ど-547. まあ、御縁もありますね
きっと何か大切なものを掛けた鬼ごっこ、開始。
「うぉ!?」
「きゃっ!!」
「――痛……く、ない?」
「っ、一体何が……」
「……ふむ?」
「ゃんっ!?」
「何か柔らかいものが……?」
「――ッ」
「だが敢えて二の轍を踏もう!!」
「ゃ!!」
「ふむ、やっぱり柔らかい。これはズバリ――ム」
「“死に曝せ”――この痴漢!!!」
「ネぐふぉぉぉ――、と直撃喰らうとでも思ったかっ、甘いわ!!」
「なっ!? 避け、……ぇ?」
「……ん?」
「な、な、な……」
「よっ、スィリィ。こんなところで逢うなんて奇遇だな。元気してたか?」
「レム・アイリアス!!??」
「そう名乗っていた事もありました」
「な、何でこんなところにっ!?」
「それはな、語るも涙、聞くも涙な経緯があってだな。まあ一言でまとめると家から追い出された」
「それって全然涙誘ってないわよっ!!」
「そうか? 俺としては切なさいっぱいなんだが?」
「それはレムだけ――と言うよりも何でこんなところにレムが居るのよ!?」
「いや、だからさっき言った通り、家から追い出され――」
「そう言う事聞いてるんじゃなくてっ!!」
「ん~、とは言われてもなぁ。むしろここ何処?」
「何処って……タイプー山の頂上」
「ああ、成程。タイプー山の……って、タイプー山に登ってた無謀な奴ってスィリィの事だったのかー。なら納得だな」
「無謀って、何がよ?」
「いや、よくもまあ、魔法も使えない、凶悪生物の棲み家になりまくってるこんなろくでもない山に登ろうなんて事考えたなぁ、って事」
「全然、碌でもなくないわよ。大体、こうしてレムに逢うことだってできたし……」
「や、まあ普通にこんな所に登ってくるのは自殺志願者くらいのものだと思うぞ?」
「私は自殺志願者じゃないわ! むしろレムを殺したい……」
「それは止めてくれ」
「しっ、仕方ないわね。レムがそこまでどうしてもって懇願するんだったら……」
「いや、別にそこまでどうしてもって、そもそも懇願なんてしてないし――」
「死にたいの?」
「スィリィ、キミは最高だゼ☆」
「なっ、……何を急に変な事を言いだしてるのよっ、バカレム!!」
「いや、まあ、嘘も方便な訳だが」
「――やっぱり殺しても良いかしら?」
「やだなぁ、スィリィ。軽い冗談じゃないか、ハハハッ~♪」
「そうよね、私も冗談よ、――フフッ」
「その笑い方と迸る殺意が既に冗談の域じゃないのだがっ!?」
「――此処で逢ったが十年目よっ、レムッ、――覚悟!!」
「うお!? ……と、言うかスィリィよ、覚悟と言われても俺は何を覚悟すればいい訳だ?」
「そ、それは……その。」
「その?」
「うーあーもうっ!! このバカレム!! 今まで散々探したんだからねっ!!!!」
「ふっ、どれだけ探しても見つからず、むしろ探してない時に現れるのがこの俺のポリシー」
「とっ、兎に角! ――見つけたからにはもう逃がさないわよ、レム」
「……ん~、取り敢えず状況が今一分からないんだが。俺のそもそもの目的のためにも此処はスィリィに乗ってやろう」
「――目的?」
「ふっ、俺を捕まえる? それはどうかな、おぜうさん」
「……どう言う意味よ? それと目的って、何? また女? また他の女なの?」
「それは仕方ない事なんだよ、スィリィ。俺が女の子を求めるんじゃない! 世界中のありとあらゆる女の子の方が俺に集まってくるんだ!!」
「取り敢えずその顔がムカつくから一発殴らせなさい」
「断る! 大体スィリィ、キミにこの俺を捕まえられると思いか?」
「……姿が見えていればこっちのものよ。私だって、ただレムの事を探してたわけじゃないんだから!」
「よっしゃ! その挑戦、受けて立とう!! カァモォ~ン、マドマァゼェェル?」
「何か異様にムカつくわねっ――“蒼月の調べに凍て咲け冰頂”!!」
「お?」
「ッ――捕まえた!! レムッッ、この私から逃げられると、」
「……ま、空間凍結程度じゃなぁ~? ほら、スィリィ! うふふ~、わたしを捕まえてごら~ん?」
「キモッ!? って、何で普通に動いているのよ!?」
「俺は今、時間と空間を超越した!!」
「訳わかんないわよ!?」
「スィリィ、お前には今まで見せたことはなかったが……俺のとっておきの技を今、お見せしよう」
「と、とっておきの、技……? な、何を、」
「イッツァ!! ――大☆爆走!」
「へ? あ、……ぇ? ――ッッ、逃げられた!?」
館ではシャトゥが来襲している頃のお話。
さあ、鬼ごっこの始まり……だ?
やんや、やんや。