PickUp 12. きょうしゅう
……今日もまた、ちょい遅れました。
30分くらい?
「――ん?」
それはヒトが最も気が緩む時間帯――夜明けと闇夜が交差する時刻。
彼、ルーク・サリウスはその気配に気付いた。
仮にもギルドの長である。その実力は折り紙つきとも言える。もっともギルド長としての仕事の関係上、明け方にたたき起こされるなどよくあること、という理由もあるが。
「……誰だ?」
「俺だ」
「――っっ!?」
相手の言葉と同時、ルーク・サリウスは起こした身体で一気に跳び跳ねた。
「――……貴様、レム・スズーチェ」
「よう、久しぶりだな、ルーク」
「貴様に慣れ慣れしくされる覚えはないっ! それに良くも此処まで来られたものだな?」
「ふっ、そう照れるなって」
「誰も照れてはいない!!」
「それにな、こんなところ来ようと思えばいつでも来れたさ、てか誰も好き好んでこんなところに来たくねぇよ」
「――何をっ」
「それに今は都合の良い戦力が手に入ったからな。――ぶっちゃけ、テメェのギルドを潰しに来た」
「……貴様、自分の言っている意味が分かっているのか?」
「ああ、当然」
「……狂ったか? 俺のギルドを敵に回すと言う事は世界を敵に回すと言うことと同じだぞ?」
「――ふふんっ、“俺の”ギルドとはでかく出たものだな、ルーク。つか、勝手に“誰”のギルドを私物化してるだよ」
「俺のギルドと言ったら俺のギルドだ。それに先程も言ったがよくもまあのこのことここまで来られたものだな」
「はぁん? それ、どう言う意味かな?」
「ふっ、そんな今更な、」
その瞬間、部屋の時間が止まった――かの様な錯覚がその場にいた二人を襲った。
が、それは一瞬のコト。
「あ、終わったわよ、レム」
気軽に。気楽に。
一人の少女が部屋の中に入ってきた。
その瞬間、ルークに思い浮かんだ感慨は如何程のものだったのか。
呆けた? それとも呆れた?
そのどちらでもあり、どちらでもない。
「……お前」
「お、スィリィ、早かったな」
「んー、なんて言うか、思ったよりも手ごたえなかったのよね」
「いや、手ごたえなかったって、……仮にもギルド総本部に詰めてるのは殆んどランクAオーバーの奴らだった気が……」
「そうなの? 雑魚ばっかりよね」
「……あれ、俺の勘違いだったのかな?」
ルークが言いかけた言葉は全て、直後の二人の会話に封殺されて――そこで態度を改めた。
「……どうやら本気で世界を敵に回しに来たらしいな、レム・スズーチェ。それとそちらのは確か――スィリィ・エレファンだったか? ギルドランクBの、」
「て、スィリィってギルドに入ってたのか?」
「あ、うん。まあアイネとアレフのつき合いで一緒に……ね? まあ正直ギルドなんてどうでもよかったんだけどね」
「つか、スィリィがBランク? 間違い過ぎてないか?」
「ランクなんてどうでもいいのよ」
「ま、それもそうだな。俺なんてランクFだしな」
「ランクF……ぷっ」
「笑うなよっ、つか、そんな事はどうでもいいとして……取り敢えずそこにいる護衛なし、丸裸のルークちゃんをぶっ潰しておかないか? ほら、デバガメされるのはスィリィだって嫌だろ?」
「……でばがめ?」
「ああ、いや、知らないんなら良いんだけどな」
「?」
「取り敢えず、その男をブッチしときましょって話だ」
「あ、うん。分かったわ」
「よし、じゃあ殺れ、スィリィ!」
「わか――……って、思えばレム、全然、全く、何も、何一つして無いじゃない」
「当然だっ」
「何かそれって、私だけが働いてて不公平じゃない?」
「いや、全然。そもそも俺が手を出すとまるで俺が共犯者みたいになるじゃないか」
