55. どれいとさいかい
~これまでのあらすじ~
婦女暴行を仕掛けて捕まったレム(?) いつもの如く脱走するが、自業自得で再び捕まって、牢屋の中に逆戻り……がこれまでの流れ。
昔々、大国間同士の戦争とか何とか言ってた気もするけれど今は昔はお話しです。
ステラ・・・シツテルの街の警備員の一員の女の子。レム談ではそれなりの美少女らしい?
サリア・・・何処かの小さな町の、宿屋の娘さん。器量よし。性格良し、の凄くいい子。でも何故かレムの事を“レム兄”と呼んで慕って(?)いたりする。レム君の奴隷の万能っ子マレーヌとは親友同士?
クリステル・リュートリアム・・・W.R.第六位の女傑さん。恰好は商人風な、守銭奴。はつとーじょー?
「やっ! また会ったネ☆」
「……」
「そんなにはっきりと怖がらなくても良いじゃないか、ステラ」
「……キミ、よくもまあまた私の目の前に姿を見せる事が出来たよね?」
「や、どちらかと言えば俺がステラの前に来たんじゃなくて、ステラの方が俺の前に来たんじゃね?」
「――ちっ、違うわよっ! ……と言うよりキミに聞きたい事が一つあったんだよ」
「聞きたいこと? うん? 恋人なら絶賛歓迎中だぞ?」
「違うわよっ!」
「なら何を聞きたいんだ? 他に俺がステラに教えられることなんて何一つないぞ?」
「……に、何かしたでしょ?」
「ん?」
「私に、何かしたでしょ?」
「は?」
「……気絶してる間に、私に何かしたでしょ?」
「何かって、ナニ?」
「そ、それは……その、……何かえっちなこととか……」
「いやんっ、ステラちゃんのえっちぃ~♪」
「な――なんでそうなるのよっ!?」
「どうせ俺のこの豊満な肉体で何か嫌らしいことでも想像してたんだろっ、スケベなステラちゃんっ!」
「ちがっ、違うっ!!」
「ふふーん、慌てる所が怪しいねっ」
「っ、……――ッて言うか、キミ自分の立場ってものをちゃんと分かってるよね? 痴漢犯罪者に加えて脱走の罪も加わったんだよ?」
「うん。でさ、正直なところ俺の待遇ってどうなってるわけ?」
「ん? シケイ」
「死刑!?」
「うん、私刑」
「いやっ、いくらなんでも死刑って、そんな急展開ありなのか!?」
「ありに決まってるじゃない。むしろありあり。私もキミに恨みありありだから」
「や、恨みとか言われても、つかステラに恨みを買うようなことした覚えないんだけど?」
「……脱がされてた」
「――え、なんて?」
「服、脱がされてた」
「……」
「キミ、私が気絶してる間に私に何かしたでしょ?」
「……」
「ほらっ、黙ってるのがその証拠!」
「……――あっっっんの、マレーヌぅぅぅ、余計な事をしやがってぇぇぇ!!!」
「な、……何っ、そんなに大声出しても、驚かないんだからねっ。脅しになんて私は屈しないっ」
「……あー、コホン。いや、驚かして悪かった」
「今度は甘い顔? 鞭の次はアメってわけ? ふんっ、そんな見え透いた手にだれが乗るのよ」
「ふ、ふふふ。マレーヌめ。流石に今回はやり過ぎたようだな。俺を怒らせるとどうなるか、目に物見せてやる……」
「な、何を笑ってるの? ――あ、まさかまた脱走を、っっ!!」
「――俺を閉じ込めておける檻などっこの世に存在しなぁぁぁぁ」
「「「「「少しでも動けば、その首を切り落とす」」」」」
「はい、動きません。無駄な抵抗も一切致しません。ですのでどうかご勘弁下さい」
「何度も脱走しようたってそうはいかないよ? ……対策とっておいてよかったぁ」
「ふっ、まさか俺も立ちあがった瞬間に剣よ槍よと突き付けられるとは思ってなかったぜ。しかもごついおっさんばっかり。槍とか突き付けられるんなら俺は可愛い女の子を所望するぞ!」
「「「「「――」」」」」
「キミ、ちゃんと自分の立場を理解してる?」
「俺が悪かったデス。仕方ないので可愛い女の子はステラだけで我慢しておくとしよう」
「……本当に、迂闊なこと言うと本当にその首が飛ぶよ?」
