OC-9. 八、九、十人……目?
少し遅れました。
と、言う訳で前回の後書き通り、メイドさん&スィリィ嬢&幼女の姦し。
シャトゥの第一声から、誰かがありとあらゆる次の行動に移るより速く――
「動くな」
「ゃ――」
“やべぇ、逃げろ”――そう続くはずだった言葉は、本来の意味で一言すら発せられることなく終わりを告げた。
平坦なくせに思わず聞き惚れてしまいそうになる声の持ち主など、態々振り向く必要もなく分かり切っていた。
動くな、と言われれば答えは決まっている。
「マム、イエス、マム!」
断固徹底抗戦、それのみである!
「言う事聞くから痛いのは止めろ」
「はい、大変素直で結構で御座います」
「……ふー、先ずは一つ言っておこう」
「はい、お聞きいたしましょう?」
「俺を地上につき落としたのはそもそもお前の差し金だ。それをどうこう言われる謂れは俺にはないはずだ」
「左様で御座いますね」
「ああ。それに――」
「おや、一つだけ、との事では御座いませんでしたか?」
「……まあ待て、落ち着こうぜ」
「私は落ち着いておりますが?」
「……それもそうだな」
「はい」
「じゃあ、一つ聞いておきたい事がある」
「何事で御座いましょう?」
「――捕虜の身の安全は保障されているか?」
「唐突に、何のことかは推して知るべしではありますが。ええ、捕虜の安全は保証しております。人道的措置は問題御座いません」
「そ、そう――」
「何処の何方が捕虜であるかないかは、さて置いて」
「……」
「おや、如何なさい――前方にご注意くださいませ」
「は? 前――ッ!?」
息を呑む。
赤い幼女が残像を残しながら迫ってきていた。
「れーむー!! 今こそっ、必堕のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……『すとらいくっ・うぉっしゃああああああああ』!!」
「ッ――」
ニィ……と懐で無邪気な笑みを浮かべる赤い幼女こと、シャトゥ。
まるでその瞬間、時が止まったようですらあった。全てがスローモーションの中で動いていて――その動き全てが見えているにも関わらず避ける事が出来ない。身体が金縛りに会ったかのように動かない。
(*注:実際、時間とかが止まってます)
超低姿勢からの掌底が放たれた。
――それは魂を打ち抜き、精神を揺るがし、存在を焦がす一打にして必堕の、正に神撃。
その一堕、避ける事叶わず……
「“邪魔よ、赤い子”」
【染まれ染まれ、青の世界】
「――うむ?」
ピタリと、顎に触れるか触れないかの所で赤い幼女が停止した。
文字通りの“停止”。地面からジャンプしているにもかかわらず、空中で固まっているのだから正に“停止している”と言えよう。
「レムには私が、話があるのよ」
――悪いですが女神シャトゥルヌーメ、私が先です
颯爽と。むしろ悠然と現れたのは青の女神と呼ぶに相応しい貫禄を醸し出し……むしろ何処の女王様? な感じのスィリィ・エレファンである。
だがその視線は赤い幼女に話しかけていると言うにも関わらず、一点のみを見つめている。
「冰頂の子? 声はすれども姿は見えず? そして女神違います」
「あなたの真後ろよ、赤い子」
「うむ? だけど私は動けない! 冰頂の子が後ろにいるとは限りませんっ」
「居るわよ。ほら……?」
「うむ? 誰かに頭を掴まれました? いえ、止めて下さい、頭掴むのはかつての亡き下僕一号様を思い出してしま、がくがくぶるぶる、御免なさい私が全部悪いの、御免なさい私が全部悪いの、御免なさい私が全部悪いの」
「……、取り敢えず、退いてもらうわよ、赤い子。レムへの一番は譲る気は無いわ。――メイド、貴女にもよ」
「左様で御座いますか? ですが私としても、旦那様と感動の対面とばかりに互いに愛しみの限り抱き合い喜び合いたいのですが」
底冷えするような――それはまさに氷の美貌と呼ぶに相応しい、けれどそれを向けられている彼女の方も負けてはいない。クールビューティ、と言えば聞こえはいいがただの無表情である、そこには一片の感情の揺らぎすらもない。
「私、何処かの残念思念体の所為で色々と溜まってしまっていますので――今回ばかりは譲って下さいませんか?」
「それは私のセリフよ。良いから素直にレムを明け渡しなさい、メイド」
「――はっ!? 違うのっ、レムの貞操を頂くのは私が一番なのです!」
「――ってかテメェら違うよ!? 言ってることと滲み出てる怒気と言うか既に殺気? な感じだよ!? 再会を喜びたいだけと言うのならむしろカモンッ、全身全霊で受け止めてやるぜ! あとシャトゥは黙れ」
「……レム」
「……旦那様」
