Act XX いん、ラントリッタ-秘密の部屋
……何と言うか、姫様を狙った暗殺者クンの末路?
――任務失敗。そう悟った瞬間、彼の脳裏に思い浮かんだのは“死”と言う一文字だけだった。
一度でも仕事を失敗した暗殺者など、信用は地に落ちて仲間からは狙われて――訪れるものなど死以外にはありえない。
達観してその事実を受け入れる――、だがそうするには彼は未だ若すぎたし、未練も多すぎた。
それに直前の記憶は彼にとっては受け受け入れがた過ぎた。
「……」
かと言ってどうする事も出来ず。
「判決を言い渡すっ、死刑!」
「……(じー)」
「え、いや、アルア?」
「……(じー)」
「な、何だその目は? ――はっ、まさか俺に熱愛宣言!?」
「……(ふるふる)」
「ちぇー、なんでぃ」
「……(じー)」
「? あ、もしかしてこの暗殺者君に対する判決が不満とか?」
「……(こくん)」
「成程。流石はアルア、優しいなぁ。こんな、アルアを痛めつけた酷い奴を許そうとするなんて」
「……(じー)」
「ふっ、まあアルアがそう言うならそうしよう。――ハッ、良かったな、この下郎め!!」
「……(じー)」
「や、止めて!? アルア、そんな目で俺を見ないで!?」
「……(じー)」
「い、今のは軽い冗談だよ、アルア。ほ、ほら、俺は別にこの暗殺者クンに酷いことしようとか、もう思ってないからさ、な?」
「……(じー)」
「……」
「……(こくん)」
「ほっ。……チッ、このゲスめ、お前の所為でアルアに怒られたじゃねえか」
「……(じー)」
「あ、いや、何でもないよ? うん、本当に何でもないからね?」
「……」
目の前で起きている漫才を眺めている事しか出来なかった。
と言うより、この茶番は一体何だと言うのが彼の感じた正直なところだった。
◇◆◇
今回の仕事、今までそれなりの事をしてきた彼にとっては例え今回の仕事が一国の王女の誘拐、不可能ならば暗殺だったとしても無茶ではあっても無理ではないはずだった。
だが思い起こせば今回の仕事は最初から躓いていた。
城の中に侵入出来たまではよかったのだが、それもあっさり過ぎた。しかもタイミング良くその後に何者かの侵入者が発見など、その報を受けた時は自分の事ではないかと大きく胸が高鳴ってしまった。
まあその直後にそれが自分の事でないと言うのが分かったので安心したのだから。
しかもその後、好機と見て標的を狙った瞬間に訳のわからない(今目の前にいる)男に邪魔をされるは、その後は訳のわからない赤髪の子供(今目の前にいる)に邪魔されて無様にも気を失ってしまうわ、散々だった。
そして目を覚ました今、何処か知れない場所――恐らくは地下の、拷問室か何か、に彼は捕えられていた。
逃れようにも、彼が今まで見た事もない様な複雑な術式に縛られていて脱出は困難……と言うより彼の見立てでは実質不可能と言ってよかった。
「さて、それじゃあ暗殺者クン、早速だが色々と聞きたい事がある。応えてもらおうか」
「……」
「とは言っても。まあ素直に話してくれるようじゃ、暗殺者として二流以下だけどな」
「……」
「ま、だからと言って吐かせるだけなら手段なんて色々とあるんだけどな?」
「――ッ」
その瞬間、今まで感じた事のない寒気を彼は感じて身を震わせた。
――もっとも?
「……(じー)」
「や、やややや、ヤダなぁ、アルア。え、大丈夫だって。俺酷いことしないよ? ホントだよ?」
「……(じー)」
「ア、アルア。ほら、俺の目を見るんだ。このまっすぐな目をっ!」
「……(じー)」
「どうだ、この目が嘘を言っているように見えるか?」
「……(じー)」
「……」
「……(じー)」
「ゃ、そんな熱い視線で見つめられると照れるなぁ」
「……(ぷいっ)」
「ああ、アルアっ、悪かったっ。悪かったから機嫌悪くしないで!?」
「……(こくん)」
などと言う漫才を見せられては緊張感も何も遭ったものではなかった。
「と、言う訳で優しく聞く事にしたので――俺の質問に素直に答えろ、暗殺者」
「……」
「俺が聞きたい事は一つ」
「……」
「――テメッ、アルアを傷つけて生きてられると思ってんのか、ああんっ!?」
「……は?」
「あ、何が『は?』だ? お前、自分が何したのか分かってんのかって聞いてるんだよ!」
「……」
「だから――あいてっ?」
「……(じー)」
「……と言うのは軽い冗談だ。まあ、お前がアンを狙ってるってのは分かってるし。誰が依頼人とかその辺りの興味は俺にはないんだけどな?」
「……」
「だからと言って無罪放免ってわけにもいかないし。でもお前を素直に国側に引き渡すとお前の方がただじゃ済まないだろうし……それじゃあアルアが悲しむからなー。――お前、アルアの優しさに本当に心の底から土下座して感謝しろよ?」
「……」
「そうだな、だから罰は……、お、良いこと思いついた」
何を、と彼が思う間もなく。
「バカ五人組の良い特訓相手にでもなってもらうとするかー。俗に言う生贄ってやつだな、うん」
「……なに?」
「ん? 何、ちょいと家に『女の子相手にマジになれるか』とか言うふざけた男の子達が五人ほどいてな。お前もまあ、それなりに腕が立つっぽいし、ヤツらを性根から叩き直してもらえると俺としてはラッキーかなー、って思ってな」
「……」
「じゃ、そういう訳だから――サラバだ、暗殺者クン、もとい生贄クン」
「……!?」
決して見逃した訳ではなかったはずだった。
だと言うのに、気が付くと彼の足もとには転移方陣が描かれていて。彼は光と共にその場から消えていた。
――そんな感じに、彼は一転の岐路を辿ることになる。
……何やってんだ、こいつら。