さげわ
……『騒げ』を打ち間違えただけです。
そして意味もなく暴走、暴走暴走。
「……――騒ぐか」
「旦那様、ごー」
「ふっ、誰も俺を止められない、つまりは俺、独走状態、ひゃっほ~い!!」
「そう言う旦那様を眺めておりますと思わず足を差し出さずにはいられないこの心境を如何致しましょうか」
「止めてっ!? こけるからっ、この速度で転んだら重傷間違いなしな感じだから!!」
「目測換算、音速一歩前と言ったところでしょうか?」
「音が後からついてくるぜ――そして時代も俺の後からついてくるっ、ってこの台詞が俺の耳に入ってくるころには俺、ここにいないけどな!」
「旦那様、絶好調ですねっ」
「俺はいつでも絶好調さ☆」
「――失礼?」
「おわっ!?」
「ああ、旦那様が頭から失墜を……大惨事の予感で御座いますね」
「って足かけた本人が抜かしてんじゃねえよ!?」
「おや旦那様、持ち直しましたか?」
「当然だ!! それよりお前は一体どんなつもりで俺に足を掛けた!?」
「旦那様は仰られました。――騒ぐか、と」
「あ? ああ、確かに言った、そう言ったな。けどそれがどうした?」
「ならば旦那様のご期待に応えてこその私、否、応えない私など私であるはずが御座いませんっ」
「言いたい事は分かる。分かるが、だからと言ってそれと俺に大怪我させようと企むのとどうつながるんだ?」
「大怪我? 私を目の前にして旦那様にそのような危害を加えようなどと言う輩が存在していたとは――少々屠って参ります。何処においでで、その蛮勇なお方は?」
「俺の目の前」
「異な事を仰られます。旦那様の目の前と言えばこの世界に生まれてきたこと自体が奇跡、そしてスタイルすらももはやちんちくりん神すらをも超越してしまっている絶世の美女あるいは美少女しかいないではありませんか」
「……お前、良く自分で自分の事をそこまで言うよな」
「事実です」
「――まあ、認めるのは悔しいが事実は事実なんだよなぁ。いや、ちんちくりん女神の方はその通りだと即答してやっても良いけどさっ」
「それで旦那様、旦那様に害なそうとする輩は何処にいらっしゃるのですか?」
「だから、俺の目の前」
「旦那様もしつこいのがお好きですね? 先程申し上げましたが、旦那様の前には、」
「お前しかいねえよ。つか俺はさっきからお前の事を指して言ってる訳だが?」
「私が、旦那様に対して害を? 大怪我させようと企む? ――昔の事です」
「昔じゃねえよ!! ついさっきだろっ!?」
「今は懐かしい二人の思い出で御座いますね、旦那様っ」
「懐かしくもなんともねえよ!? 俺は今でもいつ足を掛けられるか戦々恐々としながら走ってるよ!?」
「其処まで怖がっておいでなら足を止めれば宜しいのではありませんか?」
「ふっ、ヒトってのはな、無防備にも怖いもの見たさと言う神をも殺す好奇心があってだな、」
「困ったものですね?」
「ああ、本当に。……本当に困ったものなんだよ、コレが」
「では、旦那様のご期待にお応えして、」
「隙有りっ」
「――私に隙は御座いません」
「ちっ、外したかっ」
「……まさか、旦那様が私に対して足を掛けて来られるとは――一体どう言ったおつもりですか、旦那様っ!?」
「どう言うもこう言うも、そのままだ」
「つまり旦那様はわたしに大怪我を負わせて、手も足も出せない私を看病したいと仰られるのですね?」
「……いや。てか、お前この程度のスピードでこけた程度で怪我とかするのか?」
「旦那様にされた仕打ちと言う事で心に大きな深手を負います」
「―――ふっ!!!!」
「……、旦那様、今の足払い、全くの躊躇いがありませんでしたね?」
「いや、何か唐突に気合が入ってな。気が付くと渾身の出来の足払いを放ってたぜ……アレが決まらないとは惜しい、惜し過ぎるっ」
「旦那様がやる気に満ち溢れている、と言うのは私にとっても嬉しい限りに御座います。良かったですね、旦那様?」
「ああ。……いや、しかしあれでも決まらないとなると、俺には打つ手がない……のか?」
「つまり手順は私の番であるということでしょうか」
「違うなっ、永遠にお前の番は回って来ない!」
