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第五章 ~最難関に当った・Ⅱ~

 翌日、建物の前で名波は待っていた。時刻は十時五十分の少し前。見れば、なるほど建物正面の入口には格子のシャッターが下りていた。

「早かったね。待たせちゃったかな?」

両手を擦り合わせていた名波に、少し済まなそうに問う猛に。

「いえ、私も、ほんの少し前に来たばかりですから」

髪を撫でつけながら、名波は答えた。

「そう?」

「さ、こっちです」

猛の手を取り、脇道へと誘った。

 裏に回ると、鉄製の扉横に設置された、明らかに後付のテンキーパッドに、名波は暗証番号を打ち込んだ。電子音がして解錠する。中に入ると薄暗い通路を進み、守衛室に立ち寄る。初老の守衛が、小さく頭を下げてきた。

「ここに行き先と名前、今の時刻を記入して下さい」

カウンター上に開かれたノートには、手書きで入出記録表が作成されている。そこに『G.I.ソフトウェア』と自分の名、守衛室奥の掛け時計の時刻を記入した。その前には、能勢と名波の名に挟まれ、行く先は同じだが見知らぬ名前がある。

「ささ、行きましょう!」

「うん」

二人は連れだって、建物正面の階段を上がっていったのであった。

 × × × ×

 十二月十七日 (土) 十一時十分~十三時〇〇分

 今日はとりあえず、カティア達も強化しつつEP稼ぎをする。第六のダンジョンに潜っても同じ事をすると思うけど、その時には『やせ我慢』でも覚えておくとするか。そうじゃないとキツいだろうね。ある程度モンスターにダメージを与えてからすかさずカティアが『アイテムスティール』をかまし、アレックスが攻撃魔法でトドメを刺す、っていうのが理想だけど。そこまで行くのは大変だろう。『やせ我慢』で被ダメージを減らしつつ、HP上限値も上げていかなくちゃダメか?

 やった!強化パーツゲットォ!防具用の、四倍強化。アビリティ無し、が残念。稼いだEPは十六万余り。全て敏捷さに(九十万四千余り)。消費EP三百三万八千余り。ダンジョンを出、トライへ戻る。

 防具屋で強化パーツを加工、装着。十二倍強化で物防百五十七万二千八百六十四+一万三千百七=百五十八万五千九百七十一。魔防三十九万三千二百十六。クリティカルでもない限り、大ダメージは受けないか。教練場で『やせ我慢』を最大強度まで覚えた。これでも攻撃命中時の最小ダメージ一は残るけど。さて、昼休みになったので、今回はここでセーブ。一時間後に再開ね。

 ● ● ● ●

 小さくチャイムが鳴り、猛はHMDを外した。掛け時計は一時を指している。

「ここでは一時から一時間が昼休みなんだ」

「へぇ?」

「猛はどうするの?」

机上に置き放しであったコンビニ袋をゴソゴソやりながら訊ねてくる秀人。向かいへ目を向ければ、加上姉妹は弁当で、名波が幾つかのタッパウェアを二人の机に広げている。結構量は多そうである。能勢はコーヒーショップチェーンの紙袋を取り出した。

「外に食べに行く?なら良いとこ教えるけど?」

秀人の問いに重なる様に、名波が。

「あの、少し作り過ぎちゃったんで、良かったら一緒に」

「あ、気にしないで。ちゃんと買ってきたから」

右手で制する様な仕草をし、デイパックを引き寄せる猛。そうですか、と、小さく呟き、名波はコンビニ割り箸を引っ込めたのであった。

 コンビニおにぎりが二つにマカロニサラダ。後はペットボトルのお茶が一本。机の上に並べ、手を洗う為トイレに向かう。廊下に出、奥に進むと突き当たりに左右に扉が並んでいた。右側の、男子トイレの扉を開く。先に手を洗う男性の姿が目に入った。猛より長身で、スキンヘッド。容貌も近寄り難い鋭さを備えている。一瞥され、猛は思わず扉を閉じそうになったが。

