PickUp 10. 天上天下
……何かメイドさんの影が薄いなー
残念思念こと、“白”ルーロン vs めいどさん
「――さて、」
くすんだ銀髪の、メイド服に身を包んだ女は一息ついて。
自分の心を落ち着かせるように一息ついて、彼女は目の前の現実に目を向けた。
彼女の“旦那様”のベッドの上でものすごーく寛いで、むしろ寛ぎまくっている半透明のナニか――見事な銀髪の絶世の美女へと。
『あー、うん。私の事は気にしなくていいわよー。それとお茶菓子お変わり欲しいんだけど、早く持ってきてくれない?』
「色々言いたい事は御座いますが、取り敢えず――」
『聞く耳なーし』
「帰れ」
『帰れって言われてもねー。私の家、此処だし? と言うより冷たいぞ我が孫よ』
「勝手に孫にしないで下さい、この食い逃げ常習犯の犯罪者」
『私が犯罪者? おほほ、おかしなことを言うのね。この世は私が法、私が正義。つまり私に逆らう方がむしろ犯罪者な訳よ。分かったかな、我がひ孫よ?』
「勝手にひ孫にしないで下さい、この残念思念」
『残念だなー。おばあちゃんは悲しいぞー』
「勝手に悲しんで下さい。と言うより全力で今すぐ消えて下さい、――始祖龍ルーロンの残念思念」
『……よよよ』
「――目障りなので消えて下さい」
『いやー、酷いねー。そんな酷いこと言う娘にはちょっとばかりお仕置きが必要かな? ――なんて』
「娘でもありません。それにお仕置き? 出来るものならばやってみたらどうですか? 返り討ちにして差し上げます」
『………、若いねー。いや、若いわねー、このひひ孫は』
「ひひ孫でもありません」
『なら――よしっ、いっちょ揉んであげようかね?』
「――常命の刃よ」
くすんだ銀髪の女の片手に光の帯の様な、白い光を発して刃が形どられる。
『――“白刃”、ねぇ。それが何より私の血縁の証だと思うのだけど?』
「既に死した魂――今更懺悔は必要ありませんね、ルーロン」
『懺悔? 何それ、美味しいの?』
「――参ります」
とたん、女の姿が消え――同時にベッドが消えた。
そしてごく平然とベッドのあった場所に浮いている半透明のナニか。揶揄するように笑っていた。
『青いねぇ。その程度、私にかするとでも思ってる?』
「――いえ、仮に残念思念だとしても相手は始まりの白龍、ルーロン。この程度――準備運動にもなっていないでしょう?」
『二人とも、ね?』
「――常滅の刃よ」
くすんだ銀髪の女の――白刃とは逆の手。今度は黒い光を纏って刃が形成される。
『ふーん、そんな面白い事が出来るんだねぇ。流石は私、とは言っても私の元になってるルーロンのことだけど、が睨んだ通りだね。ソレ、【厄災】の力でしょう?』
「予め、言っておきます」
『ええ、何かしら?』
「白刃、黒刃、どちらも掠り傷が致命傷です。たとえあなたが思念体であろうが何だろうが、関係はありません」
『そんな当たり前の事今更言われてもねぇ。白刃は“始まり”へと還す創世の刃。黒刃は“終わり”へと誘う破滅の刃、ってところかしら? そんな物騒なものをおばあちゃんに向けて、怖い子ねー』
「貴女は私の祖母では――御座いません!」
『確かに、私は所詮ルーロンの残留思念だしね。――白刃』
同様に、半透明のナニかの片手に白い光の刃が創り出されて――一閃された。
「――っ、」
互いの白い刃が殺ぎ合う様に重なったのはほんの一瞬だけ。
『……ん? この程度?』
くすんだ銀髪の女の白刃が消滅する。すかさず放たれていた黒刃も一瞬のタイムロスもなく半透明のナニかの白刃によって跡形もなく消え去る。
白刃は一閃されたが、既にその場にくすんだ銀髪の女の姿はなかった。
『――いや、違うね。……ああ、あの子に力を封印されてる? ――してもらってる?』
「……――創滅の刃よ」
『創滅? 創造と、破滅の力の掛け合わせ? ――ははっ、あはははっ、面白い事するわねっ、あなた』
「――確実に、屠ります」
瞬間、またもや女の姿が掻き消えて――
『無理だって、その程度じゃ』
「っぁ!!??」
始めに床が抜けた。そして彼女が床に叩きつけられて――遅れて、ようやく轟音が鳴り響いた。
――ドゥゥゥゥゥ!!!!
『能力のほとんどを封印した状態でおばあちゃんに勝てるとでも思ってるのかね、この子は』
「――貴女の存在は非常に苛立ちますので、独断で排除します」
『無理だね』
「っい――」
――ドゥゥゥゥゥ!!!!
音が遅れて、再び彼女が地面へ叩きつけられる。
『学習能力はちゃんとあるでしょ?』
「――」
三度目。
部屋の中へと跳んで戻ってきた彼女を待っていたのは彼女の三十二方を囲む光の刃の包囲だった。
ピクリとでも動けば、それが掠り傷の致命傷に成りうる――
硬直したまま動かないくすんだ銀髪ん女を見て、半透明のナニかは満足したように頷いて。
――片手を振った。
ただそれだけで先程までの破壊の痕跡がきれいさっぱり、消えてなくなる。
くすんだ銀髪の女を囲んでいた白刃を消して、全く元に戻ったベッドへとそのまま体をダイブさせて、半透明のナニかは。
『ほら、今のままじゃ敵わないって事が分かったら、早くお茶菓子もってきてー』
最初と同じ言葉をほざいた。
「……」
『茶菓子はー? まだー?』
「……畏まりました、――この年増で枯れた耄碌婆」
◇◆◇
惨事は繰り返した。
――メイドさんを活躍させねば!
……とかと思って書いたら何やらへんな事に? あら不思議。