AC. ヤハシュ-2
追加補足。コッコさんの男の選定基準について。
「……ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、いい？」
私は――前々から気になっていた事を聞く決意をした。
「うん？ 何、ヤハシュ？」
「…………あのヒトの何処がいい訳？」
「あのヒト？」
「えっと――確か“レム”って名乗ってた男のヒトのこと」
「なななななにを言ってるのかな、ヤハシュッ！？」
「何って、コッコ、あのヒトの事が好きなんでしょ？」
「……え、ナンノコト？」
「別にとぼけなくても良いじゃない」
「……――どうして分かったの？」
上目遣い、頬を紅潮させながら聞いてくるコッコ。……ここまで分かりやすいと流石になぁ。
これはもう、私が言うべき言葉は一つしかないだろう。
「態度」
「そ、そんなに出てた？」
「まあ、私が分かるレベルで、ね」
「……そうなんだ」
「それで、あんな冴えない感じの男のヒトの何処がいい訳？ 正直私には理解できないんだけど？」
「う～ん、ヤハシュには分からないかな？」
「何が？」
「冴えない感じが良いんじゃない」
「……は？」
冴えない感じが、良い？
どう言う意味？
「冴えない感じ、押しの弱そうな所、頼めば無条件で私の言う事聞いてくれそうな所、へたれの中のへたれ、正にキング・オブ・へたれっぽい雰囲気、そこが良いんじゃない！」
「……えと、ゴメン。コッコ、それどういう意味？」
「やっぱり男を選ぶ基準は女の言いなりになるかならないかだと思うのよ。そういう意味で、私あのヒトを一目見た瞬間にビビってきたわ。コレが一目惚れなんだって、そう思ったの」
「……」
微妙に、それは違う気が。
「で、数日の観察と実際に話してみて分かったわ。あのヒトは絶対に良いドレ――夫になるに違いないわ！」
「……今、奴隷とか」
「些細な違いじゃない？」
「違いじゃないと思うけど」
「些細な違いよね？」
「……まあ、コッコがそれで良いなら私は構わないんだけど」
「それでね、ヤハシュ、ちょっと相談があるんだけど、良いかな？」
「……私で役に立つなら、別に」
「そっか。ありがとうね♪」
「いや……それでどんな相談？」
大体想像が――と言うよりもそこはかとなく嫌な気がしているのだが。
「うん、あのヒト――レムさんの事なんだけど」
「――頼むから他のヒトを当たって、」
「流石私が見込んだだけあって、ライバルが多そうなのよ」
「……私の話、聞いてないのね」
こう言う所は本当にあのハゲ譲りだと思う。
「ジェニファでしょ、ミョニルニに――他にも少なく見積もっても数人居るって私は見てるわ。今日なんて町の外から女のヒトが追ってきたみたいだったし！」
「外から、追って……？」
「そう。流石、綺麗所は……と言うよりやっぱりジェニファもミョニルニも見る目があるよね。流石出来る女は違う」
「……それは遠まわしにコッコも出来る女だって言ってるわけ？」
「そかな？」
「いや、まあコッコはそこらの女よりも良い女だと私は思うけど、」
少なくともあのハゲから生まれたとは到底思えない程には出来のいい子だと思っている。いや、うん、割と本気で。
「まあね！」
「……そういう所は少し自信過剰過ぎると思うけど」
「で、ね。ヤハシュ。他の女を出し抜くにはどうしたらいいと思う？」
「……それを私に聞く？」
「いや、ヤハシュなら男のヒトの気持ちが分かるかなって」
「――それはどう言う意味だ」
「ヤハシュは男らしくて恰好良いじゃない？ 冷静さを欠くと女ことばが崩れたり、そういう所がまた女の子にモテたり、ね？」
「知らない。大体私に男のヒトの気持ちなんて分かるわけないじゃない。……本気で言ってるつもりなら怒るぞ？」
「……はぁぁ、やっぱり駄目かぁ。ヤハシュならもしかして、って思ったんだけどなぁ」
「コッコ、ここは怒っていい所？ 良い所よね？」
「うん？ でもヤハシュが恰好良くて女の子にモテるのは本当の事じゃない。何せ去年の――」
「言うな」
去年の求婚の儀とか、その時期の事は思い出したくもない。いや、本当に何を考えているのだろうな、あの私に告白してきた子たちは？
「まー、仕方ないか。ヤハシュだもんね。恋する気持ちとか、そんなの分からないかー」
「そんな事は……私だって恋の一つや二つ、好きな男の一人くらい――」
「え、ホント！？」
「……まあ」
いる、よね、好きな男くらい……？
「誰誰！？ 誰が好きなの？ 武器屋のミッシュ？ それとも東通の服屋のルイーザ？」
「あ、いや、その……」
「ねえ、誰、誰なの！？」
「……」
好きなヒト――誰だろう？
いや、居ないなんて事は絶対にない、無いはず――。
と、不意に脳裏に一人の男の姿が思い浮かび、
「――在り得ない」
「え？」
「いや、それだけはありえない」
「え、誰？ 見栄とかじゃなくて本当に、遂にヤハシュにも春が！？」
「いや……いない」
だって、好きなヒト――と言われて最初に思い浮かんだのがよりにもよってあの性犯罪者の男、コッコと同じヒトだなんて。
いや、コレは偶々、最近で一番印象深いヒトが偶然思い浮かんでしまったからに違いない。ううん、絶対そうだ、そうに決まっている。
「ねえ、誰？ 誰なの、ヤハシュ。私の知ってるヒト？ それとも知らないヒトかしら？」
「だから、そんなヒトはいない」
「まさか……レムさん、なんてないわよね？」
一瞬ドキッ……とはしなかった。そしてその言葉は私自身も驚くほどにスムーズに口に出ていた。
「ないな」
口に出して、それから再度思う。ああ、やっぱり何かの間違い、勘違いだったんだ。
そう、よりにもよってあんな変態男の事を好きになるようなモノ好きなど――……まあ目の前に一人いたけど。
「そっか。良かった。まあ、私はヤハシュがライバルになったとしても、手加減はしないけどね？」
「……勝手に言っててくれ」
もう何か、どっと疲れた。
何と言うか、今度あの男を見かけたら問答無用で殴り飛ばしてやろう的な感じの疲れだ。
――コノ怨ミ、晴ラサデ置クベキカ
え、レムが普通にモテるとか、無いじゃないっすか！
