1 サロン・ブルーム
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
マーベル伯爵ご自慢の庭園にあるゲストハウス、サロン・ブルームでは連日賑やかな催しが行われている。
持ち主のマーベル伯爵は国王とご学友だったこともあり、交友関係が華やかな方として有名だ。
この国(ソベルナ王国)は、広大な平野で小麦を育て、傾斜地ではぶどうの栽培をして、ワインも生産する農業大国である。――――要するに、穏やかな気候に恵まれた平和な国ということだ。
一つだけ懸念があるとすれば、隣国のブカスト王国が辺境の領地を奪おうとしてくることだが、それも平和な国に似つかわしくない氷の刃と呼ばれる最強の騎士団によって、毎度、速やかに制圧されている。
話を戻すと、本日のお茶会の主催者はマーベル伯爵家のご令嬢リリス様だ。主賓に王太子の婚約者候補ナンバーワンといわれているカシャロ公爵家のご令嬢セノーラ様が招かれていた。勿論、取り巻きのコルマン侯爵家のご令嬢カレン様もご一緒に・・・。
末席に座っている私ことリューデンハイム男爵家のキャロラインに発言権など有りはしない。仕方がないので、人間ウォッチングを楽しみながら、美味しい紅茶とお菓子を食べて過ごす。
同じテーブルに座っているメンバーも冴えない子爵、男爵家のご令嬢ばかりで、遠目に見える華やかな衣装を身に纏ったご令嬢の方々は、別世界の生き物にしか見えない。
「キャロル、このサブレ食べてみて!美味しいわよ~」
隣に座っているのはメルク男爵家のご令嬢のマリアである。彼女はお茶会の度に、キャロルへお菓子を勧めて来るのだ。
「マリア、あなた食べ過ぎよ。それに、あまり目立たない様にした方が、、、」
キャロルの言葉で、マリアは顔色を悪くする。
「キャロル、もう少し優しく言ってあげて!」
マリアを挟んで反対側に座っているマクラーレン子爵家のご令嬢エリナはキャロルに注意する。
「あら、ごめんなさい。だけど・・・、マリアに『それ以上食べたら、もっと丸くなっちゃうわよ』って、言う方がキツいかな~と思って・・・」
「ヒドイわ!キャロル!!」
マリアは立ち上がって叫んだ。
「もう!キャロル。わざと言っているでしょー!」
エリナはマリアの肩に手を添えて『いいから座りなさい』と促す。周りの視線を考慮してのことである。低位貴族が茶会で悪目立ちして良いことなど何もないからだ。
着席したマリアは、またすぐにサブレへ手を伸ばす。
「もう、マリア〜!」
エリナはため息をつく。マリアは懲りていないため、笑顔で美味しそうにサブレを齧る。
――――このやり取りも、仲の良い私達の中では様式美だ。しかし、今日はその様式美を壊す者が背後から現れた。
「あら、マリア嬢、お気に召していただいたのですね。ありがとうございます」
やけに丁寧な言い回しが何となく勘に触ってしまう。発言主は本日の主催者リリス様だった。
(私達を呼んでも、普段は全く話しかけることなど無いこのお方が、一体何の用?)
キャロルはつい警戒してしまう。
「ご機嫌よう。皆さま、楽しんで下さっていますか?本日のお菓子はカレン様からの差し入れなのですよ!」
リリスさまは笑顔で怖いことをいった。
(これ、最怖令嬢カレン様の差し入れだったの!?ううううっ、毒饅頭を食べた気分だわ)
カレン様は取り巻きの鏡と言われている。何故なら、セノーラ様の敵となるご令嬢を片っ端から消し去っているからだ。
過去にセノーラ様を差し置いて王太子に話しかけたご令嬢は気が付けば社交界から消え、婚約を打診したというご令嬢は他国へ留学、また彼とデートをしたという噂が立ったご令嬢は修道院へ入ったのだという。
そして、これら全てにカレン様が関わっているというのだ。
(ひぃぃぃぃ、怖っ!怖すぎるでしょ・・・。今回は何を企んでいるの!?)
もしかして『私達は粛清されてしまうのでは?』と、キャロルは怯える。
「はい、とても美味しくいただいています!」
人の良い、もとい、能天気なマリアはリリス様に笑顔でお礼をいった。リリス様もアルカイック・スマイルをマリアへ贈る。
「ところで、わたくしはキャロライン嬢にご相談したいことがありますの。少し宜しいかしら?」
(えー、ターゲットは私なの!?)
キャロルはリリスに手招きされる。
本音をいうと面倒なことになる前にサッサと逃げて帰りたい。しかし、ここは社交の場だ。
キャロルは気持ちを切り替えて、仮面を被った。
「少し席を外しますね」
あくまでもご令嬢らしく優雅に・・・、席へ残った二人へ告げる。
「行ってらっしゃい」
二人は声を揃えて、キャロルへ手を振ってくれた。
キャロルはリリスと共に、サロン・ブルームを後にした。
――――リリスはスタスタと歩き続け、中庭から邸宅の中へ入って行く。
(何処まで行くの?嫌な気配しかしないのだけど・・・)
階段を登り、三階の奥から二番目の扉の前で、ようやくリリスは立ち止まった。
「コンコン」
彼女はドアをノックする。
「――――はい」
中からの返事を確認し、リリスはドアを開いた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
大きな窓からたっぷりと陽が入る明るい室内には、豪華な調度品が沢山並んでいた・・・。
(うわ~、超武闘派家門の我が家とは大違いだわ・・・)
勧められるがままに、キャロルはソファへ座った。そして、カレンとリリスは向かい側に並んで着席する。
「貴方を呼んだのは、噂の『アレ』を手に入れたくて・・・」
カレンの言葉はとても小さかった。
(『アレ』・・・)
キャロルは彼女の言う『アレ』に心当たりがあるので頷く。
「キャロライン嬢、どちらへ行けば手に入るのかしら?」
今度はリリスが質問してきた。
「『アレ』は、リューデンハイム領の『恋人の丘』という場所で手に入ります。ただし、数に限りがあるのと、ご本人が行かなければ売ってもらえないと聞きました」
「『恋人の丘』は、何処から行くのが近いのかしら?」
「マロニエ街道を北に進み、ポピー村というところにあります。馬車で二日くらい掛かります」
「二日!?かなり遠いのね。それと、本人が行かないとダメなのね?」
「ええ、代理人などは断られるそうです」
リリスは隣に座っているカレンと小声でやり取りをする。そして、二人で頷き合っていた。
(何を企んでいるの~!?気になるけど、聞くのは怖い!!!)
「キャロライン嬢、ご丁寧に教えて下さりありがとうございます。大変申し訳ないのですけれど、今回のことは他言無用でお願いしますね」
「はい、他言はいたしません。ご安心下さい」
人に話したりして消されるのはイヤなので、キャロルは笑顔で了承する。
「ご用件はこれだけでしょうか?そろそろ、友人のところへ戻っても、構いませんか?」
「ええ、勿論よ。突然、呼び出してごめんなさいね」
申し訳なさそうにしているリリスを見て、キャロルは遠慮なく退席することにした。
――――廊下を歩きながら、キャロルは考える。
(ああ、マズい、不味過ぎる!!『アレ』のことを聞かれるなんて!!!色々と対策を考えなければ!!)
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