AfterGlow
文字は詰め詰め。何かに憑かれたとしか思えない疲れた文章をお楽しみ下さい。また、読み終わった後はゆっくりと布団でお休み下さい。私は書くだけですごく疲れました。
昼寝ができる読み物です。
私から君達へ。
春。主に3月から4月は出会いと別れの時期である。とはいえど、皆平等に訪れる別れと限られた者にだけ与えられた出会いの比率はすこぶるバランスが悪い。さよならだけが人生の人もいるのだ。
「さよならするだけの出会いが、予めあるってことじゃないですか。」
愛すべき後輩はそう言って笑っていたけれど。私にとって出会いは鮮明なものではなくて、気付いたら誰か側にいて、そして春に別れていく、そんな曖昧なものだった。色水にちりかみをいれて、気付いたら染まっていたかのような。この場合、ちりかみはどちらなのかという問に、私はきっと答えないだろう。私が染められたのか、それとも周囲が私に合わせてくれたのか。その答えを持ち得ないからだ。
「どっちも色水ってことはないですか?青と赤で紫、みたいな。」
発想が自由な美術部員の彼女は、青の絵の具と赤の絵の具を、柄の長い絵筆で混合してみせた。絵の具は濁った紫色になった。案外そうなのかもしれないと、その時私は考えた。皆一つだけ自分の色を持っていて、他人と混ぜることは出来るけれど、混ぜた分だけ自分の色は濁っていく。ただ一つを持ちうるのは、ただ一つしか持つことが出来ない者の特権であり、孤独である。
「独りぼっちの人なんていませんよう。一人ぼっちならあるかもしれないけれど。」
心優しい図書委員の彼は、持っていた詩集をぱたりと閉じて、椅子の上で姿勢を変えた。膝をずらして、私を正面から見る。私は、彼とまったく逆の発想を持っていた。誰も彼も人と関わることは出来れど、根底の自分を他と混ぜることは無いと。本来、私達は何処までも閉じきった『一人』であり、ゆえに誰もが『独り』なのだと。
「先輩、寂しいんですか?それとも、“寂しい”が良いんですか?」
神経質な風紀委員の彼女が、青白い顔を隠そうともせず問いかけた。私は、どちらが良いんだろう。何も良い事なんてなかった気がする。いつまで経っても『駄目』な私から進めなくて、逃れられなくて、どれだけ歩いても手をつないで連れてきてしまった。『独り』の私も、『一人』を欲しがる私も。
何かと同じを欲しがるくせに、同じだね。と踏み込まれるのは大嫌い。それを寂しいと思う心があれば、それこそ惰弱と孤独を志す意地の鎖が離してくれない。ああ、こんなにも苦しいのに。
「話してみれば良いわ。その苦しい、が無くなるまで。」
そう、クラスメイトの彼女が言う。大人っぽい見た目に従順に、中身まで大人のその子を、私は好いてはいないけれど。
離れてみれば、もっとよく見えたのかも知れない。こんなに近くで手を引いて、一歩一歩連れてこなくとも。手を離して、あんたの好きにすれば良いわなんて。だって、皆同じ私なのだから。
どうか、真似してくれるな。私を踏み台に、どうか高みへと上ってくれ。こんな私を、先輩などと呼んでくれるな。貴方たちが慕ってくれるほど、私はすごくないのだから。
「卒業おめでとう、先輩。僕ら、皆が先輩のこと大好きだったんですよ。貴女は知らなかったのでしょうけれど。」
進級おめでとう。こんな私を、慕ってくれてありがとう。私はもう死んでも良いよ。
お憑かれ様でした。