五話 三沢 雪江
翌日。僕は教室に入り、自分の席に向かう。
「よっ、政宗!」
「おはよう、野田くん。」
話しかけてきたのは、前の席に座っている野田 宗輝くん。
「宗輝でいいって。しっかし、昨日は羨ましかったなぁ。あの木ノ下先輩に学園を案内してもらえるなんてな。」
「そうなの?」
「あぁ。成績はいつもトップだし、運動神経も抜群。清楚で可憐で、非の打ち所もない。見た目も超美人だしな。こういうのって高嶺の花って言うんだろうな。自分達と違い過ぎてお近付きになろうにもみんな自分から声をかけようにもかけられないんだわ。」
・・・なんだろう。あまりにも見た目とのイメージが合いすぎて逆に疑ってしまいそうだ。
「お、地味子が来たぞ。」
急に宗輝くんが声を小さくする。
「地味子?」
「ほら、アイツ。地味で暗いからみんな地味子って呼んでんだ。」
そう言って宗輝は指をさす。
「あ、あの子…。」
指をさされていたのは僕の隣の席の子だ。見た感じ髪はセミロングなのだが、手入れをしてないのかボサボサだ。よく見る黒フレームのオーバル型のメガネをしており、宗輝くんの言う通り地味な印象がある。
地味子さんはすぐに席に着き、鞄から取り出した本を読み始める。本のタイトルが気になるけど、ブックカバーがついているため見えない。
「おはよう、地味子さん。」
そう口にした瞬間、周りの空気が凍りついた。あれ?みんなどうしたんだろ?宗輝くんに至っては呆れてものも言えない表情になってるし…。もしかして僕、何かやらかしちゃった?
「・・・雪江…。」
「え?」
地味子さんがこちらに顔を向けて何か言っている。表情はすごく不機嫌そうだ。
「三沢…、雪江…。私の名前。」
「あ、そうなんだ!」
そうか。地味子さんってあだ名を呼んだからいけなかったのか。まあそうだよね。知らない人からいきなりあだ名を呼ばれれば不機嫌になってもおかしくないよね。これからも気をつけないと。
三沢さんは用が済んだとばかりに、再び本を読み始める。
「あ、そのほ…」
「ごめん、ちょっと黙ってて。今いい所だから。」
「ご、ごめん…。」
あー。まあそうだよね。読書を邪魔されるってものすごくストレス溜まるもん。本のタイトルを聞くのは後にしておこう。