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第二章 ~物語が動き出した・Ⅰ~

第二章の開幕です。これまでは小手調べ程度のダンジョンでしたが、ここからRPGとしてのストーリーが動き始めます。

 第二章

 ベッドに寝転びながら、連絡を待つのがこんなに楽しかったのはいつ以来であろうか、と猛はスマホを手に画面を見詰めながら考えた。別段モテもしなかった彼にとっては、それこそ小学校の雨天時の運動会決行か否か(彼は常に中止を期待していた)の連絡を待つ時以来か。そう思うと、少し泣けてきた。

 「ちょっと待たせたかな?」

秀人の口ぶりは相変わらず軽妙であったが、苛立っている様に猛には思えた。ただ単に何となく、という程度の事であったが。

「続きが出来たんだ?お兄さんと話はついたの?」

「…まぁね。だから、またテストプレイを頼んだよ」

沈黙が、決して全てが上手くいっている訳ではない事を、雄弁に物語っていた。

「判った。明日から?」

「そう。待ってる」

秀人は口も重たくそれだけ言い、切った。

「じゃあね…」

切れた画面を見詰め、小さく猛は呟いた。兄弟の間の事は自分が口出しすべきではないと思いながら、それがこのプロジェクトにもたらす悪影響を、懸念しない訳にはいかない猛であった。

 × × × ×

 十月六日 (木) 十八時三十分~二十一時三十分

 さて、今日から第三のダンジョン攻略を開始する事になる。ここからはダウンロードコンテンツとしてソフト購入者の全員が入手するのか判らないけど、とりあえず精一杯気張っていこう。

 さて、これまでの概略説明となるオープニングがあって、ワールドメニュー画面には新しい街、トライが。入ってみると、お馴染みの施設の他に一際大きな建物がある。最初は入れないから、ただのダミーかと思っていたけど。

 ギルドに行き、受付嬢と話をする。ダンジョンである洞窟に最近、凶悪なモンスターが入り込み討伐隊が編成中なので、個人では入れないという。ならばそれに参加したい、と提案すれば、まだ登録されて日も浅く、経験が不足しているのでは、と余計な事を言われ、断わられた。なら、あんたはダンジョンに潜れるのか!、と怒鳴りたいのをぐっと抑え、引き下がろうとしたところへ、神官が声を掛けてきた。少し年長と思しき神官はクイルと名乗ると、討伐隊に参加する為魔術師に雇われないか?、と持ちかけてきた。今まで雇ってきたのが、今度は雇われる立場か。でも、断わる暇もなく話は纏まり、神官の言う魔術師の住む、あの一際大きな建物へ向かう事に。

 魔術師は神官と同年代で、ステラと名乗った。討伐隊に参加する為、前衛役をもう一人求めていた。二人はどうやら幼馴染みらしく、『お試し一号』がなぜ自分に声を掛けたか訊ねると、ステラは事情を話してくれた。

 彼女の父エドマンドは、古世界の魔法研究で高名だった。三十年前の遺跡調査の時にも、その知識を買われ調査隊に招かれた。しかし、父は帰ってこず、黒い霧によるモンスターが徘徊し始めた事も手伝い、エドマンドは実は『大いなる叡智』のメンバーであり、モンスターを生み出しているなどと噂を立てられてしまう。クイル達は必死にその噂を否定するが一向に消えず、ステラは厳しい立場に置かれていた。旧知の冒険者達等からは白眼視され、行動を共にする事を断わられる様になった。そこでよそ者の『お試し一号』に声を掛けた…。

 『お試し一号』が、そんな連中放っておいて、討伐隊参加などやめておけば、と言えば、モンスター達と戦う姿勢を見せる事でしか、父の名誉を守る事は出来ないのだからと言う。まぁ、立派な事ではあるね。

 ギルドに戻ると、受付嬢は渋々討伐隊への参加を認めた。準備が整ったらまた来てくれ、と言う。武器屋、防具屋を回ってみるけど、強力な装備は価格はもちろん、必要体力もべらぼうに高い。今はとりあえず、防具に強化パーツを付けて防御力を千二百近くまで上げるのが精一杯。なかなか強化パーツをドロップしないぞ!とにかく、後はHP、MP回復やら『ノーリスク』シリーズやら、状態異常回復薬やら、出来るだけ買い込む。後は。そろそろ、大丈夫かな?

 今まで、教練場は利用してこなかったけど、少々ゴールドにも余裕が出てきたし、スキルを覚えよう。教練場へ行くと、安いので『連撃』というのがあった。最初は二連撃で、ゴールドを払い続ければ最大三十二連撃まで強化出来るらしい。強化する毎に金額は上がっていくけど。まずは二連撃を、千ゴールド払って覚える。MP消費で一気に攻撃力が実質九千四百以上になるのと同じ。ただ、二撃目、三撃目と、徐々に命中率が下がってゆくらしい。つまり、連撃数を幾ら上げても器用さが低いままだと意味が薄い、という事。様子を見ながら強化していこう。

 三人でギルドに行くと、討伐隊出発のイベントが発生。三人は討伐隊の殿を任された。任された、って言うか、あんた達ちょっと離れててくれない、みたいなニュアンスびんびんで。とりあえず、ダンジョンに潜る。討伐隊、といってもいつもと代わりのない三人パーティー。規則正しいゴツゴツした岩肌(笑)を眺めながら進んで行く。途中谷間に架かった橋があった。それを渡り始めると、イベント発生。何か、急に忙しなくなってきたなぁ。前方で誰かが「裏切り者、死ね!」と叫んで、何かを投げつけてきた、との表示。橋の上で何かが炸裂、橋が落ち、当然俺のパーティーも落ちた。あぁぁぁぁぁー、何てね。

 ダメージもなく谷底に落ちた。切り立った両側の崖には、幾つか横穴が空いている。とりあえず、谷底沿いに移動しながら、片端から横穴に入る事にする。ここからが本格的なダンジョン探索で、少し移動したところでエンカウントが発生。消費EP六千近いモンスターも、それほど苦にはならない。けれどこれはあくまでクイルとステラが優秀なだけ、と自分に言い聞かせる。ネクスタのダンジョンでどれだけ痛い目にあったか忘るるべからず!

