厄介者
佐々木刑事に導かれ、白鳥ホールの舞台裏に集合した役者たちは葛西係長の説明を聞いていた。「今から二時間ほど前にこのごみ箱からヒ素が発見されました。量からして害虫駆除に使われるものだと判明しております。その後事務の方や裏方の技術者さん等にお話を伺いました。その話によれば一昨日まではなかったそうです。事件発生から二週間ほど経過しており、犯人が時機を見てゴミ箱に入れたものだと思います。舞台当日にここの部屋に来ても怪しくないのは役者のあなた方だけです。何か情報がありましたら事務の方を通して警察に連絡してください。」葛西係長はできる限り周りを見渡し、怪しい人物を探しているように佐々木刑事の目には映った。「話は以上です。質問等がある方は今お聞きになっていただいて構いません。何もない方は稽古の方に戻っていただいて結構です。」葛西係長は人混みが嫌いで、できる限り散ってほしかったんだろうか、「戻る」を他のところと比べて異常に強調した。
役者の大半は稽古場に戻ったが、三人その場に留まった。その三人の特徴ははじめには三十前後の男性、次にベテランと思われる女性、最後に現代の流行に乗っている服装をした若い女性だ。葛西係長は「何か話したいことがありますか。」とその三人に聞いた。三人とも声を合わせて「はい」と答えた。「ではそちら側からお願いします。」と葛西係長が三十前後の男性の方を指差して言った。「私は武田伸之と言って役者の補佐をしています。実は事件当日に驇織さんの亡くなる直前に話したんです。その時には一切「死」を予感させるようなことはなかったんです。」武田からは私が悪いとでもいうような助けてくれオーラが激しく佐々木刑事や葛西係長には感じられた。「次の方どうぞ。」葛西係長がそう言うと武田はのこのこと帰り、武田の隣にいたベテランと思われる女性が話し出した。「武田さんが名前を言ったから一応言っておくけど、私は輓馬美姫。刑事さんへの話はゴミ箱のことよ。あそこから出てきた袋はこの近くの百円均一店で簡単に手に入る袋よ。だから劇団員なら容易に手に入るってこと。ただそれを伝えたかっただけよ。」刑事に対して大きな態度をして帰っていった。葛西係長がため息をついて「最後の方。」というと緊張しているのかボソッと最後の女性が言った。「私は有佐と幼馴染の降谷香理。さっきの輓馬さん、いつも有佐ともめていたの。だから何かあるかなと思って言ってみたの。」佐々木刑事は耳がいいが、その佐々木刑事ですら聞くことに苦を感じた。
三人が戻ってから佐々木刑事と葛西係長は話をした。「あの三人が全員厄介者ですね。」