「ゴメンナサイ」
「この前は不覚を取ったからね。警備隊の皆も、私ももう油断してキミの事を甘く見ない事にしたんだよ。それに――まさか他の国から指名手配がかかってるとは思ってなかったし、ね」
「……指名手配?」
「そ。やっぱりキミって凄く極悪非道な犯罪者なんだね? よりにもよってあの大国……スフィアの、それも王女直々の指名手配って、一体どんな恨みを買ったのやら」
「……リッパーか~」
「連絡はもうとったから、もう少ししたらキミを捕まえに誰かが来てくれるはずだよ。ふふんっ、年貢の納め時だね?」
「……なあ、少し不思議に思ったんだが、一つ聞いても良いか?」
「……、――何?」
「や、そんな今さら俺を取り囲んで、そんなに警戒しなくても良いんだけど」
「――何?」
「いや、な。単純な疑問なんだけどさ、王女様直々の指名の、そんな“大物”をこの程度の事で捕えられるってステラたちシツテルの警備隊はそんなに甘い認識なのか?」
「――」
「ふっ、いざとなったら俺がこの指を一度鳴らすだけで――」
「――動かないで」
「……、や、流石に指鳴らしただけでどうなるとか、一切ないんですけどね。と言うか皆さん、剣とか槍、どけてくれません? 俺しがない一般庶民何で、こんなことされたらもうショックで気絶しそうなんですけど?」
「――」
「まあ、そんなに警戒しなくても。つか、さっきのは本当に口から出ませなんだけどなー」
「――」
「……第一、態々指なんて鳴らす必要、」
「「「「「「――っ!!」」」」」」
◇◆◇
「レム兄――やっと居た!!」
「人違いだ」
「そんなわけないでしょっ、レム兄っ、ずっと探してたんだからねっ!!」
「だから人違いだと言っているだろうが、サリア」
「私の事サリアって呼んでる時点で全然人違いじゃないよっ!?」
「はっ、しまったっ!!??」
「……ちょっとわざとらし過ぎるかも」
「んっ、今のは流石にそうだよなー。というわけでサリア、久しぶりだなっ」
「うん、そうだね。レム兄がまた急に姿を消してから、だねっ」
「と言うかサリア、こんなところでどうしたんだ? サーシャが心配してないか?」
「お母さん? ……てへっ、黙って出てきちゃった」
「……はぁぁぁぁ、サーシャも可哀想になぁ。――いやちょっと待て? でもそれだと状況的に俺がサリアの事を攫った、とか言う感じに誤認されたりしてね? って、流石にソレは勘ぐり過ぎかー」
「あ、うん。それは大丈夫だと思う。成り行き上お母さんには黙って出てきちゃったけど、何かマレーヌちゃんがちゃんとお話しつけておいてくれたって言ってたし」
「……ふっ、終わったな、俺」
「? どうしたの、レム兄?」
「そしてまた俺の冤罪伝説が生まれる訳か。……俺、何も悪いことしてないのになー。至って普通の、ただの善良な市民なのになー」
「善良な市民さんはお空から降ってきたりしないと思うよ?」
「善良な市民三にだって事情があるんだよ、サリア君」
「ふーん、そうなんだ。でもレム兄が言うと全然説得力がないよね?」
「それは俺に対するサリアの認識がねじ曲がってるせいだ!!」
「そんな事、ないと思うけど? マレーヌちゃんとだってレム兄に対する意見は凄く合うしー」
「ほれ見ろっ、それがねりレ曲がりまくってる何よりの証拠だ!!」
「えー」
「えー、じゃない。えー、じゃっ」
「……ねえ、それよりもさ、レム兄」
「ん? 何だどうした、サリア?」
「レム兄、牢屋に閉じ込められちゃって、また何かやっちゃったの?」
「――っ、はっ、待ってっ、キミ、そこの犯罪者とどう言う関係――」
「おいお前ら、汚い手でサリアに指一本触れてみろ。ただで済むと思うなよ?」
「「「「「「「「――っ、」」」」」」」」
「と、言う感じにちょっと渋めにしてみたけど、どうだった? なあ、サリア、どうだった??」
「うん、まあそれなりに恰好良かった……かな?」
「ふっ、そうか――」
「た、だ、しっ!」
「?」
