101 絶妙なバランス
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
えええー!?
「マ、マクス!!」
ドアの向こうから現れたマクスを見た途端、腰が抜けた。
「妃殿下!」
サリー、マリー、エリーの侍女三人組が慌てて私の身体を支える。
「キャロル、驚かせて済まない」
マクスはわたしに駆け寄り、顔を覗き込んだ。
う、無理!!
「無理!!ズルい!!マクスの馬鹿ぁー!」
「ええええ、ダメか!やっぱりコレはダメなのかー!?」
マクスは、挙動不審な慌てぶりで、私を置いたまま部屋から飛び出して行った。
「妃殿下、間違いなく本意が伝わっていませんよ」
「殿下が引き篭ったらどうします?」
「いや、私は早とちりをした殿下が、ダメだと思います」
侍女三人組は、それぞれ感想を述べた。
「とりあえず、誤解されているのは良くないと思います。妃殿下、ちゃんと言葉で伝えましょう」
サリーが私に苦言を呈す。
私は黙って頷いた。
コンコン。
「・・・・はい」
「マクス、話があるの。入ってもいい?」
「・・・・・・」
あー、凹んでいるわ、絶対。
「入るわねー!」
ドアノブを持って押そうとしたら、鍵が掛かっていた。
ショック、、、。
これは重症かも知れない。
だけど甘いわよ、マクス!!
私は室内へ転移した。
「うわっ!」
驚くマクスの目の前に降り立つ。
「あのね、誤解していると思ったの」
私は、さっきみたいに腰を抜かさないよう両手を腰に当てたまま、所謂、仁王立ちをして言った。
「・・・・・・キャロル、凄く綺麗だ」
私の言葉を、マクスは完全に無視した。
そして、遠慮なく私の頭から爪先までをじーっと眺めてから、下を向いた。
「凄いな、想像よりもはるかに美しい。惚れ惚れする。抱きしめたい!!」
ボソボソと何か呟いているみたいだけど、小声過ぎて、私には聞こえない。
「ねー!マクス!話を聞いて」
今度は彼の手を掴んで話しかけた。
振り向いた顔が尊過ぎて、クラクラする。
「ん、あ!キャロル、ごめん。おれ、、、」
何かを話し掛けたマクスを遮って、私は言った。
「あのね、カッコ良すぎるの!大体、何で急に髪型を変えたの!?そのアゴから耳へ向かう輪郭ラインの美しさだけで、私、眩暈がしたのよ。沿道の女の子たちが絶対倒れるわ。マクスのイメチェンが凄すぎて、私のことなんか誰も、見ない、と、思う、わ」
一気に捲し立てて、息切れした。
コルセットめ!!
今日の私、コルセット着用時の大声は体に悪いと学ぶ。
「カッコ、、、、いい?」
マクスは疑うような目で、ゆっくりと深呼吸をして息を整えようとしている私を見た。
「ええ、物凄く!!造形の素晴らしさが、今までに無いくらい際立っているわよ。左のこめかみから、右は顎下まで落ちる、その斜めにカットされた前髪が最高!頭の形と斬新なカットの絶妙なバランスは一体何なの!?ねぇ、有名な美容師でも呼んだの?本当に感動したのよ。機会があれば、是非、私もお願いしたいわ!!」
以上を息が切れないくらいの声で捲し立てる。
マクスのイメチェンは最高の出来上がりと言っていいだろう。
私は、とても興奮していた。
だけど、私が感動を伝えると、彼は喜ぶどころか、目を伏せて眉間を揉む。
「エリー、大活躍だな。エヴァンスにはボーナスを出そう」
「ん、何か言った?マクス」
「いや、独り言だ。そう言うキャロルこそ、絶世の美女感が半端ないぞ。あー、出来るなら、今すぐ抱き締めたい。だけど、綺麗に着飾っているから、ガマンしないとなー」
マクス、、、。
「ギューはダメだけど、軽いキスくらいなら、、、」
私は、自分の唇を指差した。
「口紅は?」
「あ、そっか、、、。ちょっと待って」
私は隠しポケットから、ハンカチを取り出してそっと唇を拭いた。
「これで、多分大丈夫よ」
言い終わると同時に、マクスは私の唇に触れるだけのキスを落とした。
「これ、逆効果。もっとしたくなる」
口を尖らせて、マクスが不満を言う。
「これ以上はダメ、我慢よ。マクス」
念を押す。
「分かった、分かっているよ」
「そう言う、気持ちを正直に伝えてくれるところも、我慢をちゃんと出来るマクスも大好きよ」
私は良く出来ましたと言う気持ちを込めて、マクスの切り立て、サラサラの髪を撫でる。
「正直か、、、」
マクスはそう言うと、ドレッサーの方へ歩いて行って、何かを取って戻って来た。
「キャロル、世の中では結婚式の時に新郎から新婦へ贈り物をするらしい。知っていたか?」
「ええ、聞いたことがあるわ」
私の返事で、マクスの表情が曇った。
「でも、それは世間一般のお話でしょう?私達には関係ないと思うけど」
