ど-587. 楽しみ……?
アルーシア、実は三重人格もどき……?
「よし、それじゃあ腹も膨れた所で!」
「……(こくん)」
「――逃げるか」
「……?」
「いや、まあ俺にも色々としがらみがあってだな。逃げないと捕まるんだよ、アントリエールに」
「……?」
「さっきまであんなに仲良さそうだったのにと? ふっ、アルア、女の子ってのは怖い生き物なんだぞ? ……って、アルアも女の子か」
「……(こくん)」
「まあ、アルアももう少し大きくなればその内分かる様になるさ。……いや、アルアにはこのままずっと、分からないままでいてほしいなーとか俺的には思うけどさ」
「……(こくん)」
「流石はアルアっ、このまま変わらないアルアでいてくれな!」
「……(こくん)」
「と、いうわけだからこれからアルアと二人で愛の逃避行さっ!」
「……(ふるふる)」
「え、そこで否定!?」
「……(ふるふる)」
「否定じゃない?」
「……(ふるふる)」
「ど、どっちなんだよ、アルア!? 焦らしか、焦らしなのかっ!? アルア、俺を焦らして楽しんでるのかっ!!」
「……(ふるふる)」
「……くっ、何が不満なんだ、アルアは俺の何がっ、」
「……(じー)」
「あ、アルア?」
「……うん」
「……ごくり」
「……かお?」
「な――!!!???」
「……」
「え、あ、……え?」
「……――よっし、してやったりです」
「ア、アルアが……まさかアルアがそんな事を言うなんて。くっ、コレは悪い夢か、それとも誰かの陰謀かっ!」
「……(こくこく)」
「そ、そうなんだな? やっぱり誰かの陰謀で――今のはアルアが言った訳じゃなくて誰かに言わされたとか、そういう訳なんだよなっ!」
「……リョ、」
「りょ?」
「……、なんでもないです」
「え、でもアルア、今何か言いかけなかったか?」
「なんでもない、です!」
「あ。ああ。分かったよ、……? あ、アルアがいつになく強気に? え、俺、今アルアを怒らせるような事、何かしたっけか?」
「……ふぅー、危ない危ない」
「ん?」
「……?」
「……じー」
「……」
「……はて? 何か微妙に違和感がある気がするんだが、」
「……レムのスケベ」
「……、……へぅ?」
「レムのスケベ、えっち、ヘンタイ、……使徒誑し」
「――」
「……(じー)」
「――」
「……(じー)」
「――誰だ、何処に居やがる、この悪夢をしかけた極悪人はっ!!!!」
「……!(びくっ)」
「アルアが……俺のアルアがこんな事を言うはずないっ、断じて、ない! あってたまるかっ!!」
「……(びくびく)」
「出てこい極悪人っ!! 今すぐ俺が世界の塵に還してやらぁ!!」
「……」
「ふー、ふー、ふー……」
「……」
「……くっ、相手は中々のてだれかっ、俺の弱点を熟知してやがるッ」
「……(じー)」
「だ、だが! その程度で諦める俺ではない! 気に入らないならソレをなおすまでっ、それが不可能ならばそれ以上の魅力で惚れさせるまでだっ!」
「……(じー)」
「……って言っても、……顔が気に入らないとか、俺にどうしろと?」
「……(じー)」
「うーむ? ……ふっ、考えても仕方がない。ここはもうそんな事は些細ってくらいに惚れ惚れとする姿を魅せ付けてアルアを今以上に俺に下手惚れにさせるしかないないだろ、うん!」
「……?」
「と、言う訳だからアルア! 今からアルアに俺の恰好良い姿を見せてやるぜ」
「……(こくこく)」
「――と、勢い良く言ったは良いけど。具体的にはどうすればいいんだ?」
「……(じー)」
「はっ、アルアから期待のこもった熱い眼差しを感じる!? ここでやらねば男じゃない!」
「……(じー)」
「そうだな。やっぱりここは都合よく起きてる大きな事件を解決、とかが一番分かりやすくて良いんじゃないか? なあ、アルア」
「……(じー)」
「……ま、そんな都合よく事件とか起きてりゃ世話ないけどな」
「……(じー)」
「はぁぁ、しかしそうなると……どうすりゃいいんだ? 恰好良い所みせるってさ、だから具体的にはどうすれば恰好良いかって話、」
「……(じー)」
「こうなりゃ世界のどこかで悪さしてるドラゴンの一匹でも軽く始末してくるかー……いやいや、そんなの無理だし」
「……(じー)」
「ならどうするか。うむむ……さっきからアルアの期待のこもった視線が凄く痛い。な、なんとかせねば」
「……(じー)」
「……」
「……(じー)」
「――だっ、駄目だ。何も思いつかねぇ!! つか、下手に派手な事したりすると厄介な輩に発見されるしっ!?」
「……(じー)」
「こ、こうなればもうアレだ」
「……?」
「アルーシアッ」
「……(こくん)」
「――あの夕陽に向かって、走るんだ! さあ、この手を取って、俺と二人で!!」
「……(ぷいっ)」
「ア、アルアァァァァァァ!!!???」
「……、もう、アルアもリョーンさんも、あんまりレムを虐めちゃ駄目だよ?」
翻弄されるのは常にレム君のみ。
【本日のメイドさん】
「本日も良いお天気ですね……おや、また珍しい所から一報が。……見知らぬ男が館に転送されて? サカラ様、それは恐らく旦那様の仕業でしょう、心配いりません。男性――……そうですね、恐らく旦那様の事ですから、あの甘ったれ五人のしごきに使う、と言ったところですかね? まあその実力が彼に備わっていればですが。……ええ、細かいところはサカラ様に任せます。分からない所はリヒッシュ様にご相談を……ええ、お願い致します。旦那様は―――そうですね、もうじき旦那様を引きずり引っ張って、戻ります」
「ね、ねえあのメイド、何独り言言ってるわけ?」
「うむ? 母様は今ごえーぶちょーとお話し中ですよ、冰頂の子」
「あ、念話?」
「いいえ。母様は普通に耳で聞いてるだけですよ?」
「ふ、普通に……?」
「うむ。母様は耳がよいのです!」
「……それって耳が良いですむ話なのかしら?」
「――ああ、それともう一つ。今度戻る時に、そちらに楽しい“お仲間”がお一方ついてくる、いえ連れて帰る予定ですので、歓迎の準備を宜しくお願い致しますね?」
・・・スィリィ嬢の整え準備。