保険を掛ける、師匠
その師匠は、結局、全てのことに関して心配性だった。
落語家の師匠だったが、たとえば自分の弟子の舞台が心配で、弟子の出る舞台は全部、舞台袖で、見ているぐらいだった。それだけで済めばいいが、弟子がセリフの途中でつまると、多分弟子の声をマネて、噺を語ったのだった。違和感があって、正直あんまりフォローになっていないので、それをするのをやめた方がいいと周りの人間は思っていた。
それから、弟子たちに自分の持っているお金を、ほとんどあげた。お金が無くて、いい落語が出来なくて困ってはいけないと思ったからだ。結果、自分が困るのだが。他の師匠の人たちは、これには、どうやったってマネられるものじゃないと、考えていた。
こんな、お人好しの師匠の落語は、とても面白くて、とても受けた。
ある日、色んなことを心配して、階段で滑って、運悪く死んでしまった。多分、色々考えていて、うっかり足がもつれて上手く動けなくなってしまったからのようだ。
でも、この師匠のお陰で目安が出来て、だから師匠は皆の保険へとなったのであった。
終
愛される師匠では、あるはな。