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第一章 ~デバッガーになった・Ⅰ~

 第一章

 商工会歴三百三十二年。コロンバイア大陸東方のエクドアル王国、ほぼ中央の山岳地帯地下で、巨大な神殿が発見された。それは極めて古いもので、古世界オールドワールドの物と思われた。大天使教団はその希少性及び危険性に鑑み、特別調査隊を結成、派遣した。その結果、その神殿は間違いなく古世界の物で、『神界戦争』で使用されたと思われる召喚魔法陣であった事が判明した。これが、大いなる悲劇を引き起こす事となる。

 秘密結社『大いなる叡智』の構成員は、教団内にも多数紛れ込んでいた。当然ながら、それは調査隊の中にも。彼ら、彼女らは隙を見て、隊長である神官を始めとする隊員達を拘束、その生命をもって『異界者』の召喚を試みる。魔法陣の中、光輝溢れる門は開け放たれた…それより間もなく、王国を中心とする周辺地域で、変異を遂げた動植物、果ては人間が発見される様になった。それらは廃坑や洞窟などを中心に次々と現れ、獰猛さをもって人を襲った。

 ある時、涸れ井戸から噴き出した黒い霧により村人の殆どが変異した事が判明した。村より唯一脱出した村人のもたらしたその情報により、その黒い霧が地下から溢れ出しており、これを封印する目的で魔法を施した門を、廃坑や洞窟の出入口、風穴などに対して施すための活動が急展開した。それでもそこここの地割れなどから霧は吹き出し、変異した動植物や人間は後を絶たなかった。門の周辺には街が作られ、冒険者ギルドにより『変異者』達の討伐や穴を塞ぐ仕事が募集、実施される様になった。そうして三十年余りが経過した…。

 × × × ×

 九月九日 (金) 十八時十五分~二十一時三十分

 今日からデバッグ?テストプレイの開始。記録として、こういうリプレイみたいなものを入力してくれという依頼があった。これが報告書兼ゲーム説明書(販売時に編集して付けるんだって)代わりで、無いと報酬が払えないって。まぁ、いいけど。バイトと兼業でゆく事になるけれど、それほどプレイ時間は長くなさそうだし。これも音声入力ソフト(G.I.ソフトウェア製だそうで)で作成したのを修正する事になってる。キーボード苦手だからね。と、ゲーム環境についても記しておかないと。映像と音声は無線式のHMDでパソコンから送られてくるけれど、入力は据え置きゲーム機用とそっくりのコントローラを使用する。VRじゃないけど、アナログスティックで周囲を見回せたりはする。まぁ、そこまで手間は掛けられないかな。十字キーで移動ね。これでリアルの説明は終り。

 さて、と、まずはゲームの基本情報から。ゲーム名は『リミットレスRPG』。その名前通り、キャラクタ育成やら戦闘やらで出てくる大体の数値に限界がない(に等しい)RPG、っていう事、らしい。開発環境の販促用だから、そういう特色を持たせたって。だから、このゲームには、いわゆるレベルが無いんだ。その代わり、EP、強化ポイントというのを消費してキャラのパラメタを思う様に強化してゆく。そのEPの消費数が、謂わばレベルに相当する。キャラのパラメタには、強化できるもので体力、知力、器用さ、敏捷さ、五感と、HP、MPの上限がある。出来るだけシンプルにしてあるそうだ。体力は攻撃力と言い換えてもいい。武器や防具を装備する際の制約にもなる。知力は魔法を使用するには必須で強化しないと。器用さは攻撃の当たり判定や一部アイテムの使用成功率、トラップ解除の成功率(盗賊だけね)等に影響する。敏捷さは攻撃順や攻撃の回避率等に影響する。早いうちから強化した方がいいかも。五感は先制攻撃発生の確率や奇襲回避の成功率等に影響する。職業によって値が固定のパラメタもあって、物理防御力と魔法防御力。これは防具等で強化するしかない。HPやMPの上限は、高価なアイテムでも強化できる、らしい。

