第四章 ~長丁場になった・Ⅲ~
猛が早めに『G.I.ソフトウェア』に顔を出すと、秀人から付いてくるよう言われ、二人は社長室に来ていた。社長室、といっても部屋の一角をパーティションで区切った簡素なものではあるが。
「今日連絡があった。二人に対する謝罪文と、スーツ代を含む四十万の慰謝料でどうか、という事だ」
山田との一件で猛達は交渉を才人に一任していた。その才人は、友人の弁護士を通じて示談をとりまとめて貰っていたのである。
「まぁ、妥当なんじゃない?特に大した怪我もなかったし」
「そうですね」
後日、念のため二人はそれぞれ病院で診察して貰ったが、特に異常無し、という事であった。今日に至るまで、特に体調の異変もない。
「慰謝料は後日二分して各自の口座に振り込む事で良いか?」
「うん」
「はい」
秀人は上機嫌であったが、猛は少々浮かない表情をしている。
「これで彼も、暫くは僕らに頭が上がらないね。いや、一生かな?」
清々した、という風に深く息を吐く秀人に対し。
「…山田君、何であんなに怒ったのかな?」
視線を落とし気味に、猛は呟いた。
「さあ?自分が最低の人間だって、バラされたからじゃないの?」
「それもあるだろうけど、やっぱり、Jリーガーになれなかった事、指摘されたからじゃない?」
「でも事実だろ?実力不足で望みのステージに上がれなかったからって自業自得なのに、怒って暴力を振るうのはお門違いだよ」
「それは、そうだけど…じゃあ、俺達が今いるステージって何なんだろう?俺達、今どこにいるんだろう?」
「ステージって…うーん」
秀人は言葉に詰まり、考え込んでしまった。
「…少なくとも、ゲームとしては中途半端な作品を開発中の、文化祭ノリの中途半端な開発チーム、といったところだろう」
相も変わらぬ才人の辛辣な一言。秀人は少々ムッ、となりながらも落ち着いている。
「まぁ、確かにね。でもゴールは見えているし、結果次第で新たな展開もあり得る、そうでしょう社長?」
挑む様に才人を見返す秀人。才人は小さく頷き。
「それ相応の結果が出せればな。ボーダーラインは私に決めさせて貰う」
「どうぞどうぞ」
順番を譲る様な仕草をする秀人。
「どこまで上のステージへ行けるか、せいぜい頑張ってみれば良い。駄目そうなら早々に見切りをつけさせて貰う」
「ま、頂点とまではいかないだろうけどね。頑張ってみせるよ」
「期待している」
あの、第四ダンジョン攻略開始直前とは違う空気が二人の間に流れるのを、猛は感じ取っていた。
「ふぅ。そうやって、次のステージへ上がってくんだね。良かったね」
溜息混じりの呟き。秀人達には、少なくとも直近の目標が見えている、と猛は正直羨ましかった。自分はどうであろうか?いつまでも先の見通せぬままバイト生活を続けるしかないのであろうか?しかし。
「いや、何言ってるの、他人事みたいに?」
見れば、秀人は不思議そうに猛を見返してくる。まるで未知の言語で話し掛けられでもしたかの様に。
「え?」
「いや、これから先も、デバッガ続けるんでしょ?」
「いやでも」
「次のプロジェクトから人員は増強して貰うつもりだけどさ、多分プログラマとかデザイン関係とかが主になると思う。猛にはデバッガの他に、プロジェクトの最初から関わるって事で、出来ればシナリオのアイデア出しとか手伝って欲しいんだけど」
「でも…」
チラリ、才人を見る。彼は机に両肘をつき、手を組み合わせ少し考えていたが。
「そうなれば、契約社員なりアルバイトなりで社が正式に雇用する事になるな」
なぜか乗り気である。
「まぁ、そういう事だから、宜しく頼んだよ、猛君」
鷹揚に秀人に肩を叩かれ、自分が認められている事への喜びと同時に、これで良いのだろうか?、と猛は少々の不安を感じたのであった。
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十一月二十二日 (火) 十八時三十分~二十二時三十分
さて、第五のダンジョン攻略の続き、だけど。今回は、余り書く事が無さそう。EPとゴールドを稼ぐだけだから。これまで派手にドーピングや新武器購入を繰り返してきて、これ以上ドーピングは無理、っていうくらいゴールドが不足してて。稼いだEPはとりあえずHPとMPに回す事にする。
第四のダンジョンに潜る。上記の目的の他に、カティアに『アイテムスティール』を使わせて強化パーツ入手を試みる。第五のダンジョンよりは成功率も高い筈。キャラの強化と並行して、武器、防具も強化しないと。
うーん、なかなか出ないなぁ。いちいち『アイテムスティール』してるから戦闘も間延びするし、あんまり良いアイテムも入手出来ない。これって仕様?それとも、ただ単に運が無いだけ?第四のダンジョンには中ボスも居ないし、結局四時間余り掛けて稼いだ千余りのEPは、MP上限値に回した。ダンジョン内で稼いだり、幾つかアイテムを売却したりして溜まったゴールドでHP上限値のドーピングと、あと『連撃』の回数を増やそう。HP上限値を三万九千、『連撃』回数を三にして、今日は終り。
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