若干瞳を潤ませて(間違いなく勘違いだが)、前後から捕縛しようと迫ってくる四本の腕に対して逃げる事はしない、と言うよりも出来ない。何故なら、過去の経験談から大人しくしているのが一番軽傷で済むと分かっているから。
ただし、
「レム、げっちゅ!」
例外がなければ、であるが。
空中で固まっていたはずの赤い幼女がその瞬間、動いた。
「喰らえッ、ごー、すたー、――星屑に消えなっ! ……なの」
「は――」
寸前まで迫っていた拳は一部の狂いもなく顎を捕え――その瞬間、
「――って、俺を星にでもする気か、シャトゥ!?」
“すらり”と拳をかわして、コンマ数秒の間に伸びて来ていた腕二本を掴んで止める。
◇◆◇
「お前らも、いい加減にしろ」
「「――ぁ」」
「ま……二人とも、なんだ、……久し振り?」
「そ、そうね。……もう、随分と探したんだからねっ!」
「……――旦那様?」
「そりゃ悪かったな、スィリィ、……っと、何だ、どうした?」
「――? そのメイドがどうかしたの?」
「旦那様、“真剣”で御座いますね?」
「ああ、真剣も真剣。俺は至って真面目だぞ? ちょっくら将来の為に“神狩り”でも始めてる最中だしな。こんな時に真面目にならずにいつ真面目になるって話だぞ」
「神狩り? なに、それ?」
「……では旦那様、この地が異常な程に偏っているのは――旦那様の思惑ですか」
「ま、……俺が半分、“緑”が半分、ってところか?」
「ちょ、ねえちょっと。さっきから訳分からないこと二人で話してっ、私を無視するなっ!」
「スィリィ様を無視した訳では御座いませんでしたが。それは申し訳ございませんでした」
「ま、俺に構って貰えないからってそんなにむくれるなんてっ、愛い奴めっ!」
「違っ、そういう訳じゃ……ちょっとしかないわよっ!」
「旦那様、私も旦那様に構ってもらえなくて寂しいです。少々むくれてみま、」
「お前は止めろ。俺の命に関わる可能性がある」
「ふ、ふんっ、それに愛い奴とか、そんなこと言われても……嬉しいわよ悪いの!?」
「旦那様はスィリィ様にばかり甘やかせて、ずるいと思います」
「いや、そんな事は無いと思うが。――と、スィリィ、別に悪くないから。魔法とか無意識に打つのだけは止めような? 照れるのとか恥ずかしがるのはオッケー、それは見てるだけで和むから良いけど。間違っても魔法は駄目だ。いいな?」
「そ、そんなの分かってるわよッ!!」
「では、今回ばかりは私も思う存分甘えさせ、いえ甘えます」
「お前がそんなこと言うなんて珍し、」
「二人ともずるいのですっ、私、私も私もっ」
「――赤い子?」
「――シャトゥ?」
「もう色々と御免なさいっ!?」
「……あー、まあそっちの幼女は放っておくとして」
「ええ、そうね」
「はい、そうで御座いますね」
「まあなんだ。久しぶりは久しぶりだけど元気そうでなにより」
「レムも……そう言えば珍しく女が傍にいないわね?」
「つまりは世界の危機ですか」
「どう言う意味だ、それは」
「天変地異の前触れなの?」
「――なる程。“緑“が動く訳ですか」
「いや、間違、一部あって入るけど、チゲぇよ。……“静鎮”のヤロゥに取られただけだ」
「“静鎮”?」
「酷く納得いたしました。美形は正義と言う絶対法則の前に屈しましたか、旦那様」
「美形が正義か!? こんちくしょう!!」
「“静鎮”って、何か懐かしい感じがするけど……」
「ああ、スィリィ様、“冰頂”ならば確かにそう感じてもおかしくないでしょうね」
「……駄目だぞ、スィリィ。何でもかんでも美形が一番とか、ないからな? 間違ってもアレに惚れる腫れるのだけは、ダメだ」
「は? 何言ってるのよ。大体私がレム以外好きになる訳、」
「おや、スィリィ様」
「……ふむ?」
「――今、全ての記憶を無くせ、“零砲”ッ!!!!!!」
「って、問答無用かよ!?」
「私は退避しますので、旦那様、あとご健闘のほどを」
「って、テメ、つか何!? この置き土産 !? 動けべへぇ!!??」
スィリィ嬢の恥ずかしがり屋さん♪
・・・うん、やっぱりレムは一度はぶっ飛ばされないと落ち着かない。
『すとらいくっ・うぉっしゃああああああああ』
シャトゥ、108の必堕技の一つ。必ずオチる技、と書いて必堕技。
超神速・超低空で相手の懐に入り込み、ニィと不敵な笑みを浮かべた後 (これ、必須)、掌底を放つと言う、ちょっと恰好をつけたいお年頃な技。打ち抜くのは相手のあごだが脳震盪とか、それは無い。実際には相手の魂を打ち抜き震わせている…らしい。使ってる本人も良く分かっていないのがポイント。
相変わらず肉体的ダメージは皆無。顎を討たれた衝撃と恋の衝撃とを一緒にしてはいけない、注意が必要。けど時々勘違いする輩もいるらしい?