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悪女は妹です。  作者: ひめる
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01

 悪夢を見たような気がする。すべては思い出せない。けれど、確かに私は妹のあの子に殺された。夢の中で何度も苦しめられて、私を助けてくれる者は誰もいなくて。家族でさえも私を助けてくれる人などいなかった。そして、最終的に愛するあの人にさえ裏切られた。

 これは、夢じゃない。はっきりと、罪を被せられて処刑台に立ったあの周りからの視線を今でもよく覚えている。もしも、もう一度チャンスをくれるのならあんな愚かな選択はしない。そう神に誓った。でも…。


「(本当に過去に戻ってるだなんて…)」


 処刑前にばっさりと切られてしまったブロンドヘアはきちんと手入れをされているようで、腰下まである綺麗な長髪だった。

 大きなベッドに座りながらドレッサーの鏡をじっと見つめる。艶のある髪に血色の良い肌。あの頃は私以上にいい生活をしている者はいないと思っていた。父親にも可愛がられていると自負していた。けれど、それは全て見せかけで本当にあの人が愛していたのは妹のカタリナただ一人。そんなことにも気づかずに私はカタリナに騙され、処刑された。

 幼少期から娘に金を惜しむことなく使い続け「心配」という言葉をかけ続けては外に出ることを許さなかった父様。

 父様の伴侶、つまり私の母親を早くに亡くし過保護になっているだけだろう、と見過ごし続けた結果が悲劇を生むことになるとはあの時の私は思ってもみなかった。

 

「おはようございますペネロペお嬢様」

「エルサ…今日も美しいわ…」

「…?と、とんでもございません」


 美しい銀髪に整った顔立ち。過去の私は思ってもみなかったけれど、彼女は将来隣国の皇太子妃になる。当時はまだ平民出身が皇族の仲間入りなど反対する声が多数だったが、彼女の美貌と聡明さによってその考えの物は以前より減るようになる。

 そんなエルサを味方につければそう簡単には死なないはず...。甘い考えと言われればその通りなのだが、実際過去の彼女の影響力は凄まじかった。エルサが身に着けたアクセサリーやドレスは貴族を中心に大流行し、エルサを主人公とした小説まで隣国では知らない人はいないほどに有名な話となる。それほど彼女は愛されていた。だから、そんなエルサを味方につけておいて損はないはず。


「あの、お嬢様...?旦那様が食事にと」

「ええ、分かっているわ。支度をお願いできる?」

「はい、もちろんです」


 いよいよあの人たちに会わなくてはいけなくなってしまった。正直会いたいわけがない。今すぐこの家を飛び出したいし顔も出来ることなら見たくない。けれど、私は復讐をするために戻ってきたのだ。絶対にやり遂げるまで諦めるわけにはいかないわ。



「お待たせしましたお父様」

「おねぇちゃん!遅かったじゃない!カタリナ待ち疲れちゃったわ」


あれもこれも、全部嘘。可愛い自分を必死で作っていても結局あなたの中身は真っ黒のようであり、私は回帰前それに見事に騙されてしまった。

今度は絶対あなたに騙されないし、復讐までしてやる。絶対にだ。


「ペネロペ、よく眠れたか」

「ええ、とっても」


父様の、この甘ったるい喋り方も今思えばどうして耐えられたのだろうか。不自然極まりない。


静かな食卓にカトラリーを置く音が聞こえ視線を向けた。あの子だ。


「おねぇちゃん。わたしね、おねぇちゃんのあの真っ白なドレス貸してほしいの」


あの真っ白なドレス。


簡単な一言だけれど、あのドレスは母の形見だ。生前、パーティーやお茶会によく着ていったドレスで、真っ白でシンプルだけれど気品溢れるお洒落なデザインだ。それはそれは大事にしていて、私も母が亡くなってからドレスルームの一番奥で丁重に保管していた。


「それは無理ね。あのドレスがなんのドレスかわかっているの?あれは、母様が私たちのどちらかがお嫁に行く時に持たせるために自分が着るのを我慢してまで綺麗に保管していた物なのよ。それを母様の意向を無視してまであなたに貸すことは出来ないわ」

