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第一章 ~デバッガーになった・Ⅲ~

溜め息と共に、HMDを外す。横で秀人がニヤけていた。

「ね、どうだった?」

「…最後の四連戦、キツ過ぎない?」

恨めしげに猛が横目で睨んても、秀人はどこ吹く風である。

「いやでも、龍まで行ったでしょ?次からは最初から戦えるよ?」

「それと何?『愛想を尽かされた』って?俺がヤラれただけだし」

「ああ。一応、信頼度みたいな隠しパラメタがあって、低くなると冒険者に断わられたりするんだ。要するに、ダンジョン内で戦闘不能になるって事は、どこか無茶をやってるって事で、そんな奴にはついてけない、って事だよ」

「いや、そりゃあ、そうかも知れないけどさ…じゃあさ、その信頼度っていうのが上がったら、何か良い事でもあるの?」

「今考え中。実装するかは判らないな」

話している二人の所へ、足音が近付いて来た。

「あの、一度街を出てまた入ると、リセットされるそうですよ?」

猛の傍らに立った若い女性が、明るい声で説明した。人好きのする可愛らしさを振りまきつつ。

「あ、名波さん」

猛は、少し眩しげに見上げた。加上かがみ 名波ななみ。ゲームのキャラクタやモンスター、背景等をデザインしている。猛よりも年下である。

「どうです、新しいダンジョンは?」

「はは、最後で力尽きました」

恐縮した様に答える。

「そうですか。最後の四体とか、格好良かったでしょう?」

猛にしてみれば憎たらしいだけの存在ではあるが、嫌いなデザインでない事だけは言っておく事にする。

「まぁ、ああいうタッチは好きですけど」

頷きつつ答えると、心からの笑顔を返してきた。

「良かったぁ!合ってなかったらどうしようかって、ドキドキしてました!」

何とも無邪気に喜んでみせる。悔しさが解け、溶けてゆく様な気がした。

「さ、今日はここまで。次までにクリア方法を考えといて」

少し険のある口調で秀人が割って入って来る。

「うん。まだやってくの?」

「プレイ時のログやメッセージ解析があるんでね。判ってると思うけど、これはデバッグなんだ。これからが本番なんだよね」

秀人の口ぶりに、君の様な暇人とは違うんだ、といったニュアンスを読み取り、猛はイラッ、とした。こっちだって四時間近くもそのデバッグ作業に時間を割いているのだと。

「そう。じゃ」

胸中が口調に滲む。

「お疲れ」

「お疲れ様です」

二人に軽く会釈をするとデイパックを手に取り、部屋を後にした。残る二人はチラリと目線をモニタから上げただけであった。

 × × × ×

 九月十五日 (木) 十八時三十分~二十一時

 さて、この前の続き。どうやってあのドラゴンを倒すか?あれから色々と考えてみた。飛び上がられると、戦士は攻撃が届かない。狩人にひたすら『ヘッドショット』を狙わせる?上手くすれば、二発で倒せるけど…いや、外してダメージ〇、っていう状態が続いたらキツいし。まず第一にやるべきは、武器と防具の強化か。手っ取り早いのはこれしかない。強化パーツは武器の物しかないし、手持ちも少ない。入手可能なうちで最強の物を。急降下攻撃を凌げれば、こちらの攻撃はまず当るから、重い一撃を叩き込んでやる!武器屋には両手剣があった。基本攻撃力五百十二、強化倍率十六、今の剣から外した強化パーツを全て装着すれば、五百十二×八で四千九十六、体力も合わせれば一撃で三千以上ダメージを与えられるけど。はは、装備には体力が六百四十以上必要、と。防具屋にも物理防御力と合わせて九百近くゆく鎧があるけど、こちらも必要体力は六百四十。まずはダンジョンに潜って鍛えろ、って事ですか?はいはい、判りました。

 百三十余りのEPを稼ぐ為に、まずは一人で地下一階を彷徨く事にする。冒険者二人で二千近いゴールドを払うより、HP回復薬を買い込んだ方が安上がり。それと『ノーリスク』シリーズのアイテム。戦闘不能時の強制転移用と逃走用がある。強制転移時には以前説明した通り冒険者を雇えなくなるリスクがあるけど(一旦ワールドメニュー画面に移って入り直せばリセットされるけど、雇いたい冒険者は居なくなってるかも)、それを回避してくれる。逃走用は振り返ったとたん逃走状態になって、敵の追撃を回避出来る。どちらも自動消費で、使用する、しないの指定は出来ない。前回痛い目に遭ったから、両方とも幾つか買っておく。結局冒険者を雇ったのと大差ない出費だったけど、ま、使わなければ良いんだし。

 うーん、正解だったし、不正解だった。って言うのは、この前と同じダンジョン?、って思う程難易度が違ったから。一人じゃキツい。当たり辛い、なかなか倒せない。一回の戦闘で、結構削られる。下手にダンジョン奥へ進もうものなら、最悪HP回復薬を使い果たした時点で出口に向かう道中、エンカウントしまくり、なんて事になりかねない。逃走を繰り返せば、あっという間に『ノーリスク』アイテムを使い果たす。だから、チビチビとでもEPを稼ぐ為、とりあえずは大扉周辺を徘徊して、回復薬使用とダンジョンを出ての全回復を併用する。改めて、狩人の優秀さと神官の有り難さを思い知らされた。結局、一時間半余りかけて目標EPを溜め、全て体力に注ぎ込んだ。六百四十三。あーあ、こんな事だったら、素直に雇っておくんだった。

 武器屋、防具屋を回る。武器屋では装備中の剣から強化パーツを外して貰い、新しく買った両手剣に付け替える。装備を交換すると、攻撃力は一挙に四倍!体力も上がってるから、一撃で三千百オーバー!防具屋でも新しい防具を買い装備を交換。物理防御力は百以上アップ!ふふふ、戦える、これなら戦えるぞ!後は冒険者を雇って、道中稼ぐEPは器用さと敏捷さに割り振りつつ、ドラゴンにリベンジだ!

