OC-3. 三人目
……なんだろ? 非常に眠くて疲れてるのはどうしてかな?
取り敢えず、眠いぞー
随分と久しぶりの街。
早速宿屋でも探して、先ずは一休みでもしようかな――そう思った刹那だった。
誰かに呼ばれたような、そんな不思議な感覚が私の足を止める。
誰……?
振り向いた先、小さな女の子を一人その腕に抱いて――俗に言うお姫様だっこと言うモノだったけれど――男のヒトが“空から”ふわりと降りてきた。
「よっ、……と」
「――?」
「ちょっとお嬢さん、」
「……拉致監禁」
「そう、拉致監禁させて頂けませんか?」
ふんわりと、不思議と警戒心を抱かせない笑顔で、――そんな事を口走った。
「……、ぇ゛? いえ、お断りします」
「――って、違うよッ!? 違うっ、ああ、今のはちょっとした間違い、言い違いっ。ちょい今のは……テイクツー、お願いしますっ」
「嫌です」
自然と、言葉が口から出てきた。
何となく緊張感を抱き難いのだけれど、ああ、コレは関わっちゃいけない人種なんだなって、少し遅れて思う。
「そ、そんな事言わずにっ、頼むよっ!? な、俺を助けると思ってっ!!」
「……」
「この通りっ、この通りだっ!!」
正直な話、道の真ん中で土下座をするのは止めてほしいと思う。
あと、変な男のヒトが抱っこしていた赤い髪の女の子――男のヒトの方をぽんぽん叩いているのは、もしかして慰めてる?
何となく、その光景が面白愉快なものに感じられて――気が付くと口を開いていた。
「――絶対、嫌」
うん、だからこう言うのは関わっちゃいけない人種なんだろう。
「何故だっ!?」
「何故って……身の危険を感じるから?」
「そそ、そんなことないよ? 俺何もしないよ? 全然危険じゃないよ?」
「……」
「ほ、ほらっ、ちょっと話すだけ、ちょっぴりとだけ、幼児があるだけだから。な? そんなに時間はとらせないからさ、ねね??」
「……」
何だろう?
この男のヒトが口を開くたび、むしろ開けば開く程……うん、やっぱり関わっちゃいけない人種なんだと再確認出来た。
「――それ以上寄らないで。寄ると……怪我するよ」
「ふっ、俺を甘く見るなよっ!? 怪我する程度で俺が諦めるとでも思ったかっ!!」
「……」
何だろ、周りのヒト達から呟き声が聞こえるけど……
『またあの男?』『ジェニファちゃんが最近?』『パン屋のルニちゃんも被害に?』『今すぐ衛兵に突き出し……?』
取り敢えず、ろくな内容がないのは確かだった。
危ないヒト決定。やはりこう言うの相手には関わらないに限る。
「じゃ、ご免なさい。私、先急いでるから」
逃げるが勝ちだと、
「おや、奇遇だね。俺もこっちに行くつもりなんだ」
「……あ、そう」
気が付くと真横に並んで歩かれていた。
この男のヒト……もしかして実は凄い?
私もそれなりに傭兵稼業が長い訳で、腕もそこそこって自負はあるけれど余りに自然に隣に並ばれた所為で気づくのに遅れた。
――この変人、出来る!?
「ところで君は旅のヒト? 冒険者か何か?」
「……」
「あ、俺もそうなんだ。俺はしがない旅人さ。君の様な可愛い女の子を探し求める根無し草の、ラブハンター・レムとは俺のことだっ!!」
「……は、はぁ」
ラブハンター? 何、それ?
と言うより、やっぱり初めに想った通り、腕はそれなりに出来るかもしれないけど、限りなく関わり合いにならない方が良い人種のお方だった。
こう、一秒一秒付きまとわれていくうちにその思いはもう、確信に変わっている。
「で、キミは何処から来たの? あ、俺は北の方からね?」
誰も聞いてないのに。
「まあ、剣持ってるって事は剣士か何かなんだろうけど、ちなみにギルドのランクは? ちなみに俺はFね」
だから誰も聞いてない……それにギルドランクにFなんてモノは存在して無いし。
最低ランクはEで……何、コレ。もしかしてからかわれてたりする?