「いや、結婚に纏わるなら、おれ達も関係なくは無いだろう。それなのに、おれはその事実をさっき知った。これはおれを心配して、父上が用意したキャロルへのプレゼントだ。本当に情けない話でごめん」
そう言うと、マクスは私の手のひらに金色の小箱を乗せた。
綺麗なブルーのリボンが掛かっている。
「陛下が?」
「そう、おれが準備していないことを、予測していたらしい」
苦笑いをするマクス。
「大体、忙しすぎて、プレゼントを用意する時間なんてなかったでしょう?」
「いや、それは言い訳でしかない。よくよく考えたら、おれは結婚する前もした後も、キャロルに何も贈り物をしていない。これからは気をつける。そして、沢山の贈り物もする!」
「いや、贈り物を沢山って、話が変な方向になって来ているわよ。贈り物より、大切なものをいっぱい貰っているわ。マクスと結婚してから、毎日がとても充実していて楽しいもの。ありがとう」
私はお礼を告げてから、手渡された小箱のリボンを開いた。
中には小さなメッセージカードと、美しく輝くサファイアのピアスが一対入っていた。
カードには“二人で、仲良く楽しい日々を”と書いてあった。
「陛下のメッセージが、マクスっぽい」
私は、カードをマクスに見せた。
マクスは目頭を抑え、天を仰いだ。
「後で、父上にお礼を言うよ」
「ええ、そうね」
私は、マクスの頭を撫でた。
マクスの立て籠もり事件は、あっさりと解決した。
お互いにカッコいい、可愛いと言い合う私達を温かい目で見守ってくれた周囲の人たちには感謝しかない。
皆の協力で、バッチリ仕上がった私達は、いよいよ馬車に乗って、王都パレードへと出発する。
王宮の正面玄関に出る前から、聞いたことが無いような大歓声が建物の中まで聞こえて来た。
一瞬で、足がすくんだ。
迅速に、マクスは私の腰に腕を回し、何事もなかったかのように進む。
「ありがとう」
「慣れないんだろう?大丈夫、おれが横にいるんだから」
「うん」
二人だけが聞こえるくらいの声で話し、気持ちを立て直す。
幸い、馬車は座ったままで移動するから、仮に腰が抜けてもバレないだろう。
正面玄関の扉が大きく開かれた。
馬車まで続く、赤い絨毯の上を二人で歩む。
外の様子が見えてくると緊張感と共に高揚感が湧き上がって来た。
こんなに多くの人を、私は見たことが無い!!
王宮から真っ直ぐ伸びる大通りの歩道を、人が埋め尽くしている。
建物のバルコニーにも、崩れ落ちてくるのでは無いかと心配になるほど人が溢れていた。
顔が、自然と強張る。
マクスを見れば、微笑を浮かべて、真っ直ぐ王国民の方を見ていた。
私のマクスは、堂々としていてカッコいい。
チラリとマクスは私の顔を見た。
笑顔を作りたいけれど、上手く出来ない。
どうしようと思ったら、マクスが私の額にキスをした。
うぉーーーおー!!という歓声が上がる。
マクスは私の耳元で「緊張したら、キスして誤魔化せばいい。皆も喜ぶから」と呟いた。
余裕綽々のマクスと、スタート前から顔が真っ赤、頭は真っ白の私。
パレードを楽しむどころか、最後まで上手く乗り切れるのだろうか?
不本意だけど、マクスに頼ろう。
それしか無い。
マクスは、私の手を取り、お花やリボンで豪華に装飾された馬車へとエスコートする。
二人で乗り込んで、着席する間も歓声は上がり続ける。
そして、馬車が出発する前に、横で楽器を構えていた王国楽団の前へ指揮者が立った。
最初に弦楽器が音を緩やかに奏で始めると、ワイワイガヤガヤと騒ぐ声が、つまみで音量を絞ったかのようにすっと小さくなっていく。
少しずつ、金管楽器、木管楽器、そして打楽器が演奏に加わり、自然とソベルナ王国の国歌“追憶の祖国は今も此処に”の前奏になった。
雄大な前奏が終わると、次は歌が始まる。
誰も言わなくとも、此処にいる全員が歌い出す。
迫力が凄すぎて、魂が震える。
私もマクスも一緒に歌った。
だけど、感動が込み上げて、声が震えてしまう。
まだ、パレードの出発もしていないのに、色々と込み上げてくるものが抑えられない。
すると、マクスは、ギュッと私を抱き寄せた。
「キャロル、この曲の歌詞って、意味深だろ?」
「は?」
「よーく聞いて考えろ。結構、我が国の秘密が見えてくるぞ」
込み上げて来たもの達が、ストンと落下した。
国歌の歌詞?
待って待って、待ってー!!
凄く気になるじゃない!!
私の緊張は何処かへ消え去った。
気付けば、王国民の歌に集中し、歌詞の意味を必死に考えていた。
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