驇織有佐の写真と二人が集めた情報
葛西係長と佐々木刑事の間にあった溝が無事に埋まり、両者共に落ち着いた顔で自分の席に座った。葛西係長は自前のマグカップに熱いブラックコーヒーを、佐々木刑事は部屋に置いてある紙コップに冷たいお茶を手に持っていた。この部屋に机がある刑事の中で自前のコップを使うのは一番階級の高い葛西係長のみだった。
二人は和やかになったからこそ各々が集めた情報に関する作業をしていて、紙の捲れる音や呼吸音以外に音が聞こえなかった。その沈黙の空間を破ったのは佐々木刑事だった。
「葛西さん、集めた情報を共有しませんか。そのために葛西さんが戻って来たものだとてっきり…」
最後の方の言葉はわざとだろうか、濁っており沈黙の世界であった部屋でさえもよく聞き取れなかった。葛西係長はその濁った言葉の続きを理解したのか、首を軽く上下させ頷いているような素振りを見せた。
「そうだよ、そのために戻って来たんだ。ただやはりこの部屋が落ち着くからコーヒーを飲みながら話を切り出す機会をうかがっていたところでお前に話を持ち出されたんだよ。じゃあ、本題に入ろうか。」
葛西係長はいつも以上に落ち着き、しっかりとしていた。それは戦場で戦う武士のようだった。
「先に情報共有を持ち出してる俺から話をしようか。これと言っていい情報が入手できたわけではないんだがな、武田が持っていた驇織の写真についてと武田と驇織の関係についてが得た情報だな。どっちから聞きたい、佐々木。」
葛西係長がそう聞くと佐々木刑事は少し迷った顔をして
「じゃあ、驇織の写真についてからでお願いします。」
と言った。葛西係長は佐々木刑事のその言葉を聞き、少し首を動かすと背広の胸ポケットに入っている写真を取り出し話し始めた。
「とは言ったものの、写真の話はこれと言って大きくない。武田と驇織の関係が写真を物語っていると言っても過言ではない。簡単に言うとここにあるものをはじめとする大量の写真は武田のプライベートのものなのだ。で、なんでプライベートでそんなに写真が撮られているのかというと二人は恋愛関係にあったそうだ。まあ、俺が得た情報はこれくらいかな…。佐々木、お前が書斎で見つけたものはどうだったんだ。何か収穫と言えそうなものはあったか。」
「正直、これと言ってですね。何個か葛西さんが見たSDカードと同じ型で中身は何もありませんでした。他にも数点紙が見つかりましたが、犯人の細工にも取れる武田の遺書で内容は先日発見したものとは異なっていました。」
佐々木刑事の言葉を全て聞いた葛西係長は自前のマグカップを手に取ると口の方へと持っていき、一口ずつ慎重に口に含ませていった。




