AnotherConbat-2. 蒼の受難
あれ? 何か真面目っぽい事になってるよ? 何でだろう???
“青”こと、クゥワトロビェ(?)、クゥワド・チューエ(?)と、リーゼロッテさんのお話。
・・・・・・登場してきた時っぽく、リーゼロッテが真面目っぽくなっている!?
「さて。では少々遊んで差し上げましょうか、この勘違い野郎」
「遊ぶ、だと? この我と?」
「ええ。神の模造品、神にして神に在らざるモノ、“静鎮”」
「……所詮は人形、ヤツの遊び道具か」
「――さて、それは貴方と私、どれほどの違いがあるのでしょうね?」
「……なに?」
「いえ、コレは言っても詮無き事ですか。自分の立場も理解していない若造には言う価値もない」
「――人形風情が」
「ええ、そう。私は“人形風情”。決められた事を口にするだけの、ただの主の玩具。そんなモノ暴言に惑わされる貴方は一体何さまでしょう、クゥワド・チューエ様?」
「聞くに堪えん。耳障りだ――請われろ」
【蒼海に染まれ――】
天から声が響く。
それは蒼の調べ、蒼の奏で、だが――それだけ。
緑の世界は蒼に染まらず、目の前の妖精は態々嘲りの表情を作って、それを張りつかせる。
「――な、」
「貴方程度の支配力では無理です。コレでも一応――ほぼ完全な形で現存する唯一の『十二使徒』ですから。そんな何の意思も込められていない言霊など【記外】の前では意味をなしはしない」
「なん……だと?」
「するならこの程度――あの方程、と贅沢は言いませんが。せめて人形程度の力は見せてほしいモノですね」
【現存する理外、我が意に従い我が意となせ――PrincipleBreaker】
「――ガッ!?」
クゥワド・チューエが膝を着く、まるで妖精に屈するように。
妖精はただ呟いただけ。世界の外なる真理“とやら”を。特に、世界が何か変わったわけではない。
外なる真理とやらを彼女自身、理解しているわけではない。ただそういうモノがあると、初めから“知っている”に過ぎない。敢えて当てはめるならば――大気と言うモノを知っている魚が唐突に山の頂上に放り出された状態、と言うのが一番しっくりくる言い表し方だろうか。
やはり“今は未だ”この程度か――と、溜息とともに妖精はクゥワド・チューエを見下ろした。
或いは『点睛』なら、『灼眼』なら。あの方を知っている彼女等ならこうはならないのかもしれない……無意識にそう思い、そう思った自分自身にリーゼロッテは苦笑した。
――やはり自分は以前在ったはずのただの人形では無くなっている、と。
自分を殺したあのヒトに毒されているのかもしれないし、あるいはエルフとしてのリーゼロッテ自身の感情が人形であったはずの記外を変えているのかもしれない。どちらにせよ悪い変化ではなかったが――。
……もう少し、この茶番を続ける必要がある。
「しかしこうして這いつくばるクゥワド・チューエ様を見下していると感慨深いモノがありますね。――コレが、あのクゥワトロビェと同一存在なのかと」
「……き、きさ」
「“外の理”を囁かれた程度で膝を吐く脆弱種族、女神の加護に守られていなければ何もできない小人風情。それでよく私を壊すなどと大言を吐けたものです」
「――」
「大言を吐くなら吐くで私を殺したあのヒトの様に、“あんな表情”で『――じゃあ、死ね』とでも囁いて欲しいモノですね。それならば少しはクるものがあるかもしれません」
「……っまでも、」
「はい? 今、何か言いましたか」
「――いつまでも調子に乗るなッッ、この人形風情が!!!!」
【蒼界に屈せ――外の理】
――一瞬。
それだけの行使で緑が破壊され尽くし、蒼の世界に染まり切る。
いつの間にか代わりに膝を着く――など生易しいモノではなく、地面に伏していたのはクゥワド・チューエではなく、妖精の方だった。
「っ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「……ようやくやる気になって、この程度。いえ、これで十分満足な出来?」
「人形風情がっ、我に逆らって……ただで済むと思うな」
見下ろすクゥワド・チューエに、屈する妖精。一瞬のうちに立場は真逆になったが、それでも妖精が平静を崩す事は無かった。