「レム兄には全然っ、全然似合ってなかったからっ! 今後一切そう言うのは禁止っ、駄目だからねっ!!」
「……そうか、似合ってなかったか」
「うんっ、全然!」
「……おっかしーなぁ。今のは俺、結構決まった様に思ったんだけどなー。具体的にいえばサリアが俺に惚れ直したりなんてしちゃうくらい?」
「……」
「? サリア?」
「うんうん、惚れたねー。レム兄に惚れ直したねー、私。……これで良いの?」
「ゃ、そこまで開き直られると胸の中がとても寒いです」
「……これでも勇気出したつもりなのに。何か胸のあたりがムカムカするー」
「?」
「何でもないよっ」
「変な奴だなー」
「変なのはレム兄の方っ、また今度はどうして捕まっちゃったりしたのっ!?」
「いや、ちょっと婦女暴行――」
「――したのっ!?」
「してねえよ!」
「――したのっ!?」
「何で二度繰り返すっ!?」
「うん、私はちゃんと、レム兄の事は信じてたよ?」
「サリア、その台詞、俺の目を見てもう一度言ってみようか?」
「……、レム兄、ちゃんと罪は償わないと駄目だよ? それにそんなにもんもんしちゃってるんだったら……な、なんだったらわた、」
「いや、だから俺は何もしてないっつーのっ」
「……」
「そんな疑わしげな目で見られても。冤罪だっ、全ては世界の陰謀が巻き起こした俺を陥れるための罠なんだ!!」
「……へー」
「絶対信じてないよなっ、サリア!!」
「うん」
「素直な事って必ずしも美徳じゃないんだぞ!?」
「レム兄も嘘ばっかり吐いてじゃダメだよ?」
「俺は嘘なんて全くついてないよ!?」
「大丈夫、私はちゃんと分かってるから」
「いや、絶対全然分かってないね!」
「……んっ、こうやってちゃんとレム兄の顔見て、お話ししたら少しだけ安心したよ。……レム兄、また急にどこかに行っちゃうのは駄目なんだからね?」
「……、あ、ああ。それもそうだな、サリア、悪かった」
「悪いなんて思ってないくせに。だから男のヒトってずるい」
「や、そんなこと全然ないぞ?」
「……レム兄は嘘つくの、凄く上手いから」
「だからそんなことないってっ」
「……――レム兄って各地に地方妻」
「まあなっ!」
「ほら、嘘ついた」
「嘘じゃないよ!? 今のは嘘じゃないですよ!?」
「それはそれでさいてーだよ、レム兄。……まあ、間違いなく嘘だろうけどっ」
「……くっ、何か非常にバカにされた気分だぜ」
「バカにしたんじゃないよ。それに嘘つくレム兄が悪いのっ」
「ふっ、まあ良いさ。此処は俺が悪者でしたって事にしておいてやろう」
「ふふっ、そだね。そう言う事にしておこうねっ」
「ああ」
「じゃ、レム兄の顔見たら安心したから、私はこれで帰るね?」
「……え?」
「じゃ~ね、レム兄~。また来るから。勝手に逃げちゃダメなんだからね~」
「あ、いや、サリア、ちょっと待て、いや、俺を助けてくれるんじゃないのかっ!?」
「じゃね~」
「ゃ、サリア? え、マジで? 本気? え??」
◇◆◇
「あ、あんな子まで籠絡しているなんて……さすが犯罪者、ってところなのかな、キミ?」
「――ああ、そう言えばまだ居たな、お前たち」
「ま、まだ居たなって、」
「ふんっ、仕方ないからまだ捕まっておいてやろうっ、こんなところいつだって逃げられるんだけどなっ!」
「――へぇ、それは助かるね。大人しくしてくれてるんだったら、こちらとしてもありがたいよ」
「あん?」
「――あ、貴女は、」
「クリステル・リュートリアム、ギルドの依頼でそこの変態を護送しに来た。受け渡し、良いかな?」
「わ、ワールドランク第六位、金奴の――?」
「イッツ、フラーイッ!! アイキャン、俺は飛ぶぜ!!!」
「あ、逃げ――」
「――今度こそ、逃がさないよ?」
◇◆◇
「なーんーでー、こんなところにクリスが居るんだよっ!? つか俺、どれだけ運が悪い訳っ!!??」
……この話の流れ、何処に行きつくのでしょうか、と時々思ったりする。