OC-8. 蒼の調べ
“ど”のつくシリアス。
「趣味じゃない」
誰そ彼、黄昏よりも昏き刻。
世界の全てが青く、碧く、蒼く、――ただ“あお”に染まる。
蒼の世界にその男はあった。誰よりも曖昧に、同時に誰よりも確固とした存在としてそこに佇んでいた。
それ自体が矛盾を孕む。矛盾を孕むことこそが真であり、矛盾を含まないことこそが在り得ない矛盾。
――つまり、何と言おう。
彼はそこに“居た”。
「――ああ、趣味じゃない」
だからこそ“彼”はぼやく。そしてぼやきを上げるその口を閉じる事をしない。
「女の子相手に『はい、こんにちは』なら兎も角、百歩譲って男の子に『すくすく育てよ、童子』も良いとしよう。だけど無い。これは――無いな」
だから、そんな“彼”の存在に気がつかないはずがなかった。――そもそもの話、こんな妙な世界に“取り込まれ”て気がつかないわけがない。
「……貴様、」
最大限の無礼と、最高の侮蔑を込めて彼――クゥワド・チューエ少年はゆっくりと歩いてくる“彼”の姿を睨みつけた。
「お前相手に『よう、久しぶり』? それは無い」
「ふんっ、奇しくも同意見だな」
「なら、『相も変わらず気に入らない、死ね』? あぁ、それも無い」
「そうか、だが俺は――」
「……第一、俺はクゥワド・チューエに対してそれほどの興味を抱いていない」
「貴様は、此処で殺しておく」
蒼の瞳がしっかりと“彼”を睨みつける。
ブラウンの瞳はただクゥワド・チューエ少年を映すのみ。“そこ”にいるから映っているだけで、それ以外は何でもない。故に無価値と無意味、無関心がそこにはあった。
「――否、そうしておくべきだ」
少年の囁きではない。その言葉は正に天から堕ちてきた。
【蒼天に堕ちろ――ディアボリク・ウィプス】
――瞬間、世界の全てが悪意に染まった。
始まりは終わりから、終わりは全ての始まりへと繋がり、悪は善に裏返り善は悪へと入れ替わる、自称の全ては停止、破壊と崩壊、再生は無い、ただただ死に絶えていくのみ、それが絶対の法であり是正すべき世界の在り方。誠意と理性は繭に溶け、悪意を孕んだゆりかごが優しくあやされる。全ては皆、有る様に、全ては皆、無き様に。価値などない、意味などない。何一つとしてカタチは姿を見せず、壊れ、壊れて、壊れていた。
睨むは蒼の瞳――常人ならばそれは一睨みだけで気が狂う。
囁くは蒼の破滅――拒絶できない悪意の囁き、≪ディアボリク・ウィプス≫は死出の底へと聞くモノを優しくつき落とす。
「貴様はここで死ね」
「……ハッ」
それは何処かで見た光景。だが、未だ足りない。全く以て足りていない。
だから嗤う。“彼”は嗤う、笑う、わらう。そして――この光景を断言する。
「――ぬるい。三等以下、下種にもならず、憐れむ意味もない」
真紅の瞳が蒼と悪意に染まった世界の中、鈍く光を放つように輝いた。
「神に惹かれ――故にその身、神ではなく。神に憧れ――神になれず。神を欲して――神を知らず。『静鎮』に踊らされる惨めな生贄」
「っ、」
【蒼穹の奏で――】
二度目、空から声が堕ちてくる。
それは唄声、それは泣き声、それは呪歌の声。それは祝福、それは批判と侮蔑、それは誹謗と賛辞、中傷と謝辞。全ての意味を内包し、それゆえに、だからそれは意味ではなく。
「だからって邪魔をされたり、俺のモノに手を出すなんざ。お前に通じる言葉で言えば――目障りだ。これから起きる事しばらく、それまで寝てろ、クゥワトロビェ」
「レぇ――ッ!!」
……何かレムがやっちゃってるなぁ。
そしてここで起こった事に関しては永遠の秘密なり。
続くったら続く……?