「この街にはどう言う理由で? 特に特産品とかない、そりゃそれなりにさびれた町だと思うけど?」
……周りのヒトからの視線が痛い。と言うより、いい加減黙ってくれないだろうか?
私に無視されてるって、気がついてない?
いや、流石にそれは無い――
「あ、」
宿屋、発け……
「お、キミもここに泊まる? ちなみに俺も止まってるんだけど――」
――残念だ。折角今日の宿を見つけたと思ったのに。
宿まで一緒でこんな男に付きまとわれてたら、正直気が休まらなさすぎる。
別の宿屋を探そう。
「まあ、一緒も何もこの街に宿屋ってこの一軒しかないんだけどなー」
「……、」
いや待って? 今、なんと?
「……」
「ん? どうかした? いや、そんなにじっと見られると照れるなー」
駄目だ、こいつ。
それより今、確かにこの街に宿屋はここ一軒しかないって聞こえたけど……まさか、そんな事は。
「しかしどうしてかねー? 特に何かある時期でもないのに、他の宿屋が全部満室なんてさ。もしかしてこれって――俺と君が同じ宿に泊れって言う天の啓示、とか?」
「……」
――うん、取り敢えず、だ。
「ん?」
ここまで我慢したんだから、そろそろこの迷惑でしかない男を殴り倒したって罰は当たらないだろうね、うん。
「さっきから――」
「うん?」
「さっきから、鬱陶しいんです――よッッ!!!!」
腰の剣で馬鹿を殴打――剣をさ輩抜かないのは相手への最後の憐れみ……ではなく、正直剣を鞘から抜くのも面倒だったからなだけである。
少なくとも、遠慮も手加減も一切ない私の渾身の一駅を、鬱憤と旅の疲れを込めて、この男に八つ当たり――
「よっ、と」
「――ぇ?」
「急になんだ。当ったら危ないじゃないか」
「っとと」
全力で振り回した所為で身体が少し泳ぐ……じゃ、なくて。
今の一撃を、かわされた? それも随分あっさりと?
やっぱりこの男、中々のてだれ――!?
「なんだよぅ、そっちがその気だって言うのなら、こっちにも考えがあるぞ?」
「――っ!」
咄嗟に構えを取って、相手の男のどんな些細な動きも見落とさないよう、睨みつけ――
「――」
「俺はさ、ちょっと君に聞きたい事があるんだけどなー、って言うのを一言言いたかっただけ……ではないな」
「――」
「具体的に言うとこれから俺と楽しくお茶しませんかっ!?」
「――」
「……まあ、こんな状況で誘うのもアレか」
「――」
睨みつけようとしたが、それは出来なかった。
気がついたとき、私の視界いっぱいに広がっていたのは、手。誰かの――いや、誰かなんて目の前の男のヒトに決まっている――手が私の顔を掴んでいた。
痛くはない。全然、触られている、という感覚ですらもしかしたら殆んどないかもしれない。それほどまでに、“優しい”掴み方。
私の胸の音だけは、ドッドッドッ、と凄い速さで鳴ってはいたが。
「と言う訳で早速副題の方に入らせてもらうけど、つっても、まあ一つ聞きたいだけなんだけどさー」
「……」
「君、最近、ステイルサイトに会った?」
「ステイ、ル……?」
「赤い髪に赤い瞳の男」
「……」
首を横に振る。そんな男に会った覚えは、無――
不意に、気が遠のいた。
◆◆◆
『――招待状は受け取った。気が向けばそちらに向かってやろう』
それは、先程までの少女の声ではなかった。男の声。それも、耳に残る程に嫌な感じしかしない、最悪の。
「……そうかよ」
鷲掴みしていた少女の顔から手を離し、ただいまの一言だけの“伝言役”であった少女に、それだけでは余りに可哀想かと思いなおし――
「……(じー)」
「ん? どうかしたか、アルア?」
「……拉致監禁をするの?」
「だからしないよっ!?」
ねみぃぞー!!