SDカード
武田の自宅での捜査をしていた佐々木刑事は書斎の本棚から事件に関係があると思われるSDカードを発見した。ついに事件が解決すると思ったのか、佐々木刑事は声を上げて下の階にいる葛西係長に
「葛西さん、遂にやりました。事件につながりがあることに間違いないSDカードを書斎の本棚から発見しました。」
と書斎の本棚で見つけたSDカードの発見を報告した。すると葛西係長の太い声が階下から飛んできた。
「本当か、それはでかしたぞ佐々木。パソコンもってそっち行くから待ってろ。」
「はい、分かりました。書斎の机にある紙類を整理して待っておきます。」
佐々木刑事はそう答えると書斎の椅子に腰を下ろし、机の上に散らばっている紙類に目を通し床に置いて分類分けし始めた。主に彼の舞台に関する改善点や良い点が毎日のように記されたもので机の上の四分の三がこれだった。他には劇団に対する良悪の意見をインターネットから寄せ集めたものや社会で話題になっていることなど多岐にわたっていた。床に紙をすべて置き終わったくらいに葛西係長が数名の捜査員を連れて書斎に現れた。床に置かれている紙の多さに驚いたのか、何か気難しそうな顔を葛西係長はした。
「佐々木、床に無造作に散らばっているこの紙はいったいなんだ。」
「葛西さん、さっき言った机に積み上げられた紙を整理したんですよ。それを“無造作に”とか“散らばっている”とか酷くないですか。」
佐々木刑事は葛西係長の発言に対して少し怒りをぶつけるように応対した。葛西係長はそれに対して参ったというような顔をして
「そこまで傷つけていたのならば申し訳なく思う。大体種類ごとに分類はしてあるんだよな。」
と言った。
「はい、もちろんですよ。その紙の大半は武田の舞台に関する資料でした。それと例のSDカードはこれです。」
佐々木刑事はそう言いつつ葛西係長にSDカードを渡した。葛西係長はSDカードを受け取ると、近くにいた捜査員に渡した。葛西係長にSDカードを渡されたその捜査員は書斎に持ち込んでいたパソコンにSDカード入れ、パソコンにSDカードのデータを読み込ませていた。
「データ、表示されました。」
捜査員の高く細い声が発せられ、画面が葛西係長に見えるようにパソコンの向きが変わった。佐々木刑事はその画面をのぞき込むように首を伸ばし、画面に映るSDカードのデータを念入りに見ていた。画面に映るデータは写真が多く、それをよく見てみると驇織の写真が多かった。その驇織の写真に何か隠されているのかと捜査員全員が思ったのか、皆目を凝らして写真を見ていた。しかしこれといって目ぼしいものは見つけられなかった。ただ、写真の全てが正面からの写真ではなくどちらかといえば盗撮したような写真であったことに佐々木刑事は気づいた。そこに何かこのデータの奥深いものを感じた。
「写真のほかに何かデータは入っていないのですか。」
佐々木刑事は捜査員に独り言を呟くように一言発した。捜査員たちは聞き取れなかったのか、耳を傾け、
「すいません、聞き取れなかったのでもう一回言ってもらっていいですか。」
と言った。佐々木刑事はそれに対して申し訳なさそうにして
「すみません、もっとはっきり言うべきでしたね。それで写真以外に何かデータは入っていませんでしたか。」
と今度は皆に聞こえるくらいはっきりと大きい声で言った。それに対してパソコンの持ち主である捜査員はパソコンを操作し
「入ってました。何やら文章ですね。」
と一言言い、佐々木刑事や葛西係長などに見えるように画面を動かし文書作成ソフトを起動し始めた。文書作成ソフトが起動されるとまず目に飛び込んできたのは論文のようなタッチで書かれた文字の陳列だった。文章の内容は武田自らの驇織の事件に対する考察だった。SDカードの内容で目につくのは異常に多い驇織の写真だけだった。