「君、秀人君達のチームだよね?」

声は、思いのほか優しく。

「はい…」

おずおず、と答えると。男性は少し笑って。

「ははは、そういう反応、慣れてるけどね。入ったら?」

猛は一つ、無言で頭を下げた。手を洗い終え、ハンカチで拭いている男性と擦れ違いに、洗面台の前に立つ。

「どう、順調?」

扉へゆっくりと歩きながら発された問いに。

「そうだと、思います」

蛇口を捻ると、ハンドソープを右手の平に少し取り、泡立てつつ。扉を出かけて、男性は立ち止まった。

「…実はさ、君達のプロジェクト、もっと早くポシャると思ってたんだよね、君達には悪いけど」

「…そうですか…」

どうやら社内でも期待値は低かった様だと、猛は思い知った。

「ここまで来れたんなら、後は最後まで突っ走るだけだね。頑張って」

そういい残し、扉を閉じる。

「有難う、御座います」

手を洗いながら、猛は頭を下げたまま、そう呟いたのであった。

 × × × ×

 十二月十七日 (土) 十三時五十分~十九時〇〇分

 さて、休憩が終わって続きを再開。

 今回は主に知力を強化しよう。攻撃魔法の強化と、何よりパラメタ弱化魔法対策。それを使うモンスターが出てくるかは判らないけど。百万近くまで強化出来たら、後は全体的に(HP、MP上限値はドーピングして)強化する。

 三時間余りで八十万余りのEPを稼ぎ、全て知力に(九十万五千余り)。消費EP三百八十三万九千余り。ここまででカティア達のHPは六万以上増加してる。もう少しEP稼ぎをして、ついでにカティア達の強化も進めよう。『お試し一号』は待機して盾となり、カティア達にスキルを使いまくらせる。

 二時間ちょっとで六十万とちょっとEPを稼いだ。そろそろ良いか。体力(三十万六千余り)、知力(百万余り)、器用さ(百万余り)、敏捷さ(百万余り)、五感(百万余り)、HP上限値(十四万余り)、MP上限値(四万七千余り)に強化。消費EP四百四十四万余り。トライへ戻る。

 トライで大分溜まったアイテムを売却。HP上限値(十四万五千余り)、MP上限値(五万余り)にドーピング。ゴールドも余裕があるし、カティア達の装備も更新しようか。カティアに擲弾銃を持たせよう。爆弾と組み合わせて使用する。攻撃力固定で分散するから、どこまで有効かは不明だけど。道具屋で爆弾と、攻撃レンジ『中』の手裏剣を購入。とりあえずは、こんな所か。

 本当に久々に、第六のダンジョン『ヘキサの地下遺跡』へ戻ってきた。あの通路の大扉を開け、奥に進む。少しして、もはや懐かしくすら思えるライオンのモンスターに再会した。戦闘開始。

 何か、前にも感じた様な気がする、この拍子抜け感。クリティカルこそ出なかったけど、片手半剣と投擲ナイフ装備で『連撃』かましたら、あっ、と言う間に戦闘終了。最初の印象が強すぎて、虚像が膨らみすぎてたか?でもま、相手は一体のみだったし、ここから先はこんなのがゴロゴロしてるんだろう。獲得EP十万余りを体力(三十五万余り)、HP上限値(二十万余り)に。消費EP四百五十四万余り、少し先へ進むと、またエンカウント。今度は象とゴリラ。前衛の象は『連撃』であっさり倒したけど、後衛のゴリラは、クリティカルが出なくちゃ、投擲ナイフじゃとても倒しきれない。しかも全体攻撃魔法を使ってくる。これは攻撃力が対象全体に分散されるから何とか持ちこたえられたけど、カティアなんか戦闘不能寸前。ヤバい、逃走!

 ダンジョンを出、道具屋にまっしぐら。HP上限値(二十一万余り)に。やっぱり体力強化は必要か。後は器用さと敏捷さ。カティア達の強化もしないと。また第五のダンジョンに逆戻りかぁー。とりあえず、今回はここまで。

 ● ● ● ●

 「今日はこれくらいにしといたら?」

目頭をマッサージしている猛に、秀人が優しく声を掛ける。

「そうしとくよ。だけど、キツいなぁ」

「あれを倒せたんだから、もう少し強化すれば、普通に彷徨ける様になるよ」

「うーん、忘年会くらいまでには、このダンジョンを攻略しときたいけど」

十二月二十二日が忘年会であった。

「まぁ、また休出しても良いし。三連休だから、二日にしても良いしね。まぁ、どっちかは半日にしたいな」

「でも、クリスマスだしなぁ」

「いやいや、予定なんて無いでしょ?」

「そりゃ、そうだけど…」

「なら、無い同士、仲良くやろうよ」

秀人に肩をバシバシ叩かれつつ、猛は少し哀しくなってきたのであった。

 × × × ×

 十二月十九日 (月) 十八時〇〇分~二十三時〇〇分

 はぁー、第五のダンジョンに逆戻り、少しカティア達も強化。

 三時間足らずで六十万余りEPを稼ぎ、体力(九十五万余り)に。消費EP五百十四万余り。強化パーツを入手した。武器用一(四倍)、防具用一(四倍)。アビリティ無しなのは残念。一旦トライに戻る。

