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佐々木勲警部補と事件たち  作者: 渡部遥介
白い白鳥殺人事件
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葛西繁明と佐々木勲の攻防

 葛西係長が警視庁に戻ってくると葛西係長は部屋へと直行した。その部屋には劇団へ行く前に葛西係長が散らかしてきてしまった捜査資料がある。あのまま放置しておいてはいけないと葛西係長に理性が戻ってきて部屋へと直行しているのである。もう“廊下を走るべからず”という警視庁内のルールなど脳裏にはなく、ただひたすら部屋に走って行っている。

 

 佐々木刑事は何か外がうるさいと部屋のドアから顔をのぞかせると猛スピードで迫ってくる上司の影が目に映っている。佐々木刑事はなぜ自分の上司がこんなに一生懸命走っているのか不思議に思えた。


 葛西係長は部屋から部下の佐々木刑事が顔をのぞかせているのが見え、“これでは部屋にそのまま入ることができないではないか”と内心で思った。どうにか止まらずに部屋に入れないものかと走りながら葛西係長は考えていた。そこで葛西係長が考え付いたものは葛西係長が普段発しないような奇怪な声を出すことによって佐々木刑事を驚愕させ、ドアの前から離れさせようという計画だ。自分で思いついたものの“本当にこれで良いのか”と迷いが頭の傍らにあったが、直接入るためにはこれしかないと強行でも押し入る決意を持ち、

「ウォー、ウォー、キー、キー、グウォー、グウォー」

と何の意味も持たない言葉たちを頭に浮かんだ順に並べ、口から魂が出るように溢れ出ていった。


 佐々木刑事は葛西係長が進行方向である自分に近づいてきているものの走るスピードを変えることなく、なおも走り続ける様子を見て“これは退いた方がいいんじゃないか”と思い足を動かそうと脳から運動神経へと指令が送られている最中に聴力を持つ感覚神経から葛西係長の低い、太い音が入ってきてさらにその音はいつも彼が発するようなものではなく、不可解なものであった。いや、奇怪という言葉の方が適当なのかもしれない。とにかく、部下からの信頼が厚い葛西繁明という人物から遠く離れた言葉だったのだ。佐々木刑事はその言葉に驚愕などという驚きの感情よりも落胆などというどちらかと言えばあきれたような感情の方が大きかった。“まさか葛西係長が”という気持ちでこれから葛西係長にどう接していいのか戸惑うような出来事だった。

 

 葛西係長は自分が奇怪な声を出した後に佐々木刑事の顔が変わったことを見逃さなかった。しかし、葛西係長が望んでいたような佐々木刑事がドアの前から退いてくれるという出来事には繋がらなかった。走っていったまま部屋に入ろうとしていた葛西係長は佐々木刑事がいるため、“ドアの前で止まろう”と計画を臨機応変に変更した。葛西係長は彼の持つ力をほぼ使って走っていたため、いくらドアの前で止まる計画に変更しても綺麗に止まることはできず、ドアの前を通り過ぎてしまった。少し歩いてドアの前に戻って佐々木刑事に退いてくれというジェスチャーをし、部屋に入ると机の上にはもう部屋を出たような散らかった資料はなく、定位置である棚の華夏に綺麗に収まっていた。


 葛西係長と佐々木刑事は二人で部屋に入ると葛西係長はなぜ一生懸命廊下を走りその後奇怪に声を出したのか、佐々木刑事は部屋に着いてから彼がしたことについての話をした。両者共に納得し、佐々木刑事は葛西係長に前と変わらぬ対応が出来るようになった。

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