「ただで済むと? 女性にこんな恰好をさせておいて何をなさるおつもりで、この変態紳士?」
「ッ――黙れ」
「ぶふっ!? けほっ、けほっ」
「人形風情にどうこう言われる筋合いは無い。そもそもヤツの手駒と言う時点でお前は目障りだ」
這いつくばったままの妖精を蹴り飛ばし、ようやく少し落ち着いたのか呼吸を整えたクゥワド・チューエは、鋭い蒼眼で妖精の事を睨みつけた。
それでも、表情に嘲りの笑みを作ったままの妖精の態度に変化は微塵もなかったが。
「けほっ……女性の腹部を足蹴になど、良い趣味をしておられる、クゥワド・チューエ様」
「女性? それは何処にいる、人形?」
「……ふふ、それに先程見せた力、一時的なものとは言え、まあ見事でしたよ?」
「ふんっ、――まさか、これもヤツの思惑通りなどとほざく気か?」
「……さて?」
「――吐け」
「ッッ!!」
もう一度蹴り飛ばし、何の抵抗もなく地面を転がっていく妖精。
クゥワド・チューエの表情には微塵の揺らぎも、同様さえもない。ただ“モノ”を見下ろしている冷たい瞳があるだけだった。
「……――神の傲慢、『傲慢でなければ神ではない』、ですか。全く、その通りですね、けほっ」
「傲慢? 傲慢なのはお前の方ではないのか、人形?」
「いえいえ、そんな。私は身の程も十分わきまえていますよ?」
「ふんっ、我に暴言を吐いたどの口が言う」
「ふふ、それにしても事前の情報ではクゥワド・チューエ様は善き人格者、女性を足蹴にする事など決してない、立派なお方と聞き及んでいたのですがね?」
「ああ、女性には優しくするとも。だが、人形――それもヤツのガラクタに 手心を加える程、我は生易しくは無い」
「……随分と余裕がない事で」
「――黙れ」
「ガッッ!!?」
「人形と言え、少しは利口になったらどうだ? 立場の違い程度は理解しているだろう?」
「げほっ、げほっ……けほっ、た、立場の違い?」
「そうだ」
「……ええ、十分に理解していますとも」
「なら――ば!?」
「……何か?」
ソレはクゥワド・チューエの真後ろに立っていた。緑髪緑眼、妖精と名乗った少女はただ悠然と佇んでいた。
僅かに焦り、飛びずさりながら確認するが、地面に転がっていた、先程までは確かに妖精であったはずのソレは正に“人形”だった。ガラクタの、精巧なお人形。
クゥワド・チューエが見詰めるその先で、“人形”は砂の様に崩れて、跡形もなく消え去った。
いつから――否、最初から。
チッ、と舌打ちをして、距離を置いた妖精をクゥワド・チューエは睨みつける。
「まあ、存分に遊ばせてもらいましたので、私はこのくらいで失礼させてもらうとしましょうか」
「――なに?」
「私もコレでも燎原を愛でる、いえ観察――と、違いました、“監視”するのに忙しいのでコレでお暇しますね、クゥワド・チューエ様?」
「我が逃がすと思うのか?」
「逃がすも何も――“初めから”此処にいる私は偽物ですし?」
「……」
「それに――むしろ私に感謝してほしいくらいですけれど、クゥワド・チューエ?」
「感謝? お前の何に感謝しろと――」
「“目を覚まさせてあげた”事をですよ」
「目を、覚まさせる? 何の事だ――?」
「本当、クゥワド・チューエを蚊帳の外に、なんて。あのヒトも優しいと良べきか、甘いと言うべきか……でもしかし――コレは私の気まぐれ? それとも主の思惑通り? ……どちらでも、私は構いませんが」
「何の事を言っている!」
「いえ、どちらにしろ。感謝も必要ありませんか。――では、クゥワド・チューエ様? また遭い見えん事を切に、望まずに居りましょう?」
「――ッ!?」
待て、と言う言葉は不要だった。
なぜなら彼女は初めからそこにはいない。砂の様に形は崩れ去り、クゥワド・チューエが気付くとそこは元の場所、見知らぬ天上があった、見知らぬ少女四人が気絶している一室の仲だった。
まるで性質の悪いモノに化かされた気分だ――そう思いながらもクゥワド・チューエは軽く頭を振って、取り敢えず。
「……で、此処は何処だ?」
一人呟いた。
・・・・・う~む、順調に遅れております。
何か休日の方がダウンしている事が多いかも? なんて最近は思ったり。