 地下三階まで、快進撃が続く。稼いだEP百余りは、ほぼ半々に器用さと敏捷さに割り振った。ここまでで消費EPは三百五十余り。モンスターとしてはヘナチョコだけど、こちとら冒険者様だ、元が違う!いや、冒険者としてもヘナチョコか。まぁ、それはともかく。装備交換は効果覿面だった。一撃で面白い様に撃破出来る。これならいける!確かな手応えを感じた。

 地下三階、ドラゴンの部屋の前に来た。準備は整っている。アニメ演出が入るなら、『お試し一号』と狩人、神官は無言で互いを見合った後、静かに頷き交すところ。中に入る。数歩進むと、あの憎たらしいドラゴンが現れた。戦闘に入る。

 戦闘は割と快調に進んだ。やはり一撃のダメージが上がったのは大きかった。急降下攻撃を食らうとすぐに神官に回復して貰い、お返しの一撃を叩き込む。『ヘッドショット』での一か八かも要らなかった。薙ぎ払いも耐え抜き、反撃を見舞う。十ターン余り。あっけない、と思える感じで倒した。やった、リベンジ成功!やはり、あの金属片が見付かった。どうやら前に見つけたのと合わさり、模様を描いている、と表示される。全体が完成するにはまだ幾つも必要だろう、とも。これは何なのか?この伏線は、いつ回収されるのか?それはともかく、獲得した五十余りのEPは、器用さと敏捷さ、あとHPにほぼ均等割した(HP高め)。雑魚相手に苦戦するのは勘弁な!あとやる事と言えば、ダンジョンを出ないと。これから、今まで来た道を逆戻りするのか、とうんざりしていると、部屋の隅に魔法陣が現れた。これで帰れと。乗ってみると、一瞬のうちに建物の大扉の前に出た。ダンジョンの門に向かうと街に出た。

 相変わらず、門を出るといつの間にか一人きり。この無愛想さはどうにかならないか?とにかくギルドに向かう。受付嬢に話し掛けると、ダンジョンクリアの報酬として強化パーツ(加工済みの、防具用の二倍パーツ)と二千ゴールドを貰った。ここに来て防具用のは有り難いね。これでネクスタのダンジョン攻略は終わり。

 ● ● ● ●

 「あー、やっぱり経験値稼ぎは必要かぁ」

体力用EP稼ぎの大変さに愚痴が漏れた。

「あれなら普通に冒険者雇って潜れば良かったなぁ」

「単独行動には時期尚早だった、って事だよ」

クツクツ笑いしながら秀人が猛の肩を叩く。猛は少しムッ、となった。

「これ、どうなんの?まさかここで終りじゃないでしょ?」

「さぁ、どうなんだろう?」

「いやいや、第一部完の漫画じゃないんだし」

「構想はあるよ?まだ本決まりじゃないけど」

秀人は少々渋い表情をした。

「どんなの?」

「うん。このソフトを購入してくれた人達専用の、ダウンロードコンテンツとして続きのダンジョンを配信しようと思ってるんだ。それで兄貴と今、話を詰めてる最中なんだけど、ね」

「上手く進んでないの?」

「うん、まぁ…このゲームに訴求力があるのか疑問だとか、他にマンパワーを割くべきプロジェクトがあるとか、サーバの維持管理だとか…ゲームシステムとか世界観とかの基本コンセプトを作ったのは自分の癖に、冷たいよね?」

右手で頭頂部を掻く。

「へぇ、あのお兄さんが?ゲームなんか、興味あったんだ?」

生真面目なガリ勉のイメージがある才人がこのゲームの根幹部分に関係していたというのは、猛にとって意外であった。

「調べたらしいよ?ロジカルな事とか考えるの好きだし、まぁ、頭の良い人間は何をやらせてもソツがない、って事かな」

溜め息混じりに背もたれに上体を預ける。と、向かいの事務机でボールペンを走らせていた女性が、不意に顔を上げた。

「自分のやるべき事に真剣に向き合っているだけです。秀人さん、貴方ももう少し」

「はいはい、梨名義姉ねぇさん」

義姉ねぇさん、と呼ばれて、その眼鏡美女は頬を紅潮させた。加上かがみ 梨名りな、名波の姉でシナリオ担当であった。

「や、やめて下さい、私と才人さんは、そんな…」

語尾は殆ど聞き取れない。

「ま、とにかくさ、作業は続けるから。兄貴も了承してる。こんな中途半端なところで終われないし」

猛もそれには同感であった。

「じゃあ、また来る必要がある?」

「もちろん!最後まで付き合って欲しいし」

猛の右手を両手でがっしり掴む。少し湿っていて、猛には不快であった。

「あ、ああ、判ったよ…」

振り解く様に、猛は右手を引いた。

「少し間が空くと思うけど、連絡するから」

「うん、待ってる」

引き攣った笑みを浮かべ、猛はデイパックを手に立ち上がった。


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