AnotherConbat-1. 蒼の受難
ちょっぴりシリアス?
“静鎮”ことクゥワド・チューエのみの起こった事。まあロリコン上等な方の色々と。
「……ん? ここは――」
少年、クゥワド・チューエが目を覚まし最初に見たモノ、それは見知らぬ天上だった。
「あ、目が覚めましたか?」
「えっと、」
「大丈夫ですかっ、あ、私の名前はコッコって言います。以後宜しく!」
「おい、こら、コッコ。何を――ぁっ、その、御気分は如何……ですか?」
ついでに言うと起きた早々無遠慮にこちらを覗きこんできた少女四人も全く見識のない相手いだった。
“美”をつけても十分すぎるだろう四人の少女たちではあったのかもしれないが、少なくとも彼の理想とはほど遠かったので興味は微塵も湧かなかった。と言うかシャトゥルヌーメ以外どうでもいい。
「俺は、確か――」
気絶する前の事を思い出す。
彼、クゥワドの神生においてこれまで挫折と言うモノを彼は味わった事がなかった。
魔法・剣術・戦術・その他色々、しようと思えば何でも出来たし、人望も彼が望む望まないに関わらず勝手に集まってくる。酷い時には見知らぬ相手に崇められる事もある程だった。日々の仕事には事欠かず、女でさえも彼の美貌とカリスマにつられて勝手によってくる。――とはいっても何故か異性に興味を抱く事は出来なかったが。その時は分からなかったが、これは運命の女神に逢うためだったのだと今でははっきりと分かっている。
そんな彼の事を、とあるくすんだ銀髪メイドは『ああ、あの残念美形ですか』と評す。もしくはとあるへたれ曰く『ああ、ロリコン&マザコンな』。――的確である。
兎に角、クゥワドにとって今までに躓いたと言う経験は無く、故にこの身に起きた屈辱は彼にとって耐えがたいものだった。
始まりは――そう、神都と呼ばれる場所で出会った『レム』と名乗った男と出遭った事。
今思い出しても腸が煮え返る。あの男の存在自体に。そして何より、あのやる気のない目に見つめられるだけで止まらなくなる身体の震えと、無限にわき上がってくる憎しみ・恐怖の感情。彼は彼自身が何よりも許せなかった。
それはクゥワドだけではない、“静鎮”としての感情も――だがそれに彼は気付かない。
「……あの、クズ野郎が」
クゥワドにとっては“らしくない”言葉が口から洩れるが、彼がそれを気にする事は無かった。おまけに無意識か、彼の身体からにじみ出た“蒼”が少女達に触れ――それを彼女らは気付いてすらいないのか避ける素振りすら見せなかった――、まるで糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
彼の通常の性格ならそんな彼女らの事を放っては置かなかっただろうが、今はその“通常”ではなかった。
頭の中を締めるのはよりにもよってあのレムと名乗った男の事。何故か想像上でシャトゥルヌーメが実に嬉しそうにあの男の傍に寄り添っていたりするのだから、尚の事忌々しい。
そもそも何故、あのような男の事を考えなければならないのか、その事実もクゥワドの苛立ちを更に煽り立てていた。
今回の事に関しても、そう。
『――目障りだ。これから起きる事しばらく、それまで寝てろ、クゥワトロビェ』
あの男がそう口にした次の瞬間の出来事は、最早暴力・暴虐と呼ぶことすら相応しくなかった。“それ以上”だ。“覚えていない”が、“知って”いる。
あの時の事は――気が付くと見知らぬ天上を見ていた、と言う方が正しい。それ以上の事を思い出そうと――“記憶に施錠がかかる”。
『――■■■■■、■■×●×●●……』
誰かが何かを口にする。だがそれも頭の中にうるさく響く砂嵐の所為で何も聞こえない。
「……くっ」
忌々しかった。
本当に、忌々しい。存在自体、あの男が今のこの瞬間も何処かに存在していると言うこと自体が彼にとっては耐え難い苦痛であるようだった。
――憎い。あの男に対してはそれ以外に当てはめるべき感情が存在しない。
◆◆◆
彼は、意識下に会った殺意を実行に移そうと、
「? ……【記外】か?」
無意識のまま――気付くとそう口にしていた。
「はい。――お初にお目にかかります、クゥワド・チューエ様」
彼女は空間からにじみ出るようにして、その身を現した。それは双方にとって別段驚く事ではない。彼は“知って”いるし、彼女は“そういう”存在なのだから。
けれど彼は彼女に対して奇妙な感覚を覚えていた。
彼女の視線にはこれまで彼が出会ってきた女達の様な、何処か彼に媚びるような感情は一切含まれていない。視線は僅かに敬意を秘めているように感じるが、それより何より。何故、彼女を見ていると微かな嫌悪感を感じるのか、彼にはそれが分からない。
――クゥワドの意識……とは別に、口は勝手に開き会話を進める。
「何の用だ、【記外】。我を嗤いに来たか?」
「いえ、その様な。貴方様を笑うようなことなど、決して致しませんとも」
「――どうだかな。なら我に何用だ。ヤツからの伝言でも受けてきたか?」
「“ヤツ”とはどちらの事を指して仰っているのでしょう、クゥワド・チューエ様?」
「ふんっ、人形にしては見事な仕草だな」
「……――、お褒めいただき、光栄です、クゥワド・チューエ様」
「そもそも誰かなど決まっている」
「? 決まっているのですか?」
「当然だ、」
「――当然? “クゥワド・チューエ”様が仰る当然とはどのような? 第一、“ヤツ”とは何方の事を仰っておられるので?」
「……人形にしては随分と芸が細かくなったものだな、【記外】。ヤツはヤツだ。あの忌々しき――チートクライからの伝言があるのだろう?」
「――さぁて、どうだと思います?」
「御託は良い。言え。ヤツは今度は我に何をさせようとしている?」
「……困りました。それは私も知りません。と言うより、主からの言伝など私は持ち合わせていません、クゥワド・チューエ様?」
「未だとぼけるか、人形風情が」
「……、私としてはクゥワド・チューエ様、貴方に一言ご挨拶を、と思い伺っただけだったのですが、何か要らぬ誤解を与えてしまいましたか?」
「――相変わらず回りくどい事をする。それとも我にはただ踊っていろと、道化ていろとでも言う気か」
「申し訳ありませんが、私には何とも」
「いい加減にしろ。壊されたいか」
「困りました……困りましたね、」
「困ったのならさっさとヤツからの伝言を吐けば済む――!?」
「……小人風情に“壊されたいか”と脅されて。――貴方は一体、何様のつもりですか、“静鎮”クゥワド・チューエ様」
それは彼女を取り前いていたモノが変わる合図だった。
世界が染まる、染まる、染まる。
緑の世界へ。世界の理を掌る――否、世界の理”外”を記す【記外】の世界へ染まり往く。
「私はリーゼロッテ、妖精族のリーゼロッテ。またの名を、使徒【記外】と申します。どうぞ、以後良しなに――?」
その妖精は微笑み、お辞儀する。世界の理の、その外で。
クゥワド・チューエ少年にとって、三度目の屈辱劇の幕開けの合図だった。
なにか色々と遅れました(汗)。あと一回、あと一歩、と言う所でちょっとだけ回り道、と言う事でクゥワドのお話がスkそい入ります?
少し、つづく?