 横穴は大抵行き止まりだったけど(HP回復薬などアイテムが転がっていたりするのは有り難いけど)、一本、奥へ伸びてるのが。進んで行くと、上りになってる。これで、橋向こうの道と合流する、という訳ね。

 上り道が少し続いた後、水平になり、また上りになっては水平になり、という事を繰り返していると、少し開けた空間が見えてきた。中へ入ると、ボスクラスのモンスターが待っていた。恐らくモチーフは鹿。立派な角と言わず、全体的にトゲトゲしている。体当たりとかされたら痛そう。いや、痛い事に奇襲された。予知能力か、体当たりしてきて、二千以上のダメージ。更に痛い。奇襲の効果は先制される事の他に、この戦闘中こちらの器用さが一割程度下がる、という事。慌てて攻撃が上手く当らない、って言うところ?それはともかく、クイルにHP回復して貰いつつ、一撃を見舞う!ああっ、スカった!これが奇襲の恐ろしさ(既に何回か経験してるけど)。ステラの水系単独攻撃魔法がモンスターに炸裂!どうやら、魔法には余り強くなさそう。ともかく、俺は盾役に徹して、ステラ達に頑張って貰う、というのもアリか。あーあ、もっと強化しなきゃな、全体的に。特に器用さと、あと五感か。後回しにしてきたからなぁ。

 『お試し一号』は殆ど役立たずのまま、モンスターを倒した。ボロボロになっただけ。あー、情けない。クイルに回復して貰い、百余りのEPを器用さと五感に割り振り、先に進む。それにしても、EP少なすぎだろ?それと、強化パーツとか、出てくれないかねぇ。いい加減キツいぞ。愚痴りながら空間を出、また上りに。雑魚モンスターを軽快に倒して行く。上りが終り、少し開けたところに出た。そこから落ちた橋の向こうの道へ出られた。さて、ここからさっき爆弾を投げた奴を探し出してボコる展開でもあるのかな?

 いや、ボコるまでもなかった。ダンジョンを進むと、イベントが発生。討伐隊の中年(四十代くらい)の冒険者がボロボロでやってきたとの表示。奥の開けた場所でとてつもなく強い人型モンスターに、討伐隊は全滅させられた、という。まぁ、冒険者は戦闘不能になったらギルドへ強制転移だろうから、ダンジョン内に死屍累々、っていう事はないだろうけど。そうなると、爆弾犯もギルドに戻ったのか?、と思っていると。そいつが謝ってきた。爆弾を投げたのは自分だと。三十年前、兄が遺跡の調査隊に雇われて以来帰ってこなかったのは、ステラの父親が裏切ったからだと思っていたが、どうやらその成功を妬んだ魔術師の流したデマだった事を、道中、偶然耳にしたのだという。ステラが優しく、判ってくれたならそれで良い、と答えると、安心した様に強制転移された、というテキストを最後にイベント終了。不吉な予告をされて、おっかなびっくり、先を進む。

 いよいよですよ、という感じで、セーブポイントが設置されている。今までダンジョン内には無かった(ギルドでセーブしていた)セーブポイント。あの鹿の前には設置されてなかったセーブポイント。あれくらい余裕だよね?、っていう事?とにかく、来てしまった。セーブしてから、先へ進む。

 うん、人の忠告って、やっぱり聞いとくモンだね。リアルじゃしょうもないのも多々あるけど、ゲーム内は、まず有益な情報が主だし。目の前に現れたのは両手剣を構えた金属鎧姿の戦士モンスター。消費EP二万四千、HP一万一千。纏った黒い霧が、まるで千九百八十年代のアニメ映画みたい(もちろんロードショーじゃなくて、小学校の頃テレビで見た、朧気な記憶しかないけど)。一撃を叩き込んでみたところ、ダメージは千ちょっと。対して、被ダメージ三千オーバー。いや、無理。三発食らったら戦闘不能。回復薬じゃ追い付かない。クイルの全回復魔法だって、何回も使える訳じゃない。黒い霧の影響で、魔法も効き辛い、との表示。おまけにHP回復薬まで使用してくるとか、反則だから!しかも、こいつどんだけ回復薬持ってんだ!?とにかく、これ以上いったらただの消耗戦でこっちの負け。ここは、いつもの逃走!

 ノーリスクで逃走に成功し、どうするべきか考える。一つ、考えついたのは、とにかく回復なんか間に合わない程、大ダメージを叩き出す攻撃を畳み掛ける事。そうなると、また装備を更新しないと。その為には、体力をまた上げないと。千二十四、だったかな?四百近くEP稼ぎですか…気力切れです。とりあえずはここまで。

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