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ステータスオープン

僕が周りを見回すと、そこは小高い丘のような場所だった。ザワザワと草が揺れる音を鳴らしながら風が吹いて、僕の体を撫でていく。視線を前に向けると、土を踏み固めたような下り坂の道がまっすぐに伸びている。そのずっと先には街が見えた。

 時刻は夕暮れ頃だろうか。空を見ると太陽は傾いていて、代わりに月が8つ登ってきていた。ひときわ大きくて蒼い月と、その周りをゆっくりと回る色とりどりの7つの月がある。その光景こそが、ここが地球ではない何よりの証だ。

 幻想的な空を見ながら、僕は反芻するように、いままでのことを思い出していた。


 さっきまで、僕は受験した大学で合格発表を見ていた。

 僕なりに努力はしたつもりだが、僕の受験番号は見当たらなかった。結局、僕の努力が足りなかったということなのだろう。

 ゲームや小説が好きで、勉強は嫌いだ。勉強というより、「しなくてはならない」ことが嫌いだ。机に向かっていると、すぐに耐えられなくなってくる。逃げるようにゲームに手が伸びて、その最中にも「勉強をしなくては」という強迫観念に追い立てられ、それで疲弊してしまう。そんな1年間だった。

 大学から駅へ帰る途中、信号待ちで足を止めた。これからもう1年続くことを考えただけで、気が狂いそうになった。無意識に足を進めだした。あの時の信号機はもう青になっていただろうか、まだ赤だっただろうか。

 僕はそのままトラックに轢かれた。


 そして僕はいまここにいる。死後の世界かもしれないと思ったが、手足にはちゃんと感覚がある。きっと地球とは別の世界なのだろう。

 死んでしまい、魔法やモンスターがあるゲームのような世界に転生するという内容のネット小説をよく読んでいた。それに憧れていた。もしここがそういった世界なら、どんなに素晴らしいだろうか。

 ふと、ネット小説にあった言葉を唱えてみた。


「ステータスオープン!」


 まさか何か起こるとは思わないで発した言葉だったが、効果があった。自分の頭の中に、データが流れ込んでくる感覚がある。それは自分の体力、身軽さ、各種技能などを数値化したステータスだ。そうか、本当にここはファンタジーの世界なのか。

 今にも小躍りをしてしまいそうな気分だ。何か叫びながら、この丘を走り回りたい気分だ。

 僕は自由なんだ。



 それから僕は街に下りて、新しい人生を歩み始めた。

 この世界は本当にゲームみたいな世界だ。魔法があり、モンスターがいて、それを狩って戦利品を手に入れることが1つの産業として成立している。僕もモンスターを狩る職業に就いた。

 仕事は楽しかった。まずモンスターの種類や行動、生態を覚え、地形を把握する。必要な武器の使用法や罠の作成法を学んだりもする。そしてモンスターを狩り、解体して納品するのだ。     

 単純作業も多かったが、ゲームのレベル上げをしているような感覚で苦にはならなかった。何より、自分が努力をして経験を積むごとに、脳内のステータスが少しずつ上がっていくのが楽しかった。毎日寝る前に「ステータスオープン」と唱え、自分の成長を確認することが日課になった。このステータスを上げるために僕は生きていると確信できるんだ。



 そして10年後、僕はまだこの仕事を続けている。

 チートみたいに強くなれたわけじゃないけど、ひとかどの実力者くらいにはなれたと思う。

 ステータスは、この世界に来たころに比べて何十倍にも膨れ上がっている。それでも、増やすのをやめるつもりはない。

 たまに、こんなことを聞かれる。


「なんでそんなに、ずっと努力を続けていられるんですか?」


 それに返す答えはいつも一緒だ。


「もちろん、楽しいからだよ」

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