 次は職業について。戦士、狩人、盗賊、魔術師、神官、格闘家の六つ。まぁ、ファンタジーものRPGで馴染み深いものだから、必要に応じて説明を。俺は一応、オーソドックスに戦士を選んだ。武器や防具の選択肢が広くて、制限はあるけれど魔法も覚えられる。初期の、謂わばレベル一では知性が低くて無理だけれど。さて、最後に名前を決める。あとで変更できるし、ここではひとまず『お試し一号』とでもしておこう。キャラメイクが済んだら、始まりの街スタルトからゲームスタート。

 チュートリアル用の街スタルトには、武器屋、防具屋、道具屋、ギルド、教練場に、廃坑入口を塞いだ門がある。まずはギルドに行き冒険者登録をする、というイベントをこなす。これをしないと施設を利用する事も、廃坑の門を潜る事も出来ない。ギルドでは、色々と受付嬢が説明してくれる。イベントの大半は各街のギルドで起こるらしい。ギルドが何をしているのかも説明してくれる。

 廃坑はどこまで広がっていて、どういう構造でどこと繋がっているのか、誰も把握していないらしい。どこから来たのか、その辺に居そうにないモンスターがうろつき、以前、知らぬ間に増えすぎて門を破り街中に溢れ出た事があった。その時には王国の軍隊が駆逐したが結構な被害を出し、以後はギルドが中心となって冒険者を募集、組織し、定期的な討伐を行っているという。と同時に、廃坑の地図作成も進め、モンスターが沸いて出る原因も探っていると。また廃坑とはいえ、まだ鉱石等が時折見付かり、変異により誕生した薬草等も存在するという。そういった物の採取、その護衛等の仕事もあるらしい。冒険者も最大二人、ここで雇えるという事だった。一通り説明が済むと、腕輪を渡された、と表示される。それが登録冒険者の証明書代わりらしい。

 ギルドを出て、店を回る。武器屋や防具屋にあるのは、まぁ始まりの街らしく性能低め。ここで少し説明しておくと、武器や防具は強化が可能。基本攻撃力や基本防御力の他に、その何倍まで強化できるかっていう最大倍率が設定されていて、店やダンジョン内で入手した強化パーツを装着する事で、最大倍率まで強化出来る。強化パーツの中には、例えば『攻撃力十パーセントアップ』みたいなアビリティの付いている物もあって、複数装着すれば加算的に強化(物によっては弱化?)されてゆく。例えば基本攻撃力百の剣が最大倍率四で、倍率二の強化パーツを二つ装着、一つには『攻撃力十パーセントアップ』が付いていたとすれば、百×四×一.一で、攻撃力は四百四十、という事になる。ダメージ計算は単純で、武器の攻撃力+体力から物理防御力+防具の防御力(こちらも基本は武器と同じ)を引いた残りがダメージ。命中すれば、最小でもダメージ一が与えられる。最初は強化パーツ無しだから、とりあえずは剣の基本攻撃力百二十八+体力五百十二で六百四十が攻撃力、という事。

 街に宿屋は無い。ダンジョンを出れば、ステータス異常も含め完全回復、の親切設計(なのか?)。道具屋にはHP、MP、ステータス異常の各種回復薬に、ノーリスクでのダンジョンの強制脱出や逃走用アイテム等が売っている。とりあえず安いHP回復薬を幾つか購入。残るは教練場。ここではスキルや魔法を習得出来る。ゴールドを支払う事になるけど、習得条件や所持金関係で今は無理。と、これで街内の施設については、門を除いて一通り説明終了。いよいよ門へ向かう。門の前では、神官と魔術師が待っていた。どうやら最初だけ、只でサポートしてくれるらしい。冒険者の雇用は一度ダンジョンを出ると解除されて、ギルドでまた雇い直す事になるという。冒険者によっては他へ行ってしまう事もあるとか。うーん、結構凝っているというか、面倒臭いというか。

 いざ、ダンジョンへ突入。丸太で補強した土の壁が続く。3Dだから、右アナログスティックで見回す事が出来る。これで仕掛けを探したりするらしい。左アナログスティックでは体の向きを変えられる。逃走の時には、振り返る必要があるそうで(左右アナログスティック同時押し)。俺のキャラは戦士なので、前衛に一人。神官と魔術師は後衛。神官は武器や防具の選択肢が広め(武器は棍棒や投擲武器の類のみだけど)で、前衛も務まるとか。

