世界中の人々が勇者を忘れたとしても
相変わらず誤字脱字あるかもです。
細かい設定は省いてます、気楽にさらっと読んで下さい。
その日、王国に1つの神託が降りた。
辺境の村に住んでいる青年が勇者として覚醒すれば、魔王を倒す事が出来ると。
青年は同じ村の少女と結婚間近であった。
幼なじみで、隣に住んでいた少女とは家族よりも長い時間一緒に過ごして来た。すべての初めてがお互いだったほど一緒にいた。
「帰って来たらすぐに結婚しよう」
「いつまででも待っているから、無事で帰って来てね」
少女の溢れる涙を唇で拭うように口づけると、青年は死地へと旅立ったのである。
◇ ◇ ◇
魔王討伐への旅路は過酷なものだった。
同じく神託によって選ばれたメンバーとは、深い絆も生まれた。
その中には聖女として覚醒したこの国の第2王女の姿もあった。
顔合わせの時から王女は勇者に恋をし、国も魔王討伐のあかつきには二人を結婚式させ、平和の象徴として国民にアピールしようとする思惑があった。
旅の中で王女から散々アピールをされ、既成事実を作られそうになったが、勇者はそれに応える事はなかった。
魔王を倒して少女と結婚する、その約束が最後まで彼の心の支えになっていた。
◇ ◇ ◇
とうとうその日がやってきた。
聖女が傷を癒し
魔法使いが氷魔法で魔王の足止めをし
戦士がその身を呈して道を開き
勇者がその剣で魔王の胸にとどめの一撃をあたえた
黒いモヤとなって消えていく魔王が最後に勇者に問うた。
「ただの人の子であるお前がなぜそこまで強くなれる?お前の力の源は何なのだ?」と
勇者は息も絶え絶えになりながらも胸を張って答える。
「自分を待ってくれている愛しい人への愛の力が自分を強くした」と
それを聞いた魔王はニヤリと笑うと、最後の力で勇者に呪いをかけた。
満身創痍のメンバーはそれを止める事も出来ない。
「愛の力だとは笑わせる!今お前にかけた呪いは『世界中の人々がお前の存在を忘れる』呪いだ、お前の言う愛しい人が今と同じくらいお前を愛する事が出来たらその呪いはとけるだろう」
人間の言う「愛の力」が大嫌いだった魔王はそう言うと消滅したのであった。
◇ ◇ ◇
眩しい光が世界を包む中、聖女も魔法使いも戦士も、その場にいる勇者に怪訝そうな顔を向けた。
どんなに名前を呼ぼうとも、
あんなに自分こそ真実の愛だとアピールをしてきた聖女も
村での結婚式には花を降らせ虹をかけてあげると言ってくれた魔法使いも
戦いが終わったらお互いに妻を紹介して一緒に飲み明かそうと約束をした戦士も
誰も勇者の事を覚えていなかった。
それどころか、魔王の結界が消滅した事で使えるようになった転移魔法で、勇者を置いて城へと帰還してしまった。
勇者は一人、四人で歩んで来た道を戻って行く。
行きは勇者一行だと歓迎してくれた人々も誰も勇者を覚えていない。
戦いでボロボロの姿になった勇者を胡散臭そうに見るばかりだった。
それでも勇者は愛しい少女の姿を一目みたくて歩みを進める。
こんな呪いにかけられたけれど、自分が発した言葉に後悔はなかった。魔王を倒せたのは愛の力だと。
◇ ◇ ◇
時は遡り、世界を眩しい光が包んだ時、少女は自分の胸から大事な気持ちがごっそりと抜けて行く感覚を覚えた。
隣が不自然に空いた自分の絵姿の本来の姿は何だったのだろう?
何度も読み返した跡がある日記帳の中身が白紙なのは何故だろう?
色々な所から送られてきた白紙の手紙の差出人は誰だろう?
ずっと着けている髪飾りについているガラス玉は誰の瞳の色なのだろう?
相手もいないのにクローゼットに大事にかけられているウェディングドレスは誰の横で着る予定だったのだろう?
