CC. 蒼の奏で
真面目パート・・・・・・真面目ぱーと?
あれ?
「……(じー)」
「痛い」
「……(つん、つん)」
「痛い、痛いよ、アルア」
「……(つん、つん、つん)」
「だ、だから痛いって」
「……(つん、つん、つん、つん)」
「ア、アルア? 分かってる? 俺、怪我人なの。指先で傷口抉る様に突っつかれるととても痛いのですよ?」
「……(こくん)」
「あ、分かってらっしゃる? と言うかアルア、分かってて俺の事つっついてる?」
「……(じー)」
「どうなんですか、答えてほしいんですがっ!」
「……?」
「――くはっ!? ……し、仕方がないな。今日の所はアルアのその仕草に免じて許しておこう」
「……?」
「まあ、でも実際凄く痛いので突くのはもう止めてくれな、アルア?」
「……はい」
と、いつもの如くベッドの中でレムがアルーシアと戯れている時の事だった。
「あ、あのー、レムさん?」
「……ん?」
声に、レムが顔だけを向けると――と言うよりもそれ以外は痛くて動かす気にならなかっただけだが――興味深そうに見つめている四組の目があった。
この街で知り合った少女達……ジェニファ、ミョニルニ、ヤハシュ、そしてコッコである。
理由もなくこの部屋に訪ねてきは談話して帰っていく、と言う事を繰り返している内に仲良くなったようで、四人はそれなりの仲だった。ちなみにその中にレムは含まれておらず、ハブられているのは当然の事である。
その四人の熱のこもった視線は例外なく、ベッドの脇に転がしてある物体Xへと注がれていた。
「この格好良いお方は何処の何方でしょうか?」
物体Xをちらちらを見ながら、ジェニファ。
「……素敵、かも」
ぽぅ、とした表情で、顔を真っ赤にして呆けた様子の、ミョニルニ。
「……」
無言のまま、物体Xへ視線を向けては逸らし、向けては逸らしてを繰り返している、ヤハシュ。
「――やっぱり男は顔?」
口をへの字にしながら物体Xを凝視する、コッコ。
物体X――まあ、ぐるぐる巻きの完全封印した状態のクゥワド・チューエ少年である。蒼い髪で、当然超のつく美形の。レムなんて比べることすらおこがましいレベルの、完全無比の美形である。
――三度言うが、クゥワド・チューエ少年は“絶世”が美形である。
「――そんなにいいのかっ、美形がそんなに良いかッ!! 普通は罪かッ!?」
「「「「……まあ?」」」」
やはり誰一人として視線を向けられもしないレム。最近までは割とちやほやとされていたとか、そんな事実は無い。
「ァ……アルアは違うよな? 美形が良いとか、そもそもこんな野郎の事なんて全然、全く、さっぱり興味ないよな?」
「……(こくん)」
「だ、だよな! 美形が正義とか、滅びろこのカス! って感じだよなっ? あ、当然美人さんの女の子・少女・女性は別な」
「……(じー)」
「アルアは当然、その中でもダントツで可愛いぜっ♪」
「……(ぷるぷる)」
「――え、何、そのリアクションは!? 何で震えてるの!? 何で俺の事をそんな怖いモノ見るような目で見てるの!?」
「……(ぷるぷるぷる)」
「――アルちゃんを虐めるな、このカスッ! 貴様なんて同志じゃない!!」
「そうですっ、例えレム様だろうと燎原を虐めるものは全て敵! 私の敵です!!」
宿屋の窓を割って侵入してきたリーゼロッテに踏み台にされて、天井裏 (がそもそも存在しないが)から飛び下りて来たラライに刀の切っ先を突き付けられた。
「――ゲバッ!? ゴヘッ!?」
改めて言うが、レムは先日キスケとスヘミアにフルボッコにされたばかりのけが人である。
リーゼロッテに踏みつけられて血を吐いて、『やっ、何するんですかレム様、汚いです!』とほざいたラライに刀の峰で殴り飛ばされてベッドから転げ落ちた。