 チュートリアル用だけあって、中は余り広くなかった。出てくるモンスターも、大して強くはない。一撃で倒せるくらい。ただこちらもステータスが低いから、奇襲を受けたり攻撃をスカる事も結構ある。モンスターにもEP消費という形でパラメタ値が割り振られている。表示されている消費EPはその合計という事だそうで。つまり、消費EPが例えば百なら、体力や知力、HPといったパラメタはその一部を、HPには最低でも一を割り振らなければならないから、たとえ残り九十九を物理防御力に割り振ったとしても一撃で倒せる。そのモンスターは器用さも敏捷さも〇だから、攻撃も当らないし、回避も出来ない。まぁ、ここまで低いモンスターは居ないけど、消費EPとHPが判れば、大体手強さは見当がつく。それほど極端な割り振りをされているモンスターも居ない様だし。戦闘に勝って入手した僅かなEPは、最初の決意通り敏捷さに割り振ってゆく。先手必勝!、ってね。

 ダンジョンの、幾つかある横道は、悉く行き止まりだった。その内の幾つかは、上に繋がっているか、乗り越えられない高い段差が出来ているか、障害物が塞いでいた。縄梯子が垂れ下がっているのが見える天井の穴は、別のダンジョンと繋がっているのだろう。いつの間にかモンスターが沸いてくるというのも、こういった穴から入り込んでいるという設定なら頷ける。まぁ、どうにかして塞げよ、とも思うけど。ま、好意的に解釈すれば、塞いでも破られるから諦めた、っていうとこかな?

 モンスターを倒すと、ごくたまに強化パーツが手に入る。ダンジョン内に落ちている事もある。それは鉱石の様な物で、そのままでは強化パーツは出来ない。武器屋や防具屋に持ち込んで加工して貰い、初めて性能(強化倍率やアビリティ)が判る。着脱もして貰う必要がある。当然ゴールドが入り用になる。と、こういった細々した事を魔術師や神官が教えてくれる。チュートリアル用ダンジョンだから当然だけど。

 暫くは、ダンジョン内をうろついて経験値ならぬEP稼ぎに勤しむ。二時間近くかけて、百ちょっと。多くて消費EP千くらいのモンスターからじゃ、ほんの少ししか貰えない。まぁ、大抵が一、二撃くらいで倒せるから仕方ないけど。初期HP六千のうち、一度も回復せずに、まだ五千近く残っている。そろそろ、ダンジョン奥の、バリケードへ行きますか。その向こうには、このダンジョンのボスが待っているという。バリケードを開ける前に一応、神官に回復して貰う。さぁて、行きますか!!

 バリケードの向こうは、拓けた空間だった。そこで一行を待ち受けていたのは、黒いオーラを放つ魔改造を受けた(角が生えてるとか、妙な所に口が開いてるとか)ライオンだった。全体的にキャラデザはリアル寄り。基本的にこの世界の動植物が変異したモンスターっていう設定だし。まぁ、好みかな?とか思っていると、消費EP一万、HP六千!?つまり、四千余りが他のパラメタに割り振られている訳だけれど。さぁて、くらえ!、って、三百!?うわっ、六百近く削られた!少し、気を引き締めないと。

 結局、二十ターン余りかけて倒した。水系の魔法が結構効いた。戦士の攻撃は結構、スカった。何度神官に回復して貰った事か。さすがにボス、舐めてました。すいませんご免なさい。ちなみに後で知ったけれど、条件が揃えばボス戦でも逃走は可能だとか。いや、後で言われても。それはともかく。ボスは、何かのアイテムを落とした。何かよく判らない紋様の描かれた金属片、と表示されるけれど、使える様な物ではなくて、ボスを倒した証拠らしい。二十余り貰ったEPは、やはり敏捷さに注ぎ込む。魔術師の離脱魔法でダンジョンを出た。

 ダンジョンを出ると一人きり、門の前にいた。冒険者とは何の別れの挨拶も無し。え、いつ居なくなったんだよ、って感じ。ギルドへ向かうと、受付嬢に話し掛ける。自動的に話は進行して例の金属片を見せ、ボスを倒した報酬として強化パーツと、他の街へ行く為のギルドの紹介状を貰った。これでスタルトでのイベントはクリア、と。自分にお疲れ様、と言ってみる。

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