「は? 何言ってるの?」
「スィリィ、主犯。俺、無関係な他人。オッケー?」
「うん、――全然オッケーじゃないわよっ」
「大丈夫だって。罪は全部スィリィが被ってくれるって言う予定だしっ」
「予定だし、じゃないわよ、初耳よ、ソレ!!」
「当然だ。今、初めて話したし」
「……」
「と、言う訳だからスィリィ。ごー」
「よしっ、レム――“殺っちゃおう♪”」
「っっ――いや、何で俺!?」
「ちょっと! 避けないでよ!!」
「イヤ避けるわっ!!」
「っ、もう面倒――“全てを滅せ、ワールド・デストラクション”」
「逃げ道は――……無いかぁ……」
その日、ギルドのの総本部が何者かに襲撃、壊滅されられた。
◇◆◇
「ふー、死のかと思ったー」
「え、何で無傷なのよ!?」
「まあ、俺だから。後な、スィリィ。後先考えずにあんな広域殲滅魔法を使うもんじゃないぞー? 無駄な殺人とかしてると、怖~い女神サマがお仕置きにやってくるしな」
「さっ、殺人とか、別に私はそう言うつもりじゃ……」
「いや、アレ、普通に死人出るからな? つか、普通に考えて生き残りの方が皆無だからな?」
「? でも不思議よね? そこの……名前を忘れちゃったけど、ギルドの長、だったっけ? 何か凄く弱いヒト、気絶してるだけじゃないの?」
「俺が助けましたー。この辺りで気絶或いはスィリィにぶちのめされて瀕死状態だったりした奴ら全員。……全く、無駄な労力使わせやがって」
「え? レムってそんなこと出来るの?」
「いや、俺が出来るってわけじゃないんだけどな。ちょいと館の宝物庫から拝借してきたマジックキャンセラ……と言うより、周囲の魔力を吸い込むマジックアイテムなんだけどな、吸引力が強すぎてアホみたいな効果になってると言う代物で……、と。兎に角それでスィリィの魔法の効果を打ち消した」
「……ふーん。あ、もしかしてその羽っぽいヤツのこと?」
「そう。……つか、良く気づいたなぁ、スィリィ。見かけ単なる羽なのに」
「んっ、何となく、妙な感じがするし、ソレ」
「へぇ……流石は“冰頂”の、……まあ、女帝、ってところか?」
「女帝……何となくいい響きね、それって」
「……いや、言葉を間違えたかも。どちらかと言えば女王様?」
「這いつくばりなさい、ポチッ! ……ってやつねっ」
「違います」
「えー」
「ま、取り敢えずギルド潰すって言う目的は完遂した訳だし。ついでに言えばスケープゴートはちゃんとスィリィにやってもらえそうだしっ。何と言っても実害付きっ♪」
「――そう言えばそんな事を言っていたわよねぇ。レム、私をスケープゴートにとかって、……覚悟はいいわよね?」
「え、ナニ? 覚悟って? スィリィが俺のものになる覚悟のコト? オッケー、来いっ」
「っっ、え、いや、そう言う覚悟とかじゃなくってっ!!」
「んん~……、――よしっ、予定通りっ!」
「とっ、兎に角っ、私が地獄に落ちるって言うのならレムっ! あなたにも付き合って貰うんだからねっ!!」
「断ります。誰が好き好んで地獄なんかに落ちるものかよっ」
「……とっ、兎に角レム!」
「うん?」
「覚悟しなさい!!」
「イヤ。つかスィリィ、大丈夫か? 早く逃げないと大変な事になるぞ?」
「――私が逃げるんならレムッ、貴方も一緒よ!!」
「え、あ、おい――」
「今度は私がレムの手を引っ張っていく番なんだからっ!! 逝くわよっ、レム!!」
「……ゃ、何か“行く”の意味が違う気がするっ!?」
「つべこべ言わずっ、逝きましょ、レム!!!!」
「ぉ、ちょ、スィリィ、手を引っ張るなよ、手をっ……」
「……――ふふふっ、あははははっ、何かっ、何か楽しいわ、これっ♪♪♪」
……あれ???