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第四章 ~長丁場になった・Ⅳ~

 その日も早めに出勤しようと道を急いでいた猛は、建物手前で待ち受けていた才人に呼び止められた。

「少し、話がある」

何とも感情の読めない、冷淡にも見える表情で、猛を見据えてくる。

「はぁ…」

どう反応して良いか判らず生返事を返す猛を後目に、才人は歩き出した。会社の建物を素通りして。

 喫茶店のテーブルに相対して腰を下ろした二人は、ブレンドコーヒーをオーダーしてから暫く、沈黙の時を過ごした。考え深げな才人にどう声を掛けたら良いのか、猛には判らなかった。

「…開発は、順調な様だが?」

「そう…だと思います」

プロジェクトの進捗状況なら秀人に訊けば良いのに、と猛は訝しんだ。

「そうか…正直なところ、ここまで順調に来るとは思っていなかった」

「順調に進まなかったら、どうしたんですか?中止にするつもりだったとか?」

かつて目撃したミーティングでの、才人の態度からしてそれは充分あり得たが。しかし才人の返答は意外なものであった。

「いや、最初からそんなつもりはなかった」

小さく首を横に振り、そう断言する。

「え?でも、ミーティングの時には…」

「その事について、君に話しておきたかったから、今こうしている」

「?何ですか?」

猛は、才人の語ろうとしている事が予想出来ずにいた。プロジェクトの行く末に関しては、もちろん完結まで存続して欲しいとは思うが、正直なところ、たとえ中止となってもそれほど落胆などしないであろうと思っていた。なぜなら自分は門外漢である、という意識が強かったからである。だからこそ、今後の話が出た際、これから先もデバッガやシナリオ協力として関わって欲しいと頼まれ、嬉しさと同時に困惑を覚えたのであった。ウェイトレスがコーヒーセットを二組、二人の正面に据えると「ごゆっくり」と頭を下げ去って行った。

「…君は、私が秀人に、弟に対して冷たいと思うか?」

「ええと、それは…」

「正直なところで頼む」

「…はい。その、秀人の事をお荷物だと思っているんじゃないか、と」

才人の視線から逃れる様に、砂糖やミルクを注いだコーヒーカップを取り上げる。才人は一つ、溜息をついた。

「ふぅ。確かに、そう見えても仕方がないかも知れない。これでも私なりに弟の事は気に掛けてきたつもりだが」

「そうでしょうが…」

兄弟の事は猛には判らない。言葉を濁すしかなかった。

「君は知らないかも知れないが、神島家は多くの起業家、企業人を輩出してきた。私もその後継者となるべく努力を惜しまずに来た。しかし、弟はそういう道には馴染まないと、幼い頃から思っていた」

「それはなぜ?」

そんな頃から秀人の行く末を見極めていたのかと、少々驚きながら訊ねる。

「集中力に欠ける。何かに注力する、という事が苦手だ。有り体に言えば、飽き易いのだ。あるいは、諦めが早いとも言える」

「まぁ、確かにそんなところもあった様な」

少し遠い目をしながら、猛は答えた。

「そうなったのは、私の影響もあっただろう。両親は、弟に関しては無関心に近い状態で、私に大きな期待を掛けていた。弟は、私に嫉妬していただろう。反感も抱いていた筈だ。しかし同時に、私には敵わないと諦めていたのだろう。それが習い性となって、多少の障害で何でも諦めてしまう様になった。それでは企業経営は無理だ」

「そうなんでしょうね。よく判らないですけど」

倒産した会社の事が、ふと思い出された。あの経営陣が無能だったとは思えなかったが、それでも倒産はしてしまうのだ。

「弟には弟の生きるべき道がある。今、自力で何かを成し遂げられれば、自信を持って歩いて行ける筈なのだ。事実、これまで私に碌に口答えもしてこなかったのが、最近は堂々と議論に応じる様になってきた」

「まさか、秀人に自信を持たせる為に、このプロジェクトを?」

「経営者としては、もちろんある程度の成算があった上でこのプロジェクトを企画した。正直なところ、目論見以上に順調なので安堵している。兄としては、歩むべき道を用意しておきたかった、というのは確かだ。もちろんここから別の道を行くのも良い。いずれにせよ、この経験は心の支えになる筈なのだ」

冷めかけたコーヒーをブラックのまま一気に呷る。

「でも…なら、なぜプロジェクトの存続に反対している様な発言を?」

「簡単な事だ。弟の緊張感を切らさせない為。プレッシャーを与える事で、私から与えられたプロジェクトを完遂するモチベーションを持続させる。ここまで来てしまえば、もはや必要もないとは思うが」