「そうして旦那様にあれやこれやとされていってしまう私――まあ所詮旦那様の脳内妄想ですが、随分と従順な私もいたモノです」
「そして俺のターンッ、」
「えいっ」
「っ、っとと。な、何だ今の液体は!?」
「少々粘着性を持った、元青色ゼリーの王様のなれの果てで御座います」
「ああ、そう言えばいたな、そんなのも」
「ちなみに一応溶解液ですので、当れば溶けます、」
「あぶねえな、おい!?」
「主に服が。と言うより衣服だけが」
「色んな意味で危ないのなっ!」
「あ、手が滑りました」
「とか言いつつ自分の服に溶解液をこぼしてるお前は何様!?」
「旦那様、余り見ないで下さい。恥かしい……です」
「自作自演って正にこのことだよなっ」
「そのとおりです」
「……いや、自分で認めるのはある意味潔くもあるが。ほら、いい加減にしないと胸とかその辺りがポロリするぞ、ポロリ。誰かに見られたらどうするつもりだ?」
「ご心配なさらずとも、旦那様以外の男性に私の柔肌をお見せるつもりもは一切御座いません」
「いや、心配とかそれ以前に、外で露出とか、お前そう言う趣味?」
「旦那様ではあるまいに」
「いや、俺も違うよ!?」
「それは心外です」
「や、侵害されてんのは俺の方だよ!?」
「……胸のあたりがすーすーし出してきました」
「ほらっ、本当にいい加減胸隠せよ!? ――それともまさか本当に露出趣味とかに目覚めたか!?」
「――違います。それにもし見えたとしてもこの速度では旦那様以外に見えるものではないでしょう? 御心配には及ばないと、推測いたします」
「心配以前に! 俺に見られて困るとか恥ずかしいとか嬉しいとかそういうのはないのかっ!?」
「御座いません」
「ならいい加減、溶けかかったその服をっ、」
「直しました」
「――相変わらず仕事速いっすね!?」
「素肌が見えるか見えないか、その一瞬のチラリズム? と言うモノが重要なのです。要は如何に見せるようにして見せないか、旦那様の逞しくも悲しい程に虚しいその想像力を極限まで空回転させることが重要になってくるのです」
「……ゃ、俺の妄想から回転とかその辺りは置いておくとして、チラリズムの概念は分かるには分かるが。さっきのは何となく違う、違うと俺は思う」
「では次はスカートの端を次第に上げていくという少々破廉恥なチラリズム? を実践してみたいと思います」
「……いやー、音速近くで走ってるにも拘らず物理法則無視してスカート靡かせても居ない奴のセリフじゃないと思うんだけど?」
「では、すすっ――と」
「……」
「旦那様のさりげない横目が熱いです」
「ふ、ふんっ、お前がどうしてもって言うから見てやってるだけなんだからなっ! 別に俺が見たいとか、そう言う訳じゃないんだから!」
「はい、旦那様」
「分かっていればいい。分かっていれば!」
「はい。――では、続きを」
「……」
「すすす……はい、この辺りでしょうか?」
「見えそうで見えないっ、何だその中途半端はっ!? もっと豪快にガバッといけ、ガバッっと!」
「その辺りは旦那様の類稀なる妄想力でカバーして下さいませ。私は道中でスカートを巻くし上げるような破廉恥女では御座いませんので」
「さっき自分で自分の服を半ばほとんど溶かしてたやつの言うセリフかっ!?」
「その辺りはプロですので。重要な所は決してお見せいたしません。ええ、心得ておりますとも」
「プロって何のプロ!?」
「旦那様を焦らす、でしょうか?」
「……ああ、それはあるかもな」
「と、言う訳で旦那様、あ、いえ旦那様、少々宜しいでしょうか?」
「あん? 何だよ?」
「旦那様よりしばらく先に、巨木が旦那様の進路を邪魔しております、どうかお気を付け下さいませ」
「――ぶがっ!!??」
「……と、注意するには追いつく声が遅すぎましたか。ああ、何と無残な姿に、旦那様、お労しや」
「――痛ぇよ!? つか注意するならするでもう少し早くしろよ!?」
「はい。今後、考えて気に留めるだけ留めておきます。――実行はしませんが」
「意味ねえ!?」
「はい、全くで御座いますね、旦那様?」
走っている二人に意味がなければ会話の内容にも意味はない。
何かこう、無性に書きたくなった? 見たいな感じ。