隠しポケットからハンカチを出して、マクスの顔を拭う。
口紅がハンカチにベットリと付く。
マクスもポケットから、ハンカチを出して、私の口元を優しく押さえた。
私達は何をやっているのだか、、、。
自然と二人で可笑しくなってきて笑った。
さあ、次は夜会!!
パレードみたいに楽しいことがあります様に。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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