ど-562. だって、女の子だもん
悲しいからこそ、涙が出ちゃう。
……メイドさんが寂しがってる今日この頃。と言うか、今一番不幸な状況にあるお方ですね。
「旦那様が恋しいです、――……ふぅ」
『いいねいいねー、色っぽいよー、恋する乙女だねー』
「チェンジ、」
『しつこいぞ!』
「しつこかろうがねちっこかろうが何度だろうと貴女が路傍の石以下の存在になるまで続けます」
『――全く、どうしてこうも性格が悪いんだろうね、この娘は。そんなんじゃこの厳しい世の中、生きていけないよ?』
「御心配には及びません。私は心も広く性格も貴女以外には大変いいと旦那様を除く広い方々から好評をいただいておりますので。そもそも、貴女にそんな事を言われる筋合いは御座いません」
『ああ言えばこう言うって言うのはこの娘の様な事を言うのかね?』
「ならばご期待に添えるよう、私の思いの丈全てを一言にまとめて、お贈りする事に致します。――消滅しろ」
『嫌よ。何が悲しくて第二の人生謳歌中なのを放棄しなくちゃいけないのかね』
「私の平穏の為に是非」
『知ってる? 昔の偉いヒトはこう言ったのよ――まあ、私のコトだけど、ヒトの不幸は蜜の味、私の幸せ、キミの不幸せ』
「それには同意、――特に旦那様の困り顔などには胸の奥に擽られるものが御座いますが、それとこれとは全く話が別です」
『嫌な娘だねー。ヒトの不幸はいいけど、自分の不幸は嫌だって? 流石、それでこそ私の孫ねっ!』
「勝手に孫にしないで下さい、この残念思念」
『なんだい、まだ認める気がないの?』
「認める気も何も私は路傍の石、いえむしろ宙に舞う塵芥ほどの価値もない貴女となど何一つ関係は御座いません、と何度も申し上げているはずですが?」
『しつこいねぇ。何よりこの銀髪が龍種王族、まあ私の家族って証じゃないの』
「では、こんなのと同類と取られるより先に、今すぐ脱色ないしは髪を染めねばいけませんね」
『こらこらこら。この子は髪の色がどれほど大切か分かってるのかね』
「少なくとも残念体と同類に見られるよりは――、いえそもそも私が残念体如きに合わせる必要性は全くありませんでしたか。手っ取り早くその髪、全て毟り取りましょう」
『な、なんて恐ろしい事を考えるんだろうね、この娘――!?』
「? 何のことでしょう」
『今、貴様は間違いなく全世界の中年男子を敵に回した!!』
「むしろ襲いかかってくれば全力で打ち倒しますが?」
『それもそうねー』
「ええ」
『……』
「……――ふぅ、しかし私は本当に何をしているのでしょうね。このような残念体に憑き纏われて、……旦那様などどうせ旦那様のことです、どちらか女性の方といちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ――」
『えーと、おーい、帰ってきなさいー?』
「乳繰り合っているのでしょうね。ふぅ、私の不幸を少しは旦那様にも分けて差し上げたい」
『――しかし今でも驚きだねぇ。あんたみたいな娘がヒトなんかにそこまで入れ込んでるなんて、』
「旦那様を貶すと言うのならば本当に消滅させますよ?」
『おお怖い怖い。別にけなしちゃいないよ。どちらかと言うと素直に褒めてるだけさ。随分と罪作りな男の方をね』
「……まあ、確かに旦那様は罪作りなお方ではありますね。――大半が冤罪と言う名の罪状ではありますが。まあそれも日頃の行いの所為、自業自得と言えなくもないので旦那様には諦めて頂くほか御座いませんが」
『――でも、あんたも口を開けば旦那様、旦那様。だねぇ?』
「惚気です」
『あー、はいはい。もう御馳走様って感じだね』
「本当に、欠片でもそう思って下さったのであれば、即刻私の知覚の外へ退場願えませんか? ウザいです、消えろ残念思念」
『……本当に、そう言う攻撃的な所は誰に似たのやら』
「――旦那様は何処に……と、期待するだけ無駄なのでしょうね。旦那様のことですから、いつもの如く私から探し回っても全くの無駄、むしろ全てを諦めたころに計ったように逢えますか。……いつになる事やら」
『ほら、めげないめげない。――お、あっちから良いにおいがするねぇ』
「……何か、本気で泣きたくなってきます」
……ほろり。