三話 木ノ下 菜鈴
「それでは、必要な所だけ案内しますね。全てを案内していると何日かかるか分かりませんので。」
「はい。ありがとうございます。」
確かに、187haの敷地全てを案内なんてきついだろう。そもそも僕みたいに瞬間記憶能力がないとほとんど覚えられないだろうし。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は3年G組の木ノ下 菜鈴です。さっきも言いましたが、この学園の生徒会長をやらせてもらっています。」
あ。確かこの学園、一学年A組からJ組まで10クラスあるんだっけ。全校生徒は1212人…、ってやっぱり敷地が広過ぎないか?
「それなら僕も。2年C組の喜佐見 政宗です。」
「よろしく、喜佐見くん。あなたのことは先生方から事情は一通り聞いていますよ。今までやりたくても出来なかったことを、この学園でたくさん出来るといいですね。何か困ったことがあれば、いつでも相談に乗りますよ。」
「はい。ありがとうございます。」
今の感じだと、そういうことなんだろう。まあ、生徒会長だから聞いていてもおかしくないよね。
「そういえば朝から思ってたんですけど、ここの学園ってなんでこんなに広いんですか?」
「そうですね。この学園の校訓は覚えていますか?」
「はい。『何事にも縛られず、自分を自由に表現を』でしたね。」
このくらいのことなら朝飯前だ。
「はい。この校訓は、個性を示したものなんです。校訓の中にある『自由』。これは部活に当てはめているんです。『部活を立ち上げるのに最低5人の部員』という校則がありまして、その部活はどのようなものでもいいのです。流石に、理由が不純なものはいけませんが…。そのため、この学園では約150もの部活が存在しています。それぞれの部活が、出来るだけ不自由なく活動出来るように、とのことで敷地が広いのです。」
「そうだったんですね。」
そうか。こんなに広いのは学園側の生徒達への配慮だったのか。文句を言っていた自分を咎めたい気分だ。
「あ。それと、この学園ってとても広いですよね。なので、自転車で移動出来るんですよ。」
なるほど。だから登校中、自転車に乗っている人が多かったのか。・・・僕、自転車乗ったことないなー…。頑張って歩こう…。
案内をしてもらったが、どの場所もそこまで遠くはなかった。日常的に使う所はある程度固められて設置されているらしい。
「今日は、ありがとうございました。」
「いえいえ、お役に立てたならなによりです。それでは私は、これから生徒会に用があるので失礼しますね。」
木ノ下先輩は踵を返し、足を進める。
「それじゃあ、僕は帰ろうかな。」