クラスの地味男子に告白されて断るつもりで一旦返事を保留したけど、親友や身内を始めあらゆる人が絶賛する彼って何者?!
古いネタを発掘したので仕上げて投下します!
読んでいただけると嬉しいです!
「西九条院さくらさん!好きです!付き合ってください!」
定番の校舎裏で告白しているのは彼女と同じクラスの薬師寺一郎、高校2年生。
特にクラスで目立つことが無い、陰キャではない程度の地味な男子であるが、それが不似合いなほどの美少女であるさくらに告白したのだ。
「ちょっと考えさせてもらえるかしら」
話したことも無い相手。
毛嫌いしているわけでもなく、好きでもない。
だから断っても良かったのだが、最近親友の里香と話していてこんなことを言われていたのだ。
『告白されてその場で断るのってひどいわよね。よっぽど生理的に受け付けないならともかく、少しぐらい考えてから返事してあげないとね』
そんなものかなと思ってしまっていたさくらは、返事をまた後日にすることにした。
下校時刻だったので、そのまま里香と下校するさくら。
「ねえ、校舎裏呼び出されてたよね?もしかして告白?」
「ん、まあね」
「誰?イケメン?」
「そうでもないけど…薬師寺君」
「そうなの?!」
目を輝かせる里香。
「な、何?彼がどうかしたの?」
「彼、すごくいい人よ!中学時代から私も色々世話になってるの」
「え?そうなの?初耳だわ」
「彼、目立たないように人助けとかしてくれるのよ」
「へえー」
親友が褒めるので、さくらの心の中で薬師寺の評価が少し上がった。
「彼ならいいと思うなあ」
「うーん。でもあんまりよく知らないのよねえ」
「もしさくらが断るなら…私が付き合っちゃおうかな」
「そこまでいい人なの?!」
「まあ、ね」
片目をつぶってペロッと舌を出す里香。
「ねえ、一体なんの世話をしてもらったのよ?」
「それは教えられないわ」
「え?」
「ごめんね。これはさくらには教えられないの」
「え?え?え?」
「もし、彼と付き合うことになったら教えてあげるね」
「ええっ?どういう意味?何なの?」
親友の自分にだけ教えてくれないとはどういうことなのだろうか?
通学路で里香と別れてからもそのことが頭から離れなかったさくらは、家に帰ってからもずっと思案顔をしていた。
「ちょっとお姉ちゃん。何考えこんでるの?食事中だよ」
妹のかえでが姉をたしなめる。
「うん。ちょっと考え事」
「ふうーん。ところでお姉ちゃん」
「なに?」
「今日、告白されたでしょ?」
「ぶっ!」
思わずお茶を吹き出すさくら。
「お姉ちゃん、汚いよ」
「とっさに横を向いたからいいでしょう?」
「ちゃんと拭いておいてよね」
雑巾を持ってきて床を拭くさくら。
「どうして知ってるのよ?」
「だってあの校舎裏って中学校から丸見えなんだけど」
中学2年生のかえではニヤニヤしてそう言う。
「え?でも見えるのって今使ってない旧校舎からよね?」
「タレコミがあったらみんなで見に行くのよ」
「タレコミって何?!って、もしかして見てたの?!」
「『ちょっと考えさせてもらえるかしら』だって。キャー☆」
「ううっ。まあ、その通りよ…ってじゃあ、全部知ってるんじゃないの!」
「それにしても薬師寺先輩かあ」
「え?知ってるの?」
「うん、小さい頃からね」
「へ?…うそっ?!」
薬師寺とかえでに接点があったと聞き驚くさくら。
「いいなあ。私ならオッケーするんだけどなあ」
「どうして?そんなにいい人なの?」
「うん」
「どういうところが?」
「少なくとも、私が告白されたら受けるくらいには」
「ええーっ?!」
かえでもさくらに負けないほどの美少女であり、頻繁に告白されている。
しかしその全てを断っているのだ。
「かえでって、うちの学校のサッカー部主将の告白も断っていたわよね?まさか彼より上だって言うの?」
「えー?当たり前じゃん」
サッカー部主将の彼はイケメンで性格も良く、男女ともに人気がある。
そんな彼より上だと即答するほどなのか?
さくらはクラスでの薬師寺を思い出してみたが容姿も性格も普通というか『目立たない』のでピンと来ない。
成績や運動神経はどんなふうか知らないが、もしかすると凄いのかもしれない。
「ねえ、薬師寺くんのどこがそんなにすごいの?」
「この前の日曜日なんか…あっ、これは内緒だった」
「え?内緒?」
「うん。ごめんね」
また薬師寺のことを教えてもらえないさくら。
「どうして教えてくれないのよ?」
「だってえ」
途端にもじもじするかえで。
「そ、そんなの恥ずかしくってえ」
「な、何なの?どうして恥ずかしいのよ?!」
しかしかえではさっさと食事を済ませると自分の部屋に戻ってしまった。
「うう、もやもやするわ」
親友も妹も彼のことをよく知っているらしいのに、なぜ教えてくれないのか。
なぜさくらから見て彼は平凡にしか見えないのか。
さくらには全く想像もつかなかった、
翌日は土曜日で学校は休み。
さくらは本屋さんに参考書を買いに行った。
「…でさあ、薬師寺くんに助けられちゃって」
「あっ、一郎くんでしょ?私もなの!」
「えっ?」
向こうの通路から聞こえる声に思わず聞き耳を立ててしまうさくら。
「彼って凄いわよね。あんなことを軽々しちゃうなんて」
「まあ一郎くんだからねえ」
一体どんなことをしたの?!と思って耳を澄ませてみても会話がそこで終わってしまう。
もやもやが増すばかりのさくらが書店から出ると、ニヤニヤとした男たちが声をかけてきた。
「よっ、ねーちゃん、俺たちと遊びないかい?」
「楽しいことしにいこうぜえ!」
「ひっ」
明らかに連れていかれたら身も心もボロボロにされそうなナンパ野郎たち。
さくらは震えながらも何とか断ろうとしたが、声が出ない。
「へへっ、じゃあ車に乗れよな」
「や、や、やめ…」
「あの子って、薬師寺くんが告白してた子よね」
「ほんと、ナンパなんかして大丈夫かしら?」
「何っ?!」
その言葉を聞いてさくらの手を離して後ずさる男たち。
「お、お、お前って薬師寺一郎…さんの、関係者か?」
「告白されたって本当にかよ?!」
「え、あ、はい」
「「失礼しやしたーーーーっ!!」」
男たちは最敬礼すると車に乗って逃げていってしまった。
「な、何なの一体?薬師寺くんって何者なの?!」
家に帰ってネットで『薬師寺一郎』と調べてみる。
『抱かれたい男ランキング1位。薬師寺一郎』
「は?」
『ぼくは将来、薬師寺一郎さんみたいにすごい男になりたいです!という書き込み多数』
「え?」
『大女優やトップアイドルのプロフィールに好きなタイプが薬師寺一郎というもの多数』
「ウィキまであるの?!」
『薬師寺一郎。高校二年生。国民栄誉賞を辞退すること7回』
「一体何したの?!それでなんで断ってるの?」
『彼の行動に世界中の人が勇気づけられている』
「は?世界レベル?!」
『詳しい活動については個人情報なので記載不可』
「なんでなのよっ?!」
『西九条院さくらという同級生に告白して保留中』
「なんで私の名前が出てるのよ?!それこそ個人情報じゃないの?!」
さくらは大混乱に陥った。
ネットのあちこちで薬師寺一郎があこがれの存在として書かれているのに、詳しい情報が全くない。
彼女は試しに母親に聞いてみた。
「ねえ、薬師寺一郎くんって知ってる?」
「いっくんのこと?」
「いっくんっ?!」
にこやかな笑顔で彼を親しげに呼ぶ母親を見て驚くさくら。
「さっきまで遊びに来てたのよ」
「えっ?!」
「さくらったら、いつもいっくんが来る時留守にしてばかりよねえ」
「なんで?どうしてそんなにうちに来てるの?」
「昔からよ」
「何しに来てるの?!」
「普通に遊びに来てるのよ。あそこのうちは家族同然の付き合いだし」
「は?」
家族同然の付き合いなのに、なぜかさくらだけそのことを知らない。
「どうなってるの?これって何かのドッキリ?でもネットの書き込み量からしてそんなレベルじゃないはず…」
訳が分からなすぎてどうしたらいいか分からないさくら。
何となく『薬師寺一郎 告白』でググったさくらは『薬師寺一郎が告白してたPart124』というスレを発見する。
「なんでこんなに書き込みあるのっ?!」
623 名無しの薬師寺ファン
断るとかありえなくない?
624 名無しの薬師寺ファン
振られて傷心の薬師寺さまに告白したい。
625 名無しの薬師寺ファン
抜け駆け禁止よ!親衛隊が黙ってないから!
626 名無しの薬師寺ファン
でも告白した相手美少女だけど、薬師寺さんには釣り合わないんじゃ?
627 名無しの薬師寺ファン
通報しました。
628 名無しの薬師寺ファン
通報しました。
629 名無しの薬師寺ファン
薬師寺くんの惚れた相手を貶めるとか正気なの?
630 名無しの薬師寺ファン
でも私が告白されたかった。ちなみに私は某アイドルグループのセンターです。
631 名無しの薬師寺ファン
>630
本物だとしても薬師寺さんとは釣り合わないよ。
632 名無しの薬師寺ファン
>631
分かってるわよそのくらい!でも夢くらい見たいじゃないの!
「なんなのよ一体…」
がっくりとうなだれるさくら。
「私は薬師寺くんのことを全く知らないのに、どうしてみんな知ってるの?それにもし…」
「私が彼を振ったらどうなるの?」
これほど愛されている彼を振るなんて出来るのだろうか?
「みんなから非難される?それとも、刺されたりするとか?」
ぶるっと身震いするさくら。
「どうしようどうしようどうしよう」
正直、ほとんど彼のことを知らなくて好意も持っていないから断るつもりだった。
でも、今、あらゆる人がさくらの返事に注目しているに違いない。
「どうしたの、お姉ちゃん?顔色悪いよ」
妹のかえでに言われて我に返るさくら。
「う、うん。ちょっと悩んでて」
「告白のこと?」
「うん。もし断ったらどうなるのかなって。彼、有名みたいだし」
「別に何も言われないと思うよ。嫌なら断ればいいし」
「そうなの?」
少しほっとするさくら。
「せいぜい新聞の一面飾るくらいで済むから」
「うそおおおおおおおっ?!」
愕然とするさくら。
「大丈夫大丈夫。薬師寺先輩が好きになった人を非難できる人なんて居ないから。そんなことしたら…だもんね」
「えっ?何?どうにかされるの?」
「あっ、それはお姉ちゃんは気にしなくていいから」
「気になるわよっ!」
「それより、薬師寺先輩よりいい男探すって無理ゲーに挑戦する方が大変よねー」
「え?」
「だからもう誰もお姉ちゃんに告白できないんじゃないかな?薬師寺先輩で無理なのに、誰が落とせるんだって話」
「ええええええええええええええっ?!」
一生独り身確定?!とさくらはおののく。
そしてさくらは彼を屋上に呼び出した。
「待たせてごめんね」
「ううん、どれだけでも待ったよ」
「それでね、返事は…」
「返事は…」
「と、友達からでお願いっ!私、薬師寺くんのこと全然知らないしっ!何だかみんなあなたのこと褒めてるけど、具体的なことは教えてくれないし!」
「じゃあ友達からで!」
ニコッと微笑んだ彼の笑顔を見てさくらはドキッとしてしまう。
ゴー
「ん?」
何かの音を聞いて頭上を見上げるさくら。
そこには数機の戦闘機が飛んでいた。
「あれってテレビで見た自衛隊のブルー…」
戦闘機は色の着いた煙を出しながら旋回する。
『ドンマイ イチロー』
「なんなのよあれっ?!」
「ははは、どうやら監視されていたみたいだね」
「監視?」
「ああ、気にしなくていいよ。ボクのプライベートの話だから」
「プライベートで自衛隊関係するの?!」
その時彼のスマホが鳴る。
「電話か…はーい、レイスルファンギーラ?バルファテロス?」
「な、何語で話してるの?!」
「…レイステーラ。…ごめん、ちょっと早退しないといけなくなったから」
「え?」
「じゃあね」
バッと屋上の柵を飛び越える彼。
「うそっ?!ここ屋上よ!」
追っかけて下を覗き込むが彼は居ない。
「え?消えた?」
その時さくらのスマホの通知音が鳴った。
「臨時ニュースの通知?って、これって?!」
言うまでもなく『薬師寺一郎、西九条院さくらと友達からの交際始める』という臨時ニュースだった。
「一体何がなんなのよーっ?!」
ちなみにそれから友達付き合いを始めてもさくらは彼のやっている事を知ることは出来なかった。
「お願いだから、誰か教えてよおおおっ!」
お読み下さりありがとうございます!
感謝!