「何よそれ…。たかが一回だけじゃない……。それにもう母様はいないんだから誰がどう使ったって私たちの勝手でしょ」


カタリナにとってはたかがドレス一着かもしれない。だってカタリナの本当の母親は父様の愛人で私の母様とは血が繋がっていないんだから。

父様の愛人はカタリナを産んだ時に亡くなったのだと回帰前に知ったが、母様も愛人の存在を理解していたにもかかわらず、公爵家の立場と威厳を守るために愛人も父様も咎めなかった。

かといって、カタリナに対して酷い扱いをする訳でもなく、私たち二人を平等に愛してくれたのだ。カタリナがその気持ちに応えてくれるというなら私だって寄り添いたかったのに。子供に罪は無いもの。でも、彼女は愛人の娘にもかかわらず母様の善意を踏みにじった。本来公爵夫人の母様に逆らい愛人の子が公爵邸に住むのを許されてはいない。けれど、カタリナは父様に愛されていたのだ。それは私よりも愛情の大きなものだった。


「(愛している人の娘だものね)」


所詮私は愛想をつかされた亡き公爵夫人の娘。二人にとって私の存在は邪魔でしかなかったのだ。だから家に閉じ込めて、私の存在を社交界に見せることは許さなかった。自分の愛する娘はカタリナただ一人だと見せびらかすように皇后陛下のお茶会に参加したときは馬車が壊れたと嘘を吐かれたんだっけ。行けないのなら仕方がない、一つの馬車を妹に譲ってやろう、そう思ったのに。


「ペネロペ、カタリナに貸してあげなさい。たかがドレス一着で何を揉めているんだ。新しいドレスなら買ってやるから妹に譲りなさい」

「たかが一着ですって!?新しいドレスならカタリナに買ってあげたら良いじゃない!」

「父親に向かって何て言い方だ」


父様はカトラリーを置き、口元を拭った。その所作はとても綺麗なのに、それを台無しにするかのようにその口調は怒気を含んでいた。


「カタリナはあのドレスが良いと言っているんだ。お前には新しいドレスで良いだろう」


そういう問題じゃない。あのドレスにどんな思いが込められているかなんて、母様に興味のなかった父様にはわからないでしょうね。いつもいつも母様を無碍にして、自分の好き勝手遊び歩いていた父様は公爵としての仕事さえ母様に押し付け、母様が亡くなった後は私に引き継がせた。回帰前はこれが貴族令嬢の務めだと説明され、姉である私が引き継ぐのは当然のことだと理解したつもりだったのに。不自然なほどの量が送られてくると思ったらまさか夫人の仕事ではなく公爵の仕事まで押し付けられていたなんて。本当に信じられない。


「新しいドレスは要りませんし、カタリナにもあのドレスは譲りません」

「何を言っているんだ!」

「その代わりに私宛に届いていた皇宮舞踏会の招待状。私は体調不良ということにするのでカタリナに行かせてください。それでどうでしょう」


あのドレスを欲しがったのは回帰前も同じだった。もしも、回帰前と同じ道を辿るのならカタリナはドレスルームに侵入してまでドレスを盗む気だ。おそらくここで皇宮舞踏会の話を持ち出したとて足止めにしかならないだろうけどやらないよりはマシだ。


「カタリナ、どうする」

「カタリナはね、本当はあのドレスが欲しいんだ。でもおねぇちゃんのために我慢する!」

「偉いなカタリナ。デザイナーを呼ぶから新しいドレスを好きなだけ買うんだ。それでいいだろう。そういうわけだペネロペ。カタリナの優しさに感謝するんだな」

「ええ」


どうして私が悪者扱いなの。私は自分の持ち物…それも亡き母の形見を守っただけだというのに、強引に欲しがったカタリナが褒められてそれを断った私が理不尽に責められる。まあ今更この扱いにいじけていられるわけないけれど。そのために過去に戻ってきたのだから。


カトラリーを皿の上に並べて、音を立てずに席を立った。その様子を二人が見ていようと話しかけられることもなければ、過去だったら自分から話しかけていただろうけど今回は話しかけることもない。腹黒同士二人で仲良く食事していればいいわ。


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