第一部 異世界召喚2
神下の事を、操はあまり覚えていない。
「みんなの中心にいる、優しいお兄ちゃんがいた」という印象。
そして、「そんな神下の事を自分は慕っていた」という感情。
覚えているのは、こんな漠然とした記憶だけだ。
そのため、操は神下の存在を、一時期ではあるが、「自分の妄想の人間ではないか」と疑っていた。
しかし、操は昔から、神下の同世代の人間から、神下の様々な話を聞いていた。
「神下は運動神経が凄かった。今も生きていたら、なにかのスポーツで記録に残るような事をしでかしてくれたと思う。」
「いつもみんなの中心にいた。神下がいると、みんなが自然と笑顔になる。そんな奴だった。」
「バカだけど、頭の回転は速かった。それに、よくみんなの事を見ていた。気が利く奴だったよ。」
口を揃えて、みんなが神下の事を褒めていた。
自分の曖昧な記憶と周囲の声、それらを併せて、「神下優という人間が実際にいたんだ」と、ようやく操は信じる事が出来たのだ。
「操ー!誠一くんと愛衣ちゃんが来たわよー!」
母が操を呼ぶ。
坂上 誠一と上野 愛衣。
2人は操と同い年の幼馴染だ。
相川村で高校3年生は操、誠一、愛衣の3人だけで、それ故に3人はいつも行動を共にしていた。
誠一と愛衣は相川村に残る。
つまり、今日が2人と操との別れの日となる。
操は上京する前に大事な親友である2人に会っておきたかった。
そのため、親戚の集まりは早めに終わらせ、3人の時間を作ろうとしていたのだ。
「叔父さん達ごめんね。友達と会ってくる。」
「おう!親友は一生ものだからな!大切にして来いよ!」
叔父達に断りを入れ、操は家から出た。