「……(じー)」
「あっ、アルちゃん、そんなのに近づいたらダメッ、バカが移る、そして妊娠するからっ」
「え、妊娠……? なら良いかも――、て、燎原駄目、レム様なんかに騙されないで!?」
「……ぉ、俺が一体何をした」
「「燎原を虐めた!」」
二人揃って床に転がっているレムへと冷たい視線を向けるリーゼロッテとラライ。
「「「「ねえ、この美形は誰!?」」」」
レムを一瞥すらせず、もう気絶しているクゥワド・チューエ少年の事を凝視しているジェニファ、ミョニルニ、ヤハシュ、コッコの四人。
救いの手は何処にもなかった。
「……(じー)」
「あ、アルア? やっぱりお前だけは俺の味か――」
「……(もみ、もみ、もみ)」
「痛、痛っ、痛いッ!?」
「……(もみ、もみ、もみ)」
「アルア!? ちょ、ちょっと待って? 其処はついさっき、最早同志とも呼べないリゼの所為で傷口が開いて、痛、だからお願いだから揉まないで!?」
「……?」
◇◆◇
以下、その光景を扉の向こう側で見た二人の会話である。
「あー、レム兄様、楽しそうだね」
「……そうか?」
「うん、とっても楽しそう」
「……俺には傷口に塩塗りこまれてるようにしか見えねえぞ?」
「ね、ねえ、キスケ兄? 私も特攻してきちゃっても良いかな? かな?」
「……後生だ、止めておいてやれ」
「えー」
「……――まさか俺があのヤロウに憐れみを持つレベルだとはな。まあ、ヤツもそれになりに苦労していきてるって事……か?」
「もう我慢の限界っ、――点睛の魔女スヘミア、特攻しちゃいますっ♪」
「――……俺には関係ないコトだな」
◇◆◇
「――レム兄様ー、私とも遊んでー♪♪♪」
「ぇ、や、スヘミ、待――ぐべ!?」
扉を突き破って侵入してきたスヘミアは勢いのままレムのマウントポジションへダイブして。
結果、レムはヒキガエルの様に潰れて、声を漏らした。
「あっ、そうですよ。こんな粗末な所で寝かせてるなんて、この美形に失礼ですよねっ、そうと決まれば私の部屋に案内して、」
「ちょ、ジェニファ、抜け駆けは卑怯じゃないかなっ?」
「――そうだぞ、ジェニファ……と言いつつルニ、お前は何をしている?」
「そういうヤハシュこそ、なにワザとらしく美形の傍に陣取ってるの?」
「コッコの言う通りですよ、ヤハシュ。さりげなくなんて騎士にあるまじき行為です」
「そうだ、そうだ!」
「いや、私は別に騎士とかじゃないわよ?」
「似たようなモノじゃない、ヤハシュ。宮仕え、そんなに変わらないわ」
と、四人はもはやレムの事には興味がないようで絶賛気絶中 (と、貞操の危機?)のクゥワド・チューエ少年に掛かりきりである。
「……ん? 誰かと思えば灼眼、意外と気があいますね?」
「……そういう貴女、記外、ですか? の方こそ前情報とは違って話の分かる女性じゃないですか」
「――リーゼロッテと言います。種族は見ての通り妖精族、エルフをしています」
「私はラライです。種族は小人族です、リーゼロッテ」
「ラライ――……私達、友達になれそうですかね?」
「何を言うんですか、リーゼロッテ。私たちはもう友達、いえ、同志です!」
「同志……良い言葉です。――かつての元同志レムの言葉に比べて、同志ラライの言葉の何と甘美なことか」
「ふふんっ、レム様と比べられては困りますっ」
「それはそうですね。失礼しました、同志ラライ」
「いえ、分かってくれればいいんです、同志リーゼロッテ」
「ふふ」
「ふふふ」
「「ふふふふっ」」
此方は此方で――リーゼロッテとラライの二人、変な友情(?)が生まれている様子だった。
レム、止めの一撃をスヘミアに貰って気絶中である。
な・ぜ・こ・う・なっ・た!?
不思議な事もあるものです。と言うよりもこれこそいつものレム・ザ・クォリティ?