 武器屋で加工、片手半剣に装着する。攻撃力二千九百三十六万百二十八+二十万九千七百十五=二千九百五十六万九千八百四十三。防具屋でも同様。物防二百九万七千百五十二+一万三千百七=二百十一万二百五十九。魔防五十二万四千二百八十八。HP上限値も二十三万余り、MP上限値五万四千余りにドーピング。残り時間はひたすらEP稼ぎ。二時間余りで六十五万余り。体力(百万余り)、器用さ(百三十万余り)、敏捷さ(百三十万余り)に。消費EP五百七十九万余り。HP上限値を二十四万余りに。『連撃』回数を二十四まで強化。今回はここまで。次回は器用さを重点的に強化しながら、第六のダンジョンを攻略しよう。


 十二月二十日 (火) 十八時〇〇分~二十二時〇〇分

 前回予告した通り、今回は第六のダンジョン攻略を本格的に行うつもり。まずは手早くEPを稼いで、余裕が出来ればカティア達も強化しよう。

 六層からなる遺跡の第一層。ザコ一体は消費EP六千万~九千万くらい。獲得EPが十万~三十万くらい。今まで出てきた中ボスの色違い、ちょっとデザイン変更みたいなモンスター。一回の戦闘での出現数は一~二、平均獲得EP四十万くらい。十回も戦えば四百万EPくらいは稼げる。入って間もなく現れたお馴染みのライオンを軽く倒し、更に先へ。赤い鳥とゴリラの組み合わせが出現。ゴリラの全体魔法を食らっても、余り痛くない。戦闘終了後、『お試し一号』が回復役になる。クイルと違って、何回も回復魔法を使わなきゃならないけど。『連撃』でもクリティカルが出る様になって、サクサク進める。一時間ちょっとで四百五十万余りのEPを稼げた。器用さ(三百五十万余り)、敏捷さ(三百五十万余り)、HP上限値(三十四万余り)。消費EP千三十万余り。はっはっはっ、一千万越え達成ぃー…はぁー。

 ダンジョン内の構造は、第二のダンジョン同様階段室を中心に、周回する廊下を挟んで同じ間取りの部屋が並んでいる。一階層が、結構な広さがある。トラップの類は特になし。扉という扉を片端から開けながら進むうち、階段室側の扉を発見。開かない。また何処かにスイッチでもあるのか?と、まぁ、こんな感じで二時間近くかけて五百万近くのEPを、カティア達の強化と並行で稼いだ。『アイテムスティール』は成功率が低い、と言うかまず成功しない。それでも続けていかないと。稼いだEPは器用さ(五百万余り)、敏捷さ(五百万余り)、五感(二百万余り)、HP上限値(百三十四万余り)に。消費EP千五百三十万余り。更に探索を進めよう。

 扉を開け中に入る。変わらない部屋か、と思ったら。中ボス登場!えっ、カブトムシ?消費EP一億五千万、HP一億。巨大な、黒光りする、カッコ良い奴。ただし、角はやたら枝分かれして一本一本が鋭い。足の爪も鋭そう。さて、戦闘開始。

 うん、まぁまぁ、かな?固かったけど、クリティカルも出たし、結構あっさり倒せた。獲得EP六十万余り。全て知力(百六十万余り)に。消費EP千五百九十万余りに。部屋の中を探索すると、二つのスイッチが。二つともオンに。一つは階段室の扉として、もう一つは?まぁ、いずれ判るか。とりあえずこの階層を隈無く探索してから階段室へ向かおう。一時間かからずに探索終了。三百万余りEPを稼いだ。器用さ(六百万余り)、敏捷さ(六百万余り)、HP上限値(二百三十四万余り)に割り振る。消費EP千八百九十万余り。今回はこの辺まで。離脱魔法でダンジョンを出た。

 ● ● ● ●

 「どう、一度調子が出てきたらすぐでしょ?」

秀人が猛の肩を揉んでくる。

「まぁ、ね。でも、本当に強化のし方が急カーブだよね。こういうの普通、バランスが悪い、って言うと思うけど?」

「でもバカバカしいでしょ?このバカバカしさが、このゲームの醍醐味だから」

「そりゃそうなんだけど。もう消費EPとか、どうでも良くなってきてるし」

「いやいや、ここを越えればどこまで上げられるか熱くなれるからさ」

肩を両の拳で叩く。結構上手だと、内心猛は感心していた。

「本当に?」

「多分ね」

当てにならない返答と共に、猛の両肩を思い切り叩く。心地よい痛みが、猛の心に温もりを与えたのであった。


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