「確かに…」

一つ頷く。心なしか、才人の表情が優しくなった様な気がした。

「…一つ、お願いがあるのだが」

「何でしょうか?」

「今までの話は、弟には黙っておいて欲しい。少なくとも、このプロジェクトが完結するまでは」

正面から見詰めてくる才人の双眸には、懇願する様な、これまでとは異なる人としての弱さを垣間見させる様な色があると、猛には思えた。

「…はい、判りました」

「そうか、助かる」

何処か安堵した様な吐息と共に、いつもの才人に戻って行く。

「話はこれで?」

「ああ。時間を取らせてすまなかった」

伝票を手に取り、才人は立ち上がった。猛が後に続く。

「先に出ておいてくれ」

「では、お先に」

一礼し、レジへ向かう才人と別れ、猛は外に出た。会社への道を歩きながら、才人がなぜ自分の考えを打ち明けたのか、考えてみる。結果、きっと彼なりに俺を認めた事の意思表示なのであろうと、ほのかに胸が温かくなってくるのであった。

「みんな、自分の事などどうでもいい、か…」

秀人はそう言って泣いたが、そんな事はない、ずっと前から、彼の事を気に掛けてきていた人が居たのだと、いずれ教えてやろうと、心に誓う猛であった。

 × × × ×

 十一月二十四日 (木) 十八時四十分~二十二時〇〇分

 引き続き第五のダンジョン攻略。と、その前に、引き続きEPとゴールド稼ぎを第四のダンジョンで。『アイテムスティール』を駆使して、何としても強化パーツを入手したい!そうなると、今回は余り書く事が無くなるけど、まぁ、RPGに経験値稼ぎは付き物だし。

 やったー!!待望の強化パーツゲットォォォ!!武器用の二倍強化、アビリティ無しだけど、超嬉しぃぃぃ!EPを五百余り稼いだところで、遂に、カティアが『アイテムスティール』で入手!EPはMP上限値に(消費EP一万四百余り)。一旦ダンジョンを出て装着しよう。

 武器屋に行き強化パーツを加工、両手剣に装着して貰う。これで以前と同じ攻撃力七千百六十八に。体力を含めた物理攻撃力は九千オーバー!前衛は一撃でノックアウト!!敵、味方とも一パーティーは前衛、後衛合わせて六ユニット(『封印瓶』から解放したモンスター含む)だから、最低でも二回連続行動が出来て、『連撃』を三回まで使用すれば(攻撃回数は指定出来る。今までは最低の二回だけだったから無かったけど)、上手くすれば相手に何もさせず戦闘を終了出来る。と、ここで『連撃』のメリットについて。

 戦士が最初から覚えられるスキルには、他に『やせ我慢』がある。これは待機中の被ダメージを軽減するもので、最大三割減まで強化出来る。まぁ、待機をする状況がこれまで殆ど無かったから、覚えなかった訳だけど。それはともかく、『連撃』について。これは基本単体攻撃。だけど、指定した攻撃回数が終了するまで攻撃が終わらない、という特長がある。つまり、指定した敵を倒した時、まだ攻撃回数が残っていれば、ランダムに有効な攻撃レンジ内の敵を攻撃する。極端な話、攻撃回数をMAXまで強化して、投擲ナイフ装備で『連撃』を最大攻撃回数指定で実行すれば、一回の行動でモンスター達を全滅させられる。もちろん、それにはかなりの器用さと、武器の強化パーツか体力が必要だろう。

 第四のダンジョンにちょっと飽きたので、第五のダンジョンに戻る。『アイテムスティール』を試しながら(相変わらず成功率は低い…)、地下通路へ進む。戦闘を繰り返しながら進むうち、え、トラップに引っ掛かった!?リセットされてるの!?『トラップサーチ』に失敗、毒に侵された!ま、クイルがいるから状態異常回復魔法で直して貰う。さて、時間も頃合いだし、この辺で引き返そうか。ダンジョンを出るまでに稼いだEPを全てMP上限値に注ぎ込む。これでMP上限値は二千七百余りになった(消費EP一万九百余り)。トライに戻ってギルドでセーブ。お疲れ様(って誰に!?)。

 ● ● ● ●

 「うーん」

猛は唸った。システム上の問題を発見した気がしたのであった。

「どうしたの?」

秀人の問いに。

「これさ、主人公以外も成長させられる様にしないと、キツくない?」

「何?EPを他のキャラにも割り振れる様に、って事?」

「うーん、どうだろ?」

後頭部で手を組む。

「主人公のパラメタ値をとんでもない値にしよう、っていうのがコンセプトだから、それだと分散しちゃうし、あまりねぇ」

渋い秀人の返答。それは猛も理解していた。複数のキャラを強化する為にEP稼ぎをしていては、余計に時間が掛かる。プレイヤーがそれを許容出来るであろうか?しかし、今のままではカティア等が使い辛いのも確かである。

「…じゃあさ、他の仕組みで強化できる様にするのは?」

「例えば?」

「うーん、例えば、スキルを使うと、特定のパラメタ値が強化されるとか。戦闘に貢献出来なくても、強化できる方法があれば」

「そうだね…考えておくよ。今のに入れる余裕はないけど」

「じゃあ、次のダンジョンで?」

「うん。カティアは引き続き出るしね」

考え深げに答えた秀人は、猛が帰宅の為部屋を出て行く時にも、考え込んでいたのであった。


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