誰に聞いても心当たりがないと言われる。
不思議な事に首を傾げながらも、忙しい日々にそんな疑問も考える事が減って行くのだった。
◇ ◇ ◇
森で狩りをし、野宿をしながら勇者は一人故郷を目指す。
魔王討伐時にはすでに逞しくなっていた身体はさらにワイルドさをましていた。
川面に映る自分の顔を見る。
髪はのびボサボサで髭も生えている。眼光もするどくなった気がする。
「この顔じゃ、俺を忘れていなくても誰かわからないな」
自嘲の笑みを浮かながらそう呟くとまた歩みを進める。
故郷の村には明日には到着するだろう。
◇ ◇ ◇
そうしてたどり着いた村でも誰も自分を覚えていなかった。
肌身離さず首からかけていたこの村の住民である印と村の外れに住む偏屈なじぃさんの息子だと言う嘘が通じなかったら村にも入れない所だった。
自分の両親が営む食堂に足を運んだが、記憶の中より老けた両親も、相変わらず同じ面子の常連たちも誰も覚えていない。
跡取りがいないからこの店も自分たちの代で終わりだと父が話している。
本当に子どもが欲しくて家に子ども部屋まで作ってしまって、なんて母が話している。
わかってはいたけれど、辛くて店を出る。
少女に会えばもっと辛い思いをするだろう。
それでも会わずにはいられない。
もう一度あの頃以上に自分を愛してくれるように頑張りたい。
そう意気込み、少女の家へと向かう。
少女の家が見えた時、ちょうど少女が家から出てきた所だった。
もう少女とは呼べない外見に成長していたが、楽しそうに鼻歌を歌いながら歩くその姿はあの頃のままだった。
「ミア!!」
おもわずかけた呼び声に歩みを止めた彼女はゆっくりと振り向き声の主を探す。
目が合うと、不思議そうに自分を見つめている。
その時二人の間に風が吹いた。
その瞬間、ミアは大きな瞳をさらに大きくし、
「ソル!!」
魔王討伐以降、誰にも呼ばれなかった自分の名前を呼びながら、こちらに駆けてきて胸に抱きついてきた。
頭の中に『パリン』と音がして、自分に纏っていた呪いが解けた感覚がした。
自分の胸の中で名前を呼び続ける愛しいミアの背中におそるおそる手をまわして抱きしめながらソルは混乱していた。
喜ばしい事だが、なぜ呪いが解けたのか? あの頃と同じくらいの愛をもらわなければ解けないはずの呪いである。二人で過ごしたのと同じくらいの年月がかかってもしょうがないと思っていた。
呪いが不完全だったのか?
答えの出ない考えがぐるぐると頭の中をまわる。
その時、自分の服をちょんちょんと引っ張る動きに気付き視線を下げると、泣き笑いのミアがこちらを見上げていた。
服を2回ひっぱるのはキスして欲しい時のミアの合図だ。
「おかえりなさい」
そう言うミアに
「ただいま」
と答えると、ゆっくりと顔を近づける。
ひとまず細かい事は置いておこう。
そう思いソルはその柔らかい唇に幸せを噛み締めたのであった。
◇ ◇ ◇
「ミア!!」
聞いたことがない、それでもどこか懐かしい声にミアは夕飯の材料を買いに行く足を止め、ゆっくりと振り向いた。
声をかけてきたのは、背の高いがっちりとしたボサボサ髪の知らない男性だった。
その長い前髪で隠れた顔をなぜか見たくなってじっと見つめていると、風が吹いてその顔があらわになったのだがーー。
「!!!!!!」
ミアは衝撃を受けた。
「めちゃめちゃ好きな顔!!!」
◇ ◇ ◇
ミアは物心ついた時から隣に住む幼なじみのソルの顔が大好きだった。
ミアにとって好みの顔だと言うことは、好きになる要素の99%を占めており、それだけで相手の性格がなんであれ許せるほどであった。
長い付き合いの中でソルの性格も含めすべてを好ましく思い、結婚したいと思うほどになったのだが、それでも一番好きなのは顔であった。例え傷ついてこの顔じゃなくなっても元がその顔であったと言うだけで好きで居続けられる自信があるほどだ。
まだ家族になっていないのに、二人の絵姿を書いてもらい、会えない時は眺め。
どんなに格好良かったかを毎日日記に書き綴り。
ソルの瞳と同じ色の髪飾りはつけるよりも眺めてソルの瞳を思い出してニヤニヤする方が多かった。
願わくはソルのお父さんみたいにもう少しがっちりして髭なんて生やしてくれたらいいのにな~。
毎日重たいフライパンを振るソルのお父さんの腕はとても逞しい。食堂を継ぐソルの腕もああなる事を期待しているのはソルには内緒である。
そんなミアであったので、風がその男性の前髪をどかし、理想の顔があらわになった瞬間に恋に落ちた。
好みの顔であるだけでその愛は限界突破した。
そして呪いは解け、忘れていた記憶も戻った。同時に呪いによって記憶を無くしていた事も理解した。
気付けばソルの名前を呼びながらその胸に抱きついていた。
ためらいがちに自分の背中にまわされる腕はソルのお父さんよりも逞しいし飛び込んだ胸板も前より何倍も厚い。
うっとりとしながら、昔と同じようにキスをねだると、変わらずにキレイな瞳が閉じられて近づいてくる。
昔と違いあたる髭がくすぐったいがこれはありなのでぜひ剃らずにいてもらおう。
幸せをかみしめながらミアはそう思ったのだ。
◇ ◇ ◇
記憶を取り戻した村の人々が騒ぎながら集まってくる気配がするが、そんな事おかまいなしに幸せをかみしめる二人のキスは半刻ほど続いたのであった。
めでたしめでたし
◇ ◇ ◇
魔王「そんな馬鹿な!!」
人を愛する理由が「とにかく顔が好